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その二

新聞小説の連載が無事に終わり、梢から出版会議で企画が通ったことを聞かされた笑理は、早速新作小説の執筆を始めていった。

梢と交際をスタートさせてから、思えば初めて仕事を一緒にすることに気づいた笑理は、これまで以上に執筆に対しての集中力を高めていった。書斎兼作業部屋にあるデスクには、創作に関するメモやアイディアを殴り書きしたノートがあり、笑理はそれを見ながら作品を執筆している。

初稿を書き終えるまでの二ヶ月間、笑理は執筆に専念するために梢とのデートも行わない徹底ぶりだった。梢も考えを尊重してくれたことで、笑理は安心して執筆することができたが、初稿を書き終えた後も創作に対する時間を惜しまないほどである。

集中して聞こえなかったのか、ふとインターホンが何度も鳴っていることに気づいた笑理は、慌ててボタンを押した。

「笑理、いる?」

インターホン越しから聞こえたのは、梢の声だった。

「ごめん、今開けるね」

仕事終わりの梢は、コンビニスイーツを差し入れするために来てくれたのだ。

「初稿執筆、まずはお疲れ様でした」

「ありがとう。直しがあったら、いつでも連絡して」

「これから、じっくり読む。ようやく前の作家さんの修正が終わったから」

「同時進行で、何人もの作家さん抱えて大変だね」

「まあ、それが仕事だから」

苦笑して答える梢に対して、笑理は改まったように姿勢を直した。

「どうしたの、笑理?」

「あのさ、梢。今の作品が書き終わるまで、プライベートで会うのはやめない?」

考えた末での笑理の決断であり、梢に告げるのには随分と考えたものである。梢は優しく微笑んで、

「良いよ。笑理……いや、三田村理絵先生が良い作品を書くためだもんね。私もその間、編集者として装丁デザイナーさんや校閲部の人たちと協力して、三田村先生の新作を形にできるように頑張るから」

「ごめんね……梢」

「気にしないで」

梢がそう言い、二人は袋から出したプリンを食べ始めた。

「美味しいね」

と、梢は微笑んで笑理を見たが、笑理には梢の顔の奥にある寂しさを感じ取っていた。


自身のマンションに帰宅した梢は、靴を脱ぐなり玄関で小さくしゃがみ込むと、めそめそと泣き始めた。笑理の気持ちは理解していたが、仕事でいくらでも顔を合わせられる笑理と、プライベートで会えないということがこんなにも寂しいものなのかと。

「笑理……」

梢はブレスレットを強く握りしめながら、脳裏に笑理のことを思っていた。

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