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#3

 夕方、学校が終わる頃になって快は家へと帰って来た。


「はぁ……」


 孤独を感じベッドで横になっていると姉が部屋に入って来る。


「快、あんた今日学校行かなかったの⁈」


 明らかに怒っているのが分かる。

 何故バレたのだろう。


「え、いや行ったけど……?」


「嘘言わないで、クラスの子が休んだからってプリント届けに来てくれたよ!」


 クラスの子、来るなら瀬川だと思うが瀬川にはサボった事は言わないように行ってある。


「瀬川?」


「いや女の子。待たせてるからまず行ってあげな!」


 女の子、一体誰が自分のためにプリントを。

 それより今はみう姉が怖かったが。


「ん……」


 コミュ障なのでそれだけ言って玄関を覗く。

 するとそこには小柄で可愛らしい少女がちょこんと立っていた。


「どうも……」


 少し照れ臭そうにしている少女。

 名は"与方愛里/ヨガタアイリ"という。


「あ、与方さん……どうしたの?」


「これ、プリント届けに来たの。」


 そう言ってプリントの入ったファイルを手渡す。


「ん、ありがと」


 受け取ったので見送ろうとするが彼女は中々帰ろうとしない。

 何故かモジモジしている。


「どうした……?」


「えっと、今日何で帰っちゃったのかなって……」


「どういう事……?」


「快くん今朝学校の前まで来てたでしょ?そのまま帰っちゃうの窓から見えたの」


 まさか見られていたとは。


「いやまぁ、ちょっと事情があって……」


 少し考えるがどうしても纏まらない。


「(障害とか鬱病のこと話したら嫌われるかも……)」


 そんな考えが思考を遮ってしまい何も言い訳が浮かばないのだ。

 すると沈黙を嫌ったのか愛里は発言する。


「何か話しづらかったり学校で不安な事あるなら相談乗るよ?」


 優しい笑顔を見せてくれる。

 それで少し安心したので考えが纏まった。


「いや、昨日色々あってさ。不良みたいな人に暴行されたりして……それで少し他人が怖くなったっていうか」


「え!そうだったの⁈大丈夫だった……?」


 驚いた顔をして更に心配までしてくれる。


「うん、大した怪我はしなかったよ。それより精神的ダメージの方がね……」


「だよねぇ……誰も助けてくれなかったんだ」


「っ……!!」


 その一言で快はかつての事を思い出す。



『ヒーローなんてこの世に居ねぇんだよ!!』



 両親が殺された時の犯人の言葉を思い出してしまう。

 この時は誰も助けに来てはくれなかった、そういえば不良に暴行された時もそうだった。


「はぁ、はぁ……」


 そこで少しパニック障害が始まりそうになる。

 その様子を愛里は察した。


「大丈夫?顔色悪いけど……」


 上目遣いで顔を下から覗き込んで来る。

 その距離の近さに思わず仰け反ってしまった。


「うわっ!だ、大丈夫だよ……」


 よく見たら小柄で童顔な割に胸がかなり大きい。

 緊張して顔が赤くなってしまった、それを愛里は指摘する。


「本当に?顔赤いけど」


「大丈夫っ!」


 慌てて否定するが愛里は心配をしている。

 何とか話を戻そうと試みた。


「えっと、俺はヒーローみたいにカッコよく絡まれてる人を助けたかったのにさ」


 あの時の自分を思い出す。


「でもヒーローなんてこの世にいないんだよな……」


 そう発言すると愛里は少し黙る。

 考えるような素振りを見せた後こう続けた。


「ううん、ヒーローはいるよ。じゃないと私、ここにいないから」


 真剣な表情で語り出す。


「小さい頃家が火事になってね、私のヒーローが助けてくれたの」


 かつての記憶を思い出しその時のヒーローの姿が脳裏によぎる。


「その後も泣きながら寄り添ってくれて嬉しかったなぁ」


 過去を思い出しながら笑顔になる愛里。

 しかし一方で。


「ヒーロー、いたんだね……」


 快は自分がヒーローになれていない事を痛感してしまう。


「そんな中で俺はヒーローになれてない……」


 悔しそうに呟くと愛里がフォローするような形で発言する。


「きっと選ばれた人がヒーローになるんじゃないかな……?」


 しかしその発言が快には地雷だった。


「俺は選ばれてないって事……?」


 全てネガティブに考えてしまう。


「あ、そんなつもりじゃ……!」


 愛里も失言に気付いたのか慌てて訂正しようとするがもう遅い。


「ごめん、帰ってくれるかな……?」


 そう言って追い返そうとする。

 正直もうキツかった。


「……ごめんなさい」


 一言謝ると愛里はその場を後にした。

 帰宅したのだ。


 ______________________________________________


「はぁ……」


 ため息を吐きながら自室に戻ろうとリビングを通る。

 しかし姉の美宇は逃してくれなかった。


「今日何で学校行かなかったの」


 忘れてた、姉も怒っていたのだ。


「本当に鬱が辛くて……」


 何とかその場を逃れようとする。

 しかしやはり逃してくれない。


「それは分かるけどこの間もそう言って休んだでしょ?せっかく婆ちゃんがお金出してくれてるのに無駄にして申し訳ないと思わないの?」


「でも無理したら余計に辛くなるから……!」


 抵抗するが姉は呆れたような顔をする。


「病院でも言われたでしょ、ちゃんと日中行動した方がいいってさ。ちょっとでも無理しないとそっちの方が酷くなるよ!」


 しかし快からすれば余計なお世話だ。


「みう姉には俺の辛さは分からないよ……」


 ハッキリとそう言うと姉は辛そうな顔をする。


「分かるよ、私だって鬱っぽくなる事あるもん。父さん母さん死んでから快のためを想って大学も行かずに働いてるのに……認知症の婆ちゃんの介護もしてさ、私だって辛いんだよ……?」


