恐ろしい威圧感を放つレ・アボミネンス。
『まだ、いたんだね』
二人のゼノメサイアとゴッド・オービスを見ながら彼らが今も尚歯向かっているという事実を受け止めた。
『何で分かってくれないんだ、君たちもみんな幸せになれると言うのに』
テレパシーで一同に声を掛ける。
ライフ・シュトロームを支配したため全ての生命に意思を伝える事が可能なのだ。
『俺たちの幸せは俺たちが決めます、だから止めて下さい』
快が同じテレパシーで返す。
すると新生はやはり残念がっている。
『どれだけ尽くしても、歩み寄っても……やはり意味なんか無かった』
かつて自分勝手に歩み寄り父を死に追いやった者たちを思い浮かべる。
胸にあるコア、バベルそのものに手を触れ自らの罪を感じた。
そして思い切り何かを引き抜く。
『ぐおぉぉぉっ……!』
バベルのコアから引き抜かれた力はまるで剣のような形を造り出した。
それを右手に構えながら新生は、レ・アボミネンスは呟く。
『人々の業、"罪ノ剣"だよ……神に近付くためのね』
その罪ノ剣を思い切り振り翳し構えた。
完全に戦う意思を感じる、やるしかないようだ。
『だったら俺は人の愛で貴方を救います……!』
快はゼノメサイアとしての力を解放する。
同じく胸のコアから二本の剣を取り出した。
樹ノ剣、海ノ剣をそれぞれ構えて合わせる。
愛ノ剣が完成されゼノメサイアの姿もかつて愛里を救った時のものに変わった。
『もう救われてるよ。余計な歩み寄りが人を傷付ける事に気付きなさい?』
そのままお互いが剣を構えて走り出す。
想いをぶつかる戦いが始まった。
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走り出した互いの剣がぶつかり金属音を響かせる。
『ゼェアッ!』
『ヴォオオッ!』
激しくぶつかり合う神々の剣技。
周囲の一同は圧倒されてしまっていた、仲間たちも含めて。
「凄い……」
刃がぶつかる度に散る光はライフ・シュトロームなのだろうか、幻想的な光景に思わず心を奪われそうになってしまった。
『グアッ……』
しかしアボミネンスの方が一枚上手でゼノメサイアをどんどん押して行く。
『神に触れられると言ってもゲートの恩恵を受けぬ君に私と母二人分の恩恵を受ける私は倒せないよ?』
『倒す必要はないっ、ただ気持ちを……!』
立ち上がるゼノメサイアだが剣を構え直す隙も与えられずアボミネンスは迫る。
『それが無意味だと言っているっ!』
思い切り罪ノ剣で斬りかかる。
しかしその間にある存在が割り込んで来た。
『コイツに対抗できるのはアンタだけじゃない……!』
メイトが左手を右手で支えながら罪ノ剣を掴んでいる。
聖杯に力を取り込むつもりだろう。
『アァァァッ!』
しかし罪ノ剣の力はあまりに強大でメイトの聖杯でもキャパオーバーを起こしてしまいそうだった。
『フンッ!』
しかし何とか左手に力を宿しアボミネンスを一度払い除ける。
『はぁ、はぁ……キッツイねこれ』
全人類が固唾を呑んで見守る中、メイトは自身を傷付けながらも罪の力を振るう。
『デラァァッ!』
その威力は凄まじく流石のアボミネンスも一瞬だけ身構えた。
しかしすぐに咲希へのダメージが大きすぎる事に気付く。
『罪と赦しの間で揺れているね。罪だけに身を委ねていれば楽に扱えたかも知れないのに』
『楽してちゃ何も得られないでしょ!』
何度でも新生の言葉を否定し左手を振るう。
そこへ快のゼノメサイアも体勢を立て直し合流した。
『その力はリスクがでかい、俺が隙を作るからそこで叩き込んでくれ』
そしてゼノメサイアは愛ノ剣を構えて突撃していく。
刀身を生命の力で輝かせフルパワーで振り下ろした。
『オォォォッ!』
『フンッ』
しかしアボミネンスはあえて片手で受け止める姿勢を見せた。
そのまま余裕そうな様子で渾身の斬撃を防いでしまったのだ。
『なっ』
『言っただろう?恩恵が違うと!』
