目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

#エピローグ

 新世界の誕生、誰もそんな事は覚えていないが兎に角あれから五年の月日が流れた。

 ・

 ・

 ・

 街中に聳えるビル群の中、中央に一際目立つ生命の樹が立っていた。

 この日は快晴。

 午後のニュースである事実が報道された。


『五年前の同時テロ事件、犯人である新生継一被告と河島咲希被告による書籍が発売されました。彼らはConnect ONE若者支援センターというサービスを営んでおり……』


 テレビ画面には新生と咲希の顔が大きく映し出されていた、どうやら彼らは獄中で本を書いたらしい。

 そしてその番組はある喫茶店に備えられたテレビでも流されている。


「新生さんも河島も反省してたけどな、世間はどう思うやら……河島の叔母さんも印税受け取ってくれるといいけど」


「言いたい奴には言わせておけば良いんじゃない?本当に反省してるならいつか伝わるでしょ、現に叔母さんも少しずつ元気になってるし」


 テーブル席に座った一同はまさにニュース番組の内容を話している。

 その人物とはかつてのTWELVE隊員たちだった。

 今話していたのは竜司と蘭子。

 喫茶店ルドベキアに今日はある理由で集まっていた。


「大丈夫だよ、それに彼らには僕らがいるから」


 陽も彼らの心配はしていない。

 そして名倉隊長も。


「うむ」


 言葉は無くとも心は一つだった。

 そこへコーヒーが運ばれて来る、運んで来た店員は。


「はいコーヒー人数分」


「ありがとう与方さん」


 コーヒーを受け取った瀬川は店員である愛里に感謝を告げた。

 そして全員でコーヒーを持ち軽く乾杯をした。


「んじゃ、Connect ONE若者支援センターOB会が無事に開催された事を祝して!」


 瀬川の合図によりそれぞれがコーヒーを啜った。

 ほろ苦くもコクの深い味が奥まで広がる。


「うん、愛里ちゃん成長してるよ」


 どうやらこのコーヒーは愛里が自ら淹れたものらしい。

 カウンターの奥では店長が嬉しそうに頷いている。


「本当ですか?よかった」


 しかし何故わざわざ愛里が淹れる事となったのだろうか。


「"アイツ"が遅刻したお陰でどんどん愛里のコーヒーが美味くなってるね」


 蘭子が冗談めかしくそう言うと一同はクスクスと笑う。


「本当アイツどうなってんだよ与方さん?」


 瀬川が問うと愛里は答えた。


「買い出ししてから来るって言ってるけど……流石に時間かかってるよね?」


 腕時計を見て時間を確認する。

 一体誰を待っているのか。

 すると。


「っ⁈」


 喫茶店入り口の扉が思い切り開いた。

 その音に一同は驚いてしまう。


「はぁ、はぁ……」


 そこに立っていたのは比較的に身長の高めな青年。

 右手に大きな花束を持ちながら息を切らしている。

 そしてゆっくりと顔を上げた。


「愛里っ!俺と結婚して下さい!」


 その青年、創 快はこの場で突然のプロポーズを行った。

 あまりに急なので愛里も驚いて顔を真っ赤に染め上げてしまう。


「……はい」


 まるで二人が付き合い始めた時のように愛里は思わず了承の返事をしてしまった。

 周囲の友人たちは大いに祝福をした。


 ___________________________________________


 店内の盛り上がりも比較的落ち着いた頃、快はようやく出勤した。

 そのお陰で愛里はようやく休憩を得られたのでカウンター席に座っている。


「もう、遅いよ?」 


「遅刻の意味?それともプロポーズの事?」


「どっちも」


 大事そうに花束を抱えながら愛里は微笑む。

 するとテーブル席の方から瀬川の興奮した声が聞こえる。


「おぉ!朗報が重なったぞ!みう姉が妊娠したって!」


 快の姉である美宇が昌高との間に子を授かったらしい。


「マジで!エコー写真とかある?」


「快に送ったって、休憩の時に見てみ!」


 祝福すべき事が同時に起こり一同の周りには幸せが溢れていた。

 快は皿を洗いながら想いに更けている。


「ねぇ快くん」


「あ、何?」


 ボーッとしていたため遅れて愛里の言葉に反応した。

 すると愛里はある話題を持ちかけた。


「こんなに幸せな事が続くなんて、瀬川くんのお父さんが言う神様が導いてくれてるみたい」


 その言葉を聞いた快は一瞬だけ皿を洗う手が止まってしまう。

 神様という言葉、それにより思い出される事が一つあったのだ。


「うん、きっと導いてくれてるんだよ」


 そんな快が思い出したのは五年前のある時。

 場所はあの生命の樹の中、カナンの丘のように見える空間だった。

 ・

 ・

 ・

 快が過去の記憶に語りかけた頃。


「俺も俺を導いてたんだ……!」


 思わず涙を流してしまった快。

 その様子を見た英美が声を掛けて来る。


「そっか、あの時から全部決まってたんだね」


 そして快は涙を拭った後、彼女と向き直り伝えた。


「ありがとう、お陰で気付けたよ」


 完全に生命の核となる覚悟の快。

 英美にある事を託す。


「君になら……愛里を任せられる」


 しかしその言葉を聞いた英美は俯きながらゆっくりと快に近付いて行く。

 そして目の前まで来て一言だけ告げた。


「……バカっ」


 そう言って両手で快を突き飛ばす。

 すると快の意識が先程の瀬川たちのように外へと遠ざかっていった。


「えっ、そんな!」


 快を宿主として囲っていた三本の剣は英美を囲っている。

 それはつまり英美が核になるという事。


「英美さんっ、ダメだ!」


 しかしもう意識は戻れない、どんどん外へと吸い出されて行く。

 そんな快に英美は思い切り大きな声で伝えた。


「愛里には君じゃないとダメなの!それは君じゃなくて愛里が決める事!」


「〜〜っ」


「寂しいけど、本当は寂しいけど……私も愛里と一緒に居たかったけど……愛里のためだから!」


 最期に英美は微笑みながら快に託すのだった。

 自分が愛する者に新たな愛を与えてくれた事を心から感謝して。


「……ありがとう、ゼノメサイア」


 その瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのを見た快は彼女の覚悟をしかと受け止める。

 だからこそ大切な愛里を死ぬまで愛し続けると誓ったのだ。

 ・

 ・

 ・

 この出来事を思い出していると愛里が快に質問をする。


「ねぇ、何でプロポーズにOKしたのか分かる?」


 一度目を覚ました快は優しく微笑んだ。


「さぁ、何で?」


 すると愛里は大事そうに快から受け取った花束を抱きしめて答えた。


「快くんと一緒にいたい、自分でそう思ったの」


 それはまさに英美が快に託す時に伝えた事と同じであった。


「……そっか」


 そして愛里は愛する者の帰る場所としての役目を果たそうとする。

 今日はまだ出来ていなかったから。


「そいえば今日は帰ってきた時、ビックリして言えなかったから今言うね」


 一度呼吸を整えてから精一杯の愛を快に与える。


「おかえり、快くん」


 ずっと憧れていたやり取り。

 愛する人とそれを行えるなんて。

 快は幸せそうに笑いながら答えた。


「ただいま!」







『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』


    最終界 創快







このようにいつまでも存続するものは、信仰と希望と愛と、この三つである。

このうちで最も大いなるものは、愛である。


『第1コリント人への手紙 13:13』



 この瞬間、ゼノメサイアは人と人との間を繋ぐ者として

『N』と名付けられた。







 終

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?