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その四

何本も買った缶チューハイは、ほとんどが空き缶になっていた。

ゆっくり飲む笑理に対し、今日の梢のペースは速かった。

「梢、飲みすぎじゃない?」

笑理は心配そうに声をかけるが、梢はそれでも飲み続けていた。

「だって、今日は飲みたいんだもん」

メトロノームのように、体を左右に揺らしながら、梢は缶チューハイを飲み続けている。顔もほんのり赤くなっており、酩酊状態になるのも時間の問題で、笑理は心配そうに梢を見つめた。

「まあ、あの西園寺久子に振り回されたら、飲みたくなる気持ちも分からなくないけどね」

「でしょ。最初はさ、西園寺先生の作品が好きで、担当になったときは嬉しかった。でも、いざ仕事の付き合いを始めたら、自分勝手だし、感情の起伏激しいし、何より画が強いし……。もうあんな人に振り回されたくない」

梢が大きな溜息をついて顔を伏せると、笑理は優しく梢の頭を撫でた。

「苦労してるんだね、梢は……」

もう一度梢は勢いよく顔を上げた。

「ねえ笑理、キスしよう」

笑理が返事を返す前に、うつろな目になった梢から唇を奪われた。梢は笑理の首元に腕を回しており、しばらく唇を離さなかった。

「ありがとう」

ようやく唇を離し、デレデレと酔いが回った梢を見て、笑理はそんな梢の姿が愛おしく思えた。

「何か、暑くなってきちゃった」

梢はブラウスを脱ぎ、キャミソール姿になった。

「梢、今日はもう寝よう」

「うん」

笑理は、千鳥足になっている梢を抱えながら、寝室のベッドに寝かせた。あっという間に梢は、スヤスヤと眠ってしまった。梢に布団をかぶせ、梢の額におやすみのキスをした笑理は、そのままリビングに戻ると、空き缶やおつまみのごみを片付け始めた。


翌朝、目を覚ました梢が体を起こそうとすると、激しい頭痛に襲われた。

梢は昨晩の記憶が曖昧で、自身がキャミソール姿のまま眠っていることに驚いていた。そこへ笑理が入ってきた。

「おはよう、起きた?」

「私……昨日、何かした?」

「覚えてないの、昨日のこと?」

「うん」

「私にキスしたんだよ。しかも私の首の後ろで腕組んで、しばらく唇離さなかったんだから」

笑理は苦笑しながら話した。

「嘘……」

梢は唖然顔になった。

「それに、暑くなってきたって言って、自分から服脱いでさ。私、ちょっとドキッとしちゃったよ」

「……ごめんなさい」

笑理に向かって、梢は深々と頭を下げた。

「良いよ。昨日は、飲みたかったんだもんね」

梢は小さく頷いた。

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