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#5

 更なる力を身に付け立ち上がるレ・アボミネンスと何も出来ずに大ダメージを喰らい倒れてしまった一同。


『ぐっ、おぉぉっ……』


 ゼノメサイア二人は何とか立ち上がるがゴッド・オービスの中で陽は焦っていた。


「アモン、アモンっ⁈ どこ行ったんだ⁈」


 サングラスに呼びかけても返事はない。

 それだけでない、いつも言葉は無くとも気配だけは感じていた。

 今はその気配すらどこにもないのだ。


「っ……!」


 その異常事態に他のTWELVEパイロット達も焦りを覚える。

 蘭子は慌てて今のアボミネンスを分析した。


「世界中のバベルが全部集まってる、何なのこれ……」


 その言葉で陽もアモンの行方を察した。

 絶望し戦う気力を失くしてしまう。


「二人に任せてられないっすよ、俺たちも……!」


 瀬川も焦り親友たちにだけ任せきりな所を責める。

 しかしゴッド・オービスは力を失くしてしまった。


「な、何でこんなに重い……⁈」


「まさかっ……」


 動こうとする瀬川、竜司、名倉隊長。

 しかしそれ以外の二名、蘭子と陽が原因だとすぐに分かった。


「一つになれてないんだ……っ」


 ゴッド・オービスは各機体パイロット達の生命を一つにした結果成り立つ存在。

 一度合体したは良いものの心がバラバラになってしまえば機能は著しく下がってしまう。


「でもここまでの機能低下は……」


 これまでで一番の機能低下。

 それも二人の精神的ダメージが大きすぎるのが要因だろう。


「陽っ、蘭子……!」


 名倉隊長も焦っている。

 ゼノメサイア達に加勢しようにもこれでは確実に足手纏いだろう。


「クッソォ、快っ!」


 瀬川が手を伸ばす先で快と咲希、つまりゼノメサイア二人が更に凶悪な相手と戦っていた。


『グッ、ゼアァッ……』


 罪の力に防戦一方のゼノメサイアたち。

 刃の斬撃を防いでも罪が侵食して来る、完全に防ぎきれないのだ。


『創っ!』


 メイトも聖杯の力で対抗しようとするがアボミネンスの宿す罪の力があまりに強大すぎて吸収し切れなかった。


『ァガッ……⁈』


 左手に宿る聖杯から溢れ出した罪が爆散した。

 その影響で二人のゼノメサイアは大きく吹き飛ばされてしまう。


『くそっ……!』


 快のゼノメサイアは何とか立ち上がり落としてしまった愛ノ剣を遠くから手に引き寄せる。

 そのまま思い切り走り出し刃を振り下ろした。


『ゼアッ!』


『ヴァアァッ!』


 愛ノ剣、罪ノ剣。

 それぞれ二本の刃がぶつかり合い凄まじいエネルギーを周囲に散らす。

 その中でゼノメサイアの力は強大な罪に押されていた。


『ぐぅっ、新生さんっ……!』


 それでも自らの生命をぶつけて必死に語りかけたのだった。


 ___________________________________________


『せめて話をっ!俺たちの想いを受けて下さいっ!』


 必死に訴える快だったが新生は聞く耳を持たない。

 逆に快に対して自らの想いを伝えに来たのだ。


『オォォッ……』


『なっ⁈』


 交わる刃に伝うエネルギー。

 そこから快の生命にアクセスし自らが先程吸収した罪の意識を送って行く。


『あっ、がぁっ……』


 そのあまりのドス黒さに快の精神は蝕まれて行く。

 そのまま心に直接、罪を犯した者たちの断末魔が聞こえて来た。


『どうだい?これが罪だ、そして私はその象徴っ!それでもこんな私と話し合うとでも……?』


 自らの醜さを語る新生。

 しかし快はそれでも想いをぶつけようとした。


『アァァァッ!』


 必死に生命力を高めエネルギーを逆流させて行く。

