快は英美の問いに頷いた。
既に覚悟は決まっている、どんな事でもやってみせるのだ。
「よし、じゃあ着いてきて」
英美は少し明るさを取り戻していた。
厳密には明るいというより真剣な様子だがいつもの調子である事に変わりは無いだろう。
歩みを進めていく英美に着いて空間を移動する。
そこには世界そのものとも言える光景が広がっていた。
「凄い、これは……」
「世界の記憶。過去も未来もない、ハジマリとオワリが交わる場所」
上下左右という概念の存在しない空間には過去と未来の映像がビッシリと敷き詰められていた。
その中で快は自分の知る人物たちの過去を見つめる。
「これは陽さんの……」
アモンと死別した瞬間の陽の姿。
それだけでない。
他のTWELVE隊員や咲希、そして新生の過去の姿までが映されている。
「みんなこんなに辛い想いをして来たんだ、ならせめて未来は変えてやらなきゃ」
快のその言葉を聞いた英美は覚悟を再確認する。
そして求めていた出来る事の説明を始めた。
「この未来を見て、まだ可能性の一つだけど」
英美が指した未来の映像。
それは全世界が一つとなり身も心も全てが繋がった世界だった。
「新生継一が望む未来。この世界に生命は一人しかいない」
様々な可能性が枝分かれする未来の一つ。
しかし今はこの未来が最も近いらしい。
「そんなの間違ってる、人はそれぞれ違っても歩み寄れるって君が示したんだから」
「うん、何とかしてそれを伝えたい」
「そのために出来る事、それは新世界の核を新たに創り出す事だよ」
英美の発言に思わず彼女の顔を見てしまう快。
「核、新生さんや河島さんがなろうとしてた……」
「そう、新世界の誕生には核が必要。そしたら世界はまるで最初からそうだったように変わる、最初からその人が核だったような世界こそ新世界なの」
ならば一体何を核にすると言うのか。
「君は罪を浄化できる、だから新生継一の罪を浄化して。そのまま彼は望んだ核になれる」
そして新生の覚悟も語る英美。
「彼は新世界を見続ける者として世界そのものになろうとした。最初は咲希さんにさせる予定だったみたいだけど……でも今は自分に生命の核を宿した」
その英美の言い方で快はある疑念を抱く。
そのまま流れで質問してみた。
「ちょっと待って。最初からその人が核だった世界、それってまさか……」
快の質問に答える英美。
その答えは快の予想通りだった。
「そう、みんなその人を忘れる。最初から居なかったみたいにね」
「〜〜っ」
「もちろん過去の出来事までは変えられないから、その人との思い出は別の何かに書き換えられるの」
その話を聞いた快はかなりのショックを受けてしまった。
新生はここまで覚悟していたというのか。
「新生さん、そこまでの覚悟を……河島さんもか……」
「世界そのものとなってずっとみんなと一緒にいる、そう考えたんだろうね。咲希さんも愛里と一緒に核になって世界中を共に在ろうとした」
そして英美は新生や咲希の思考を代弁した。
「今の世界に未練が無いから、忘れられるのもリスクがなかったのかも知れない……」
激しく目が泳ぐ快。
もう一つある質問をする。
「新生さんを忘れるしか方法はないのか……?」
そこで快はこの戦いを行う事となった理由を思い出す。
出撃前にTWELVE隊員たちと話した事、それは新生の罪を赦す事だ。
何故そう至ったのか、みんな彼を心の奥では愛しているからである。
酷い仕打ちもされたがそれ以上に愛せる居場所を与えてくれた。
そんな彼を赦しこれからも一緒にいる事こそ求められた事なのだ。
「……英美さん、ゼノメサイアの力があってこそ核になれるんだよね?」
「そう、だけど……?」
「つまりゼノメサイアも核になれる……」
そう呟きながらゆっくり立ち上がる快。
英美はその意図が理解できない。
「どういう意味……?」
恐る恐る聞いてみると立ち上がった快が先程よりも覚悟の決まった力強い表情で答えた。
「俺がなるよ、核には俺がなる」
その言葉は快の人生で最も大きな決断だった。
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その快の答えに英美は驚愕した。
「え……」
思わず快に強く詰め寄ってしまう。
「自分が何言ってるか分かってるのっ⁈」
焦る英美だが快の意志は揺るがない。
「もちろん。覚悟は出来てる」
英美は到底信じられなかった。
あの快がここまで言うようになるなんて。
「だからって……!もうみんなと会えなくなっちゃうんだよ⁈ 誰にも思い出してもらえない……っ」
「考えたんだ、ここに来た理由。みんな新生さんが大好きだから彼を救うために来た、彼と一緒に居たいんだ。だからそれを無くせない」
絶句する英美に対し快は更に言う。
「それに寂しくないよ、俺は新世界そのものとしてずっとみんなと一緒に居られるから」
英美は既に大粒の涙を流していた。
何を言っても快の固い意志は揺るぎようがない。
「何でそこまで……っ」
泣きながらも快を否定できない英美。
この状況はかつて快が英美の死を悼んだ時とよく似ていた。
「俺もこの世界に生きるみんなが大好きだから」
そう言った途端、二人の周囲に罪を犯して来た者たちが現れる。
彼らは新生によりこの核に閉じ込められていたのだ。
「君たちも解放されるよ」
その顔ぶれの中にはアモンや快の両親や純希や時止主任、そして咲希の姿もあった。
彼らの顔はボヤけておりよく見えないが僅かに微笑んでいるようだった。
「よし……」
泣く英美の肩に手を置きながら快は現世を見つめる。
そこにはゴッド・オービスの中で苦しむTWELVE隊員たちが。