そして空いた片手に持つ罪ノ剣を思い切り突き刺そうとした、そこへ。
『む……』
複数の小型ミサイルが飛んで来たのだ。
その爆発が煙幕となりゼノメサイアを一度逃してしまう。
「多連装ミサイル!もっとだぁ!」
遠くから眼中にも無かったゴッド・オービスがありったけの砲撃を繰り出しているのだ。
『まだ邪魔をするのかい……?』
標的をゴッド・オービスに変えゆっくりと迫る。
「蘭子ちゃん!カードキーを!」
「うんっ」
やるなら今しかないと判断したTWELVEの一同は蘭子が託された切り札だというカードキーを使う事にした。
「これで終わって……!」
力一杯カードキーを機内のコンピュータに差し込む。
しかし何も起こらない。
「え、何で……?」
ここに来て切り札が不発。
何故なのか、使い方を間違ってしまったのだろうか。
しかしそんな悠長な事は言ってられない、アボミネンスがそこまで迫っている。
『一瞬で終わらせてあげるよ、苦しまぬようにね』
縦に罪ノ剣を構えたアボミネンス。
しかしその背後からメイトが迫る。
『ウバァァァッ!』
『グヴォッ……』
今のアボミネンスに隙を見出し罪の力を叩き込んだのだ。
思わず仰け反ってしまうアボミネンス。
『ホラ、隙だらけだったよ……ッ』
背中に傷が出来、その罪が血液のように漏れ出す。
『はぁ、無駄な足掻きだと言うのに……』
そしてアボミネンスは一度体勢を覆す必要があると考えた。
そのため罪ノ剣を自身の腹部に思い切り突き刺す。
まるで切腹のようであった。
『グッ……ゥグオォッ』
そして思い切り引き抜くとそこにはバベルに染まったライフ・シュトロームが纏わりつき凄まじいエネルギーを生み出していた。
「なっ、何……?」
コックピットの中で何か異様な雰囲気を感じる陽。
胸ポケットのサングラスにはアモンの顔が写っていた。
『ヤバいぞ、これは……』
これまでにない恐怖を感じるアモンは実体はないと言うのに震えていた。
そして新生の力は解き放たれてしまう。
『私に罪を重ねよう……』
そう呟き思い切り罪を纏った剣を振り払った。
途端にこれまでに無い凄まじいエネルギーが周囲に放たれる。
「…………っ」
何も反応など出来なかった。
凄まじい罪のオーラが周囲の街を一気に破壊していく。
ゴッド・オービスは慌ててシールドを展開したがそれでも衝撃は酷く伝わって来た。
「うわぁぁぁぁっ……!」
まるで強烈な台風が来たかの如く街全体が軽く吹き飛んで行く。
オービスのシールドは簡単に破られ機体にも大ダメージ、二人のゼノメサイアも全身に傷を負って吹き飛ばされてしまった。
「あ、あ……あぁぁぁっ!」
周囲の街からは人々の悲鳴が至る所から聞こえる。
多くの人々が巻き込まれ無惨な死を遂げたのだろう。
その家族や友人、恋人たちの幸せを奪われた悲痛な叫びが耳に届く。
『なんて事……』
ゼノメサイアもオービスも立ち上がろうと試みるがなかなか起き上がれない。
そしてウィング・クロウのコックピットではまた新たな出来事が起こっていた。
『あ、あれ……?陽……っ』
陽のサングラスに映ったアモンの姿が何かに吸い込まれて行くのだ。
「アモン……?何処に行くんだ?」
そしてアモンは陽を完全に離れある場所へ引き寄せられて行く。
それは大技を放った後、地面に苦しそうに疼くまるアボミネンスだった。
世界中の罪、今まさに蹂躙を繰り返すヒトの素体も大勢アボミネンスに吸収されて行った。
『ぐぅぅぅっ⁈ 世界中の罪よ、私と共に……っ!』
非常に苦しんでいるが更に禍々しいオーラを強めながら立ち上がる。
そのオーラの中に吸収されていくアモンは最後に陽を心で見つめた。
『オォォォッ!』
罪ノ剣だけではない、アボミネンスそのもののライフ・シュトロームが罪に染まって行く。
『私は既に罪そのもの……生命の核は罪に染まった!』
完全に罪を宿したレ・アボミネンス。
その圧倒的なオーラと力に世界は絶望に包まれる。
彼に勝ち、心を救う術はあるのだろうか。
つづく