 精神にまで入った蝕みを逆に浄化し新生の心に送ろうとしたのだ。


『まだここまで……っ』


 ゼノメサイアの余力に驚くアボミネンス。

 その蝕みが生命に浄化されて行く様子から周囲の人々は目が離せなかった。


「快くんっ……!」


 愛里もその中の一人である。

 先程の一撃で周囲の瓦礫が崩れた中で動けない人々を支援しながらその光景を眺めていた。


『創っ……ぐっ』


 咲希は何とか動こうと試みる。

 しかし左手の聖杯に受けたダメージが予想より大きく体を動かしてくれない。


『(動かなきゃ……!創がヤバいのに……!)』


 何も出来ずにただ見つめている自分の無力さに嫌気がさしてしまっていた。


『うぉぉぉっ、新生さんっ!』


 一方で必死に想いをぶつける快はかつて瀬川が自分にしたように弱い人を救う方法を考える。


『受け取って下さいよっ!』


『何をっ⁈』


『俺たちの愛ですっ!』


 その言葉は新生の逆鱗にもう少しで触れてしまうものだった。


『貴方が苦しいのは愛されないからじゃないっ、愛を拒絶したからっ!俺と一緒なんですっ!そんな俺だって幸せになれた、だから……っ!』


 そこまで言った後、新生の様子が明らかに変わった。


『ヴォォォオオオオオッ!』


 突如として罪のエネルギーを圧倒的に高める。

 快が逆流させた生命エネルギーを更に罪で上書きし逆流させて来た。


『アガァァァッ……⁈』


 予想以上の苦しみに何も出来なくなってしまう快。

 周囲の一同も絶句していた。


「そんな、快っ!」


「〜〜っ」


 焦る瀬川。

 そして愛里も口を両手で押さえていた。


『創っ』


 咲希もまだ動けない。

 愛里のため快と一緒の幸せを守ると誓った。

 そうだと言うのに。


『(何で何でっ、何で動けないの……アタシのバカッ!)』


 右手しか伸ばせない。

 そんな中で心は叫んでいる。


『(ここで動かなきゃ……愛里のために誓った意味がっ)』


 そう心で叫んでいる間もゼノメサイアはアボミネンスに蹂躙されている。

 何度も殴られ蹴られ、そして首根っこを掴まれた。


『"僕"は幸せだった、愛を受け取っていたよ……それを奪ったのは世界だと言うのに……何を今更っ!』


 そう叫んだ新生はアボミネンスの体を使いゼノメサイアの体を天高く放り投げる。

 そして落ちて来るのを狙った。


「やめろっ!」


「快くんっ!」


『創っ!』


 焦る一同。

 しかしもう止められない、誰もその場から動けなかった。


『ぁ……新生さん』


 そして落下する中で快は心で新生の目を見つめ呟いた。


『貴方はきっと……』


 そして何か言いかけた所で……


『    』


 罪ノ剣で思い切り胸部を貫かれてしまった。

 胸にあるグレイスフィアを模ったコア、それを思い切り罪ノ剣が貫通している。


「あっ…………」


 誰も言葉を発する事が出来ない。

 ただ今は目の前の信じたくない状況により精神がパンクしかけていた。


『フンッ』


 そのままアボミネンスは罪ノ剣を振り下ろし突き刺したゼノメサイアの体を思い切り放り投げた。

 地面に転がるゼノメサイアの体は仰向けになった後、眼の光と全身に流れるライフ・シュトロームの光が完全に消滅した。

 それが意味する事を一同は遂に察し絶望したのだ。


「ぃやぁぁぁああああーーーーーっ!!!」


 愛里の絶叫が響き渡る。

 愛する者の無惨な"死"を突き付けられた彼女はひたすらに叫ぶ事しか出来なかった。


 ___________________________________________


 愛里の叫びに共鳴するように叫ぶ人物がいた。


『うわぁぁぁぁっ!!!』


 それは咲希である。

 怒りと虚しさで無理やり痛む体を起こしたのだ。

 酷いバランスのまま全力で走り出す。


