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#1

「ーーーはっ」


 カナンの丘に常設されたベンチの上で目が覚めた青年、創 快。

 その場は変わらないのに景色だけが禍々しい事に気付き状況を把握しようと頭を回転させる。


「あれ、何してたんだっけ……?」


 そこで全てを思い出す。

 フラッシュバックのようにアボミネンスとの戦いが脳に流れ込んで来た。


「そうだ、俺はあの時……っ!」


 まさか本当に死んでしまったのだろうか。

 思わずベンチから降りて地面にへたり込んでしまう。

 吐き気を感じたが全く吐く気配はない。

 これは恐らくもう死んでいるから、肉体が無いからだと察した。


「…………」


 ショックを受けているとそこへ足音が近付いて来る。

 それに気付き何とか顔を上げる快。

 目に入った人物とは。


「君は……?」


 周囲は禍々しい景色だというのに何故かその人物だけは眩しく輝いていた。

 そしてゆっくりと快に手を差し伸べる。

 訳が分からぬままその手を取り立ち上がる快。

 するとその人物の顔をようやく拝む事が出来た。


「あっ……何で君がっ」


 驚きの声を上げてしまう快。

 その顔は見覚えがあった。


「久しぶりだね、私はずっと見てたんだけど……」


 あの時、初めてゼノメサイアとなった時。

 快に出来る事を示してくれた少女。

 ……勇山英美だった。


 ___________________________________________


 死んだはずの英美が登場した事で驚愕した快。

 思わず後退してしまい先程のベンチにもう一度腰掛ける。

 すると英美もそれに合わせて快の隣に腰掛けた。


「そりゃビックリするよね、でも一回両親と再会したでしょ?そんな感じだよ」


「な、なるほど……」


 両親のようなと言われ少し納得するがイマイチ両親の時の状況も本当は理解し切れていない。


「ここは今の生命の核、全ての生命が時間も超えて交わる場所。過去の生命も未来の生命も、全てがここに集まる」


 やはり完全に理解は出来ないが今は英美の話を聞く事にしよう、状況なら理解できるかも知れない。


「じゃあ君は過去の……?」


「私は特別らしいんだ、ゼノメサイアになるはずだったからこの空間そのものに宿ってるみたい」


「そいえばさっき"ずっと見てた"って……」


「うん、私は死んだ後君のソレに宿ってた。そこから同じ景色を見てたよ」


 快の首から下げるグレイスフィアを指差す英美。


「って事は……」


「うん、度々聞こえた声は私。どんどん君自身の力が強くなって聞こえなくなっちゃったみたいだけど……」


 つまりデモゴルゴン戦での夢の中などで聞こえて来た女性らしき声は英美。

 どこかで聞いた事がある声だと思っていた。


「そっか……あ、ここが生命の交わる所ってなら!」


 快は慌てて立ち上がる。

 そして禍々しく澱んだ景色を目を凝らしてよく見る。

 すると現在の外の様子が見えて来た。


「やっぱり気になるよね」


「だってそりゃ……あぁっ」


 映された現世の映像。

 そこにはたった一人残されたゴッド・オービスが動けずに佇んでいた。


「もしかして河島さんも……」


 咲希の安否も気になってしまう。

 すると英美も答えた。


「……彼女は新生継一が手にした罪に吸収された」


 そう言ってこの空間における空を指差す英美。

 指された方を見上げた快は驚愕する。


『あぁぁぁっ……』


 澱んだ景色の中に苦しむ人々の姿が浮かんでいた。

 これに関しては言われなくても分かった。


「もしかして罪に苦しんでる人達……?」


「そう、その通り」


 そして英美は罪とゼノメサイアとの関係性を語り出す。

 それは何よりも重大な真実であった。


「新世界を創るって話は聞いたでしょ?みんなが幸せになれる世界って事も」


「うん、新生さんから……」


「ゼノメサイアにはそのために人々の罪を打ち倒す力があるの、罪獣を倒す雷もそのための力」


 これは新生も言っていた話だ。

 これまで使って来たライトニング・レイをはじめとした必殺技たち。

 それらは確かに罪を背負った罪獣に特効だった。


「でもそれじゃあダメだったの、人はまた罪を繰り返して振り出しに戻っちゃう。新生継一はそれらを全て消し去った上で"今"を永遠に続けて罪を犯させなくしようとした……」