 自分の辛さもある事をアピールしてくる。


「でも俺の方がちゃんと鬱病になった、病気なんだよ……!」


 しかしこちらは病気だ、診断もされている。

 自分の方が辛いのだと言った。


「私の辛さは考えてくれないの⁈」


「余裕ないよ!」


 そう言って無理やり振り切って自室に戻って行く。

 一人残された美宇は床にへたり込んだ。


「何でこんな大変な想いさせるのよ、父さん母さん……」


 大変な弟を遺して死んだ両親に涙目で語りかけるのだった。

 ・

 ・

 ・

 一方で自室に戻った快は特撮ヒーローのビデオを点ける。


『がんばれー!』


 そこで誰からも愛されるヒーローを見て嫉妬心に似た悔しさで震えるのだった。


「ヒーローになりたい、そしたらきっと……」


 そう言って快は番組を見続けるのだった。


 ______________________________________________


 翌日、快は瀬川との約束の地へ向かうため新宿駅で電車を降りた。

 するとスマホにLINEが届く。


『やべー寝坊した!遅れます…!』


「あいつ……」


 駅のホームにあった自販機で何か買おうとするが。


「(コーラ売り切れてる……)」


 大好きな缶コーラが無い事にがっかりする。

 今の快の傷ついたメンタルには何でも深く刺さり過ぎるのだ。


 昨日の愛里と美宇との一件はまだ快の心に傷を大きく残していた。

 そんな状態で瀬川と楽しめるのか、楽しめないと失礼じゃないか、そんな事まで考えては落ち込んでしまうほど。


「はぁ〜」


 自分はヒーローにはなれない。

 まともな人からそう言われてしまっては反論のしようが無い。

 しかしヒーローになりたい、必要とされたいという欲求は止まらない。今の心は苦しくて仕方がなかった。

 大きくため息を吐いたその時、ホームにある男の声が響いた。


「おい、落ちたぞ!」


 何やら人が一箇所にぞろぞろと集まっている。

 何事かと思い快もそちらを覗いてみた。

 するとそこには。


「うぅ〜いててて……」


 なんと酔っているであろうホームレスが線路の上に落ちてしまったのだ。

 そのまま眠ってしまったのか起き上がる気配がない。


『間もなく列車が参ります』


 タイミング悪くアナウンスが流れる。


「待ってよ、電車来ちゃうじゃん!」


「誰か駅員さん呼んで!」


 しかし誰も自分から動こうとはしない。

 理由は明白だ、無理に助けようとしたら自分まで巻き込まれかねないから。


「ゴクッ.......」


 そんな中息を呑む快が考えていた事は。


「(証明するなら…)」


 ヒーローになりたい、しかし自分にはなれない。

 それは本当なのかどうか証明するチャンスがやって来た。

 しかし失敗すれば死ぬかも知れない、しかし挑戦しなければ二度とチャンスは訪れないかも知れない。

 そんな心の葛藤が渦巻いていたのだ。


「ふぅーーよし……!」


 そして快が取った決断は線路に降りて助ける事だった。


