金曜日の晩から、梢は明日のデートが楽しみで、まるで小学生の遠足前日のように寝付くことができなかった。笑理と再会してからというもの、マンションでお泊まりをしたり、笑理の小説を借りるのを口実に公私混同で会っていたが、デートというのは初めてであった。
そして翌日。寝不足ながらも早起きした梢は、私服選びに苦戦していた。笑理とは何度も会っているが、デートとなると話は別で、街を笑理と一緒に歩いて恥ずかしくないものにしなければいけないと、使命感のようなものがあった。
髪をセットし、化粧も完璧にした梢は急ぎ足で、集合場所である駅に向かった。
改札口を出た梢は、遠目ながらも噴水の前で佇む笑理の姿に気が付いた。クリーム色のシャツに、紺色のテーパードパンツ姿の笑理は、スタイリッシュな大人コーデで、細く見えるシルエットがより魅力的だった。かたや時間をかけて決めた梢のファッションは、デコルテから肩までが出ている白のオフショルダートップスに、デニムのロングスカートである。
「笑理!」
と、梢が大きく手を振ると、気づいた笑理も微笑んで手を振り返した。
「ごめんね、遅くなって。服装どうしようかと思ってたら、時間かかっちゃって」
「可愛いよ」
笑理にそう言われると、梢の顔には思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
笑理に手を握られ、梢は一緒に街を歩き始めた。
土曜日の街は、家族連れや友人連れ、カップルなど、人ごみであふれていた。その中で、梢と笑理が手を繋いで歩いていても、決して違和感はなかった。
映画館で映画を見た後、二人はオープンカフェに足を運んだ。注文したパンケーキを食べながら、笑理がふと呟いた。
「私ね、いつか自分の書いた小説がメディアミックス化されるのが夢なんだ」
「笑理の小説……いや、三田村理絵先生の小説なら、そろそろ映像化されても良いのにね」
「まあ、世の中そんなに甘くないか。恋愛小説なんて、この世に五万とあるわけだし」
「知名度をもっと上げて、今にいろんな作品が映像化されるのが当たり前みたいになれるように、私も編集者として頑張るから」
「ありがとう。梢は、何か夢とかあるの?」
笑理に尋ねられ、梢は考え込んだ。編集者という仕事を天職と思っている梢には、具体的な夢がなかったのだ。
「何だろう……一つでも多く作品を世に出したい、かな」
「さすが編集者だね」
「まあね」
梢は微笑みながら、アイスコーヒーを飲み干した。