 顔を下げてしまう英美。

 快は何とか話を理解した上で質問をした。


「じゃあどうすれば……⁈」


 このままでは罪獣が永遠に出続ける事となってしまうのだろう、それを恐れた。


「クソッ、結局何も出来ないのか……?」


 現世で倒れるゴッド・オービスを見て何も出来ない自分に腹が立つ。

 何とか手を伸ばしてみるものの何にも触れる事が出来ない。


「〜〜っ」


 ショックを受け地面に拳を突いてしまう。

 しかし丁度そのタイミングで現世の方に動きが。


「え……?」


 音が聞こえた。

 それは明らかにゴッド・オービスが動く音だ。


『まだだ!快が世界に示すって言った、ここで止まっちゃダメだっ!』


 瀬川が無理やり気合いを入れてゴッド・オービスは立ち上がる。

 しかし足元もふらついておりまともに立てていない。

 それでも必死に立ち上がり戦おうとしている。


「何で、瀬川……?」


 瀬川の放った言葉にも心打たれる。


『今ここで示さないとっ!本当の意味で世界は一つになれないっ!』


 絶望的な状況で彼らは何故立ち上がれるのか。

 その答えを英美は快に伝えた。


「これは君の力だよ」


 空にゴッド・オービスが戦う姿を映しながら快と英美は心から語り合うのであった。


 ___________________________________________


 英美から放たれた言葉に疑問を覚える快。


「俺の力……?」


「そう、私がゼノメサイアだったらきっとダメだった……」


 そして英美は神という存在の目的を語り出す。


「ゼノメサイアは神様が人々を幸せな新世界に導くために遣わした使者。昔は神様が直接干渉できたけど罪が妨げになって今は人は人同士でないと触れ合えないの」


「だから人に宿ったって事?」


「その通りだよ、神様を忘れた人達には人として導くのが一番だって思ったみたいだね」


 そして本題である快自身の力について話す。


「その中で君は神様が最も求めた"罪に苦しめられない方法"を導き出した。そこから全てが変わったの」 


 そう言った英美は周囲にこれまで紡いできた快と人々の歩み寄りの記憶を映し出した。


「君は自分の成長を見せる事で人々に"変われる"って事を示して来た、そして君自身が罪を知っていたから皆んなの罪を受け入れて赦す事が出来た」


 丁度映像はゼノメサイアが地球を抱き締める所へ。


「罪は滅するものじゃない。赦して抱きしめて、共に歩んでいくものだって。君はそれを神様に示したんだよ」


 そう言われた快は胸がグッと熱くなるのを感じる。

 その時の映像ではメイトなど他の仲間たちが罪を悔い改める様子が映されていた。


「そしてその意思を受け継いだ人達も一生懸命示そうとしてる」


 空に浮かぶ映像ではゴッド・オービスが単身でアボミネンスに挑んでいた。

 当然歯が立たないが諦めずに立ち向かっている。

 そしてそれだけではない。

 地上にいる逃げ惑う人々、その殆どが互いに助け合っているのだ。


『大丈夫ですか⁈』


『ほらこっち!』


 障害者も健常者も、その他の人種なども関係なかった。

 全ての人々がお互いに歩み寄り、助け合っているのだ。


「私じゃきっと無理だった、綺麗事しか知らない私には……」


 少し残念そうにする英美を見た快。

 その悔しい気持ちが伝わって来る。

 英美の死後、快はクラスでの彼女の評判を聞いていた。

 正義感が空回りしていたような人物だと。

 しかし快は純粋に彼女を理解していた。


「……そうなのかな?」


 快は項垂れる英美に声を掛ける。

 すると英美も少し驚いたように顔を上げた。


「俺が成長できたのは……正直に言うと君が示してくれたからだ」


「え……?」


「確かに綺麗事かも知れない、でも絶対それが理想なのは間違いないから……俺はその綺麗事に意味を持たせようと頑張れた、説得力さえあればきっと伝わるって」


 そして快はあの時に言われた事を返す。


「俺に出来る事、見つけたんだよ」


 英美が死ぬ直接に言った事。

 その答えを快は直接本人に伝える。

 彼女の目には少し涙が浮かんでいた。


「そっか……無駄じゃなかったんだ」


 その言葉だけで救われた気がした英美。

 そして快は更に問う。


「ねぇ英美さん、今俺たちに出来る事はないの?」


 その言葉を聞いた英美は少し上を向いて涙を乾かした後、すぐに力強い瞳で快を見て言った。


「あるよ、覚悟はいい?」


 快の答えは既に決まっていた。

 今の自分に出来る事なら何でもやるのだ。






 つづく

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