「おい!電車来るぞ!」


 確かにこのまま自分ごと死ぬ可能性もある。

 しかし今は自分がヒーローになれる事を証明しなくては。出来なければ死んだも同然なのだ。


「あの!大丈夫ですか⁈」


 寝ている酔っ払いを起こそうと体を叩く。


「うぅ〜うるせぇなぁ……」


 しかし全く起き上がる気配はない。


「クッソ!」


 そこで快は肩を組み無理やりにでも起き上がらせる事にした。

 そこへ電車がやって来る。


 プアアァァァーーーンッ


 耳をつん裂くような汽笛を鳴らして迫り来る。


「うるせぇ……なぁ!」


 その時酔っ払いは寝ぼけながらキレて快の手を払い除けた。また線路に横たわってしまう。


「おい!しっかりしろって!!」


 もうダメだ。

 電車はすぐそこまで迫っている、もう間に合わない。


「きゃーーー!!」


「ダメだぁぁー!!」


 そんな声が響く。

 そして快は。


「はぁっ、はぁ……」


 まるでスローモーションのように時間が流れていた。走馬灯というやつか。


 ドクン、ドクン……


 自分はノロマで頭も悪くて。


 ドクン、ドクン……


 障害のせいで人とも上手くいかずに。


 ドクン、ドクン……


 夢も叶えられずうつ病になって意味もなく苦しみ。


 ドクン、ドクン……


 誰も救えないまま、必要とされないまま死んでしまうのか?


「嫌だ………」






 嫌だぁぁぁーーーーっ!!!






 そして響いた音は。


 ドオォォォォン……ッ!!!


 ______________________________________________


「……え?」


 目の前の光景を疑った。

 自分達に衝突しているはずの電車が宙を舞っているのだ。それに地面が崩れるように裂けている。



 グギャアアアァァァッ!!!



 その中から見た事もないほど巨大な生物らしき何かが出現した。

 耳をつん裂くような雄叫びをあげている。


「何だアレ………⁈」


 鋭い目つき、悪魔のような顔、轟く咆哮、全身を覆う鎧のようなトゲ。

 "バビロン"はその凶悪な面を見せて渋谷の街に出現した。


「グギャアォォォッ!!」


 新宿駅から進行する。尻尾を叩きつけビルを破壊し口からは熱線を放つ。

 突如現れたその脅威に人々は逃げる事すらままならなかった。


「………はっ!」


 しばらく唖然としていたが巨大な咆哮の隙間から微かに聞こえる人々の悲鳴を耳にして我に還る。


「助けてぇーー!!」


 訳もわからず逃げる者。


「ママぁぁーー!!」


 瓦礫に親を押し潰され泣き叫ぶ子供。

 またはその逆、子供を潰され泣き叫ぶ親。


「はっ、はっ……」


 その声を聞いた快の身体は自然と走り出していた。



「(ヒーローに、ならなきゃ…!)」






 つづく


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