小さくソファーに座っている梢の元に、笑理がインスタントの味噌汁を運んできた。
「はい、しじみの味噌汁。飲むとスッキリするよ」
「ありがとう。作ってくれたの?」
「まさか。さっき、コンビニ行って買ってきたの」
梢は味噌汁を一口飲むと、ホッと溜息をついた。
「美味しい」
「昨日は相当飲んでたね」
久子の愚痴を言いながら缶チューハイをいくつも飲んだことは覚えているが、いつ自分がブラウスを脱いだのか、どうやって寝室まで行ったのか、梢の記憶は途中から曖昧だった。
昨晩の記憶を思い出そうとしていると、梢は突然笑理から肩を抱かれた。
「ねえ、今お風呂沸かしてるの。一緒に入ろうか?」
「えッ……一緒に?」
激しく梢は動揺し、胸の鼓動が早くなる。
「人前でブラウス脱いだ人が、そんなに動揺する?」
笑理がからかうように言った。
「それは言わないでよ……」
「私たち、付き合ってるんだよ。裸の付き合いもしなきゃね」
笑理に言われるがまま、梢は一緒に風呂に入ることになった。
浴槽の中で背後から笑理に抱き着かれている梢は、緊張と幸福の二つの感情が交差し、風呂湯の暖かさと笑理の体の暖かさを同時に肌で感じながら、うっとりしていた。
「たまには、こういうのも良いでしょ」
耳元で笑理にささやかれて、梢は照れながらも大きく頷いた。
「うん。ちょっと恥ずかしいけど」
「私は全然恥ずかしくないよ」
「すごいね、笑理は」
「これからも、うちに泊まりに来たときは、一緒にお風呂入ろうね」
梢と笑理はお互いにじっと見つめ合うと、優しく唇を重ね合わせた。笑理と一緒にいるときは、仕事のことも何にもかも忘れることができ、改めて自分にとっての大切な人であることを実感していた。
「酔った時の梢って、結構積極的なんだね」
「え?」
自分から笑理にキスをした記憶も、梢はうる覚えだった。
「シラフの時も、梢からキスされたいな」
「私だって、やろうと思えば、それぐらい……」
「本当に?」
笑理から挑発するような目で見られた梢は、笑理の両頬に優しく手を当てると、ゆっくりと顔を近づけて唇を奪った。
笑理は一瞬驚いた様子だったが、
「何だ、やればできるじゃん」
「当たり前でしょ」
「あ……来週、どっか一緒に出かけようよ」
すると笑理は思いがけない提案をしてきた。
「それって、デートってことで良い?」
「ああ、確かにデートだね」
梢にとって、笑理とのデートと言う、新たな楽しみができた瞬間であった。