その中にいる陽と背後のアモンを交互に見てから快は意思を確かめた。
陽がアモンに抱いている心を。
『アモンを死なせたのも、罪を背負わせたのも僕だ……!僕にだって罪が……!』
そしてその他の隊員たちも同様に罪の意識を抱えていた。
『あたしの心が一つになれなかったから……』
『俺が蘭子ちゃんを救えてれば……』
『隊長としてしっかりすべきだと言うのに……っ』
蘭子、竜司、名倉隊長も。
そして瀬川は。
『快ごめん、お前の夢を支えるって宣言したのに……』
親友である快の事を想い、罪に苦しんでいた。
だからこそ快は立ち上がる。
「みんな、罪を犯したからって終わりじゃない」
その言葉はTWELVE隊員たちだけに向けたものではない。
振り返り背後の罪の意識たちにも告げたのだ。
「人はやり直せる。罪を抱きしめて悔い改められるんだ……!」
そしてそう言い放った途端、罪たちの意識が新生の持つ核から解放されて行く。
それぞれが意志を持ったのだ。
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現世で倒れるゴッド・オービス。
項垂れている陽の脳裏に声が響いた。
『おいおい、俺が居なくなって寂しいのか?』
その声が聞こえた途端、陽は顔を上げる。
「えっ、アモン……⁈」
すると自身の胸ポケットに入ったサングラスに姿が映る。
それはまさしくアモンだった。
しかし陽の姿を借りたものではない、アモン本人であるのだ。
「まさか……!」
名倉隊長も驚愕している。
アモンだけにではない、周囲で異様な出来事が起こっているのだ。
『『ゴアァァァッ!』』
なんと突如として大量の罪獣が現れたのだ。
これまでに戦った罪獣、見た事もない罪獣。
それらが全て心を一つにしたようにアボミネンスに立ち向かっていく。
「どういう事アモンっ⁈」
慌てて陽はアモンに問う。
アモンもテンションが上がっているようで笑いながら答えた。
『アイツ最高だぜ!全ての罪を抱きしめやがった!』
その言い振りからアイツとは快である事がすぐに分かった。
「まさか快がっ⁈」
瀬川も大きな反応を見せる。
そしてアボミネンスの中では新生が驚愕していた。
『まさか内側から罪を掌握したのかい⁈』
予想外の事態に明らかな動揺を見せる新生。
それは名倉隊長も同様だったが。
「まさかこんな事が……っ!」
信じられない、これまで敵として戦って来た得体の知れない生物と共闘するなんて。
『ガゴォォォッ!』
これまで戦って来た罪獣たちは向く方向を同じにしながらTWELVEたちと共に在る。
まるで彼らを守っているようだった。
そしてアモンはTWELVE隊員たちに告げる。
『あるんだよ隊長さんっ!俺たちのやるべき事は一つだ、ヤツのコアにまだ囚われてるヒーローを救う事!』
そう言われた途端、一同の視線はアボミネンスの胸にあるコアへ。
「すぅぅぅ……」
そのまま名倉隊長は深呼吸をした。
いつもの言葉を告げるために。
「TWELVE出動っ!この機を逃すなぁ!」
鼓舞され一気に立ち上がるゴッド・オービス。
「「「了解っ!」」」
隊員たちも心を一つに突貫していく。
それでも尚アボミネンスは抵抗を見せた。
『こんな所で……止められないっ!』
黒く澱んだ波動を放ち一気に周囲の罪獣たちを片付ける。
しかしオービスはギリギリでシャッターを展開し防ぐ事に成功した。
「もう持たないぞ!」
「諦めるなっ、何としてでもコアを!」
黒い波動攻撃を避けながら進んでいくオービス。
少しずつダメージを食らってしまっているが怯まない。
「くっ、マズい……!」
しかし避け切れず波動が今にも当たってしまいそうだった。
そこへ。
『ダァァッ!』
見た事もない罪獣が代わりに波動を受けてくれたのだ。
その正体をパイロット達は一瞬で察する。
「まさか時止さんっ⁈」
「よぉし今だぁぁぁっ!」
チャンスを見つけたオービスは一気にエネルギーを溜める。
そして主砲から全エネルギーを放った。
『ライフ・ブラスター!』
アボミネンスも避け切れない。
しかし何とか防ぐための策に転じる。
『ヴォオオッ』
なんと左手を前に突き出し受け止めたのだ。
「受け止めた⁈」
「まさかそんな!」
その力の真相はまさしく天の聖杯だった。
咲希を取り込んだままなのである。
『ぐっ、天の聖杯だよ……っ!』
しかし思ったように力が入らない。
どんどんオービスの砲撃に押されてしまっている。
『何故っ、何故力が……⁈』
疑問に答えを見出せないでいると自らの内、天の聖杯から声が聞こえた。
『……何故って?』
聞き覚えのある女性の声。
一瞬で正体が分かった。
『アタシが制御してるからね!』
なんと咲希が聖杯の力を制御しているのだ。
新生も驚きの声を上げる。
『このためにわざと残ったのか……⁈』
その事実に気付いたオービス。
一気にエネルギーを解放する。
「おおぉぉぉぉぉっ!!!」
そしてそのままアボミネンスの左手とオービスの主砲は相殺された。
その勢いでアボミネンスは大きくのけ反ってしまう。
『グゥゥッ……⁈』
その隙にオービスは武器として大斧を構える。
ジェット噴射で一気に勢いをつける。
アボミネンスのコアは先程の罪が飛び出した影響で既に亀裂が入っていた。
「行けぇぇぇーーーーっ!!!」
思い切り振り下ろす。
そして刃の先端が亀裂の入ったコアに突き刺さった。
「返してもらいます、俺たちのヒーローを……!」
瀬川が力強く言うと刃が押し込まれアボミネンスのコアを完全に破壊する。
そこから溢れんばかりの光が漏れ出した。
つづく