何本も買った缶チューハイは、ほとんどが空き缶になっていた。
ゆっくり飲む笑理に対し、今日の梢のペースは速かった。
「梢、飲みすぎじゃない?」
笑理は心配そうに声をかけるが、梢はそれでも飲み続けていた。
「だって、今日は飲みたいんだもん」
メトロノームのように、体を左右に揺らしながら、梢は缶チューハイを飲み続けている。顔もほんのり赤くなっており、酩酊状態になるのも時間の問題で、笑理は心配そうに梢を見つめた。
「まあ、あの西園寺久子に振り回されたら、飲みたくなる気持ちも分からなくないけどね」
「でしょ。最初はさ、西園寺先生の作品が好きで、担当になったときは嬉しかった。でも、いざ仕事の付き合いを始めたら、自分勝手だし、感情の起伏激しいし、何より画が強いし……。もうあんな人に振り回されたくない」
梢が大きな溜息をついて顔を伏せると、笑理は優しく梢の頭を撫でた。
「苦労してるんだね、梢は……」
もう一度梢は勢いよく顔を上げた。
「ねえ笑理、キスしよう」
笑理が返事を返す前に、うつろな目になった梢から唇を奪われた。梢は笑理の首元に腕を回しており、しばらく唇を離さなかった。
「ありがとう」
ようやく唇を離し、デレデレと酔いが回った梢を見て、笑理はそんな梢の姿が愛おしく思えた。
「何か、暑くなってきちゃった」
梢はブラウスを脱ぎ、キャミソール姿になった。
「梢、今日はもう寝よう」
「うん」
笑理は、千鳥足になっている梢を抱えながら、寝室のベッドに寝かせた。あっという間に梢は、スヤスヤと眠ってしまった。梢に布団をかぶせ、梢の額におやすみのキスをした笑理は、そのままリビングに戻ると、空き缶やおつまみのごみを片付け始めた。
翌朝、目を覚ました梢が体を起こそうとすると、激しい頭痛に襲われた。
梢は昨晩の記憶が曖昧で、自身がキャミソール姿のまま眠っていることに驚いていた。そこへ笑理が入ってきた。
「おはよう、起きた?」
「私……昨日、何かした?」
「覚えてないの、昨日のこと?」
「うん」
「私にキスしたんだよ。しかも私の首の後ろで腕組んで、しばらく唇離さなかったんだから」
笑理は苦笑しながら話した。
「嘘……」
梢は唖然顔になった。
「それに、暑くなってきたって言って、自分から服脱いでさ。私、ちょっとドキッとしちゃったよ」
「……ごめんなさい」
笑理に向かって、梢は深々と頭を下げた。
「良いよ。昨日は、飲みたかったんだもんね」
梢は小さく頷いた。