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第59話 神奈川チョーコーのサイと士官・桜井 その1

1973年 9月頃 日曜日 昼頃 横浜


国士館高校3年・桜井進は、横浜にいた。


「いちちちち」


今日の横浜の風は強く、3か月前に骨折した鼻が強風の影響なのか身に染みた。


「え~っと。指定された喫茶店はこの辺のはずだが・・・・・・」


普段、都内を徘徊している桜井は、慣れない土地である横浜に久しぶりに来たせいか、迷っていた。

何故、士官のナワバリ外である横浜に、桜井が1人で来ていたのかというと・・・・・・。


「おっ、ここだここだ」


横浜駅西口近辺にある喫茶店「白十字」の前に桜井は立ち、やっと見つけた目的の喫茶店の前で独り言をつぶやいた。


カランカラン。


桜井は、喫茶店の扉を開けて入店した。


「いらっしゃいませ」


年配のマスターと思しき男性が、落ち着いた声で桜井に声をかけた。

桜井は店内を見渡し、目的の人物がいないか首を動かして探した。

その時。


「おー、桜井くん。こっちだこっち」


50代後半ぐらいの男が、店内テーブルに設置された椅子からゆっくり立ち上がり、桜井に声をかけた。


「倉田さん。押忍。どうもお久しぶりです」


この、桜井が頭を下げた、倉田という人物に呼ばれたからだった・・・・・・。


倉田頼仁。

横浜の顔役で、桜井や国士館のコワモテが多数所属する東横線一家とも親しい関係にある男であった。

その東横線一家繋がりだけでなく、喧嘩自慢が集まる士官内で、上の方に位置するほどのステゴロの強さを誇る桜井は、前々から倉田に目を掛けられており、今回ある用事で横浜の喫茶店まで呼び出されていたのだ。


「まあ、座れよ」

「押忍」


倉田に言われ、倉田の向かいの椅子に座る桜井。


「あの、今回俺を呼んだ理由って何ですか?」


桜井は、倉田から呼び出されてはいたが、肝心の内容は聞かされていなかった。


「まぁ、ちょっと待てよ」


倉田は、左腕につけた高そうな腕時計に目をやった。


「そろそろ来る頃だ」


そこから約5分。

桜井の背後から、喫茶店の扉が開く音がした。


「おう。こっちだ」


目の前に座っていた倉田が、左手をあげて手招きする。

桜井も、倉田に合わせるように、扉の方向へ振り返った。


「!!」


桜井は、振り返った姿勢のまま固まった。

何故ならそこには・・・・・・。


倉田は、立ち上がって、桜井が凝視する男に近づく。


「おー、サイくん。よく来てくれた。こいつ士官の桜井って言うんだ。仲良くしてやってくれ」

「イェ(はい)。神奈川チョーコーのサイ・ガンチョルと申します。よろし・・・・・・くって、あれ君は、あの時の」


神奈川チョーコーの番長・サイガンチョル。

2mの巨人。通称ハマのエンタープライズがそこにいた。


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