「さっちゃん⁈」


 彼女は自分に共鳴した、愛里も何故かそう感じたのだ。


『デアァァァッ……!』


 無我夢中に走るメイトをアボミネンスは軽く遇らう。

 罪ノ剣を持たない左手で叩きそのままの勢いで倒されてしまうメイト。


『そうだ、聖杯も手に入れなければ……』


 そのまま倒れたメイトに手を伸ばすアボミネンス。

 しかしメイトは自分がされたのと同じように片手で叩きその場から一度離れた。


『くっ、最悪最悪っ!』


 様々な負の感情が入り混じりストレスが凄まじい咲希。

 全ての苦しみを新生にぶつけようとしていた。


『やっぱりアンタ見てて思うよっ、愛を受け取らないヤツみんな腹立つ!』


 かつての参観日で両親からの愛を拒絶した快、そして今の新生。

 せっかくの愛を受け取らずに求め続ける贅沢さが腹立たしかった。


『アンタも、創も……』


 そして何より思った事。

 それは咲希自身が愛を理解したつもりでいた事。

 かつての英美や愛里から歩み寄られていたと言うのに自分の望むものではないと拒絶していた事。

 引き取ってくれた叔母を軽く遇らってしまっていた事。


『……アタシもっ』


 拒絶してしまった人々の顔が次々と浮かぶ。

 そして快と交わした約束も。


『だからせめてアイツらの幸せを守ろうと思ったのに、今更だけど遅くないって……なのにっ!』


 ゼノメサイアの死体が嫌でも目に入ってしまう。


『ムカつくムカつく!みんな大っ嫌い!!』


 感情に任せ半分ほど自暴自棄になってしまう。

 そのまま勢いでアボミネンスに突っ込んで行く。


『アァァァッ!』


 しかし全く歯が立たない。

 聖杯の宿る左手を掴まれ動きを止められてしまう。


『思ったより手間が掛かってしまったね』


 そのまま罪ノ剣でメイトを貫こうとするアボミネンス。

 その様子を見ていたある人物が我慢の限界を覚えた。


「さっちゃぁぁぁんっ!」


 それは愛里だった。

 あまりに遠いがそんな事は考えずにメイトの方へ向かって走る。


「ごめん、ごめんなさいっ……私だってさっちゃんの気持ち考えなくて傷付けたのに……っ」


 大粒の涙を流しながら走る。


「許せる訳じゃないけどっ、私だって悪かったの!さっちゃぁぁぁんっ!」


 その声は果たして咲希に届いたのだろうか。

 ただ最期の彼女はどこか満足気な表情をしていた。


『〜〜ッ』


 そのまま左手を掴まれ背後から罪ノ剣で貫かれてしまうメイト。

 そのまま地面に押し付けられ思い切り左手を引っこ抜かれてしまう。


『ヴォガッ』


 そしてアボミネンスはメイトの引きちぎった左手を思い切り喰らった。

 天の聖杯をその身に宿したのである。


「あっ、さっちゃん……」


 地面にへたり込んでしまう愛里。

 その光景は絶望以外の何物でもなかった。


『オオォォォッ』


 そして聖杯の力を身につけたアボミネンスは更に強化されてしまう。

 その姿は更に禍々しく悪夢を模ったようだった。


「はぁ、はぁ……そんな」


 残されたゴッド・オービス。

 そのコックピットの中で瀬川はポツリと呟いた。


「俺たちだけかよ……」


 この絶望的な状況、希望が見出せそうに無かった。


 ・



 ・



 ・



 ・



 ・



 とある空間、そこに一人の青年が座っていた。

 まるでカナンの丘であるようだがそこから見える景色は淀んでいる。


「…………」


 とある青年は目を閉じて眠っている。

 カナンの丘に置かれたベンチでうたた寝をしているようだった、そして……


「ーーーはっ」


 その青年、創 快は目を覚ました。








 次界、最終界。


 つづく

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