夕方過ぎ 三鷹市内 焼肉店「ハンガン」
「ほれ、岸本くん!カルビくえ!」
「は、はい・・・・・・」
焼肉屋の店内の一テーブルで、肉を焼くキム・ブントク。
それを正座しながら見ている岸本。
あぐらをかいてウーロン茶を飲むハン。
「なんだハン。お前はカルビ食わね~のか?さては、パンチョッパリだなてめー」
「うるせえ!俺は在日韓国人じゃ!」
「ははは・・・・・・」
「何が面白れーんだ!きしちゃん!」
「い、いや・・・・・・別に・・・・・・」
「ブン。お前が友人をここに連れてくるなんて珍しいな」
皿にのせたホルモンを持ってきながら、ブントクに話しかける店主。
見た目40代後半くらいのひげ面、短髪の男だ。
頭には白いタオルを巻いていた。
「まあな。ところでビールは?」
「てめー!誰が高校生にビール何か飲ませるか!十年早え!」
ブントクの頭をひっぱたく店主。
「いてー!何すんだ!」
「カカカ!これで少しは頭もよくなっただろ」
店主は、笑いながらキッチンへと消えていった。
(これが本当にあの極悪非道の朝鮮高校の番長なのか?)
岸本は、コップに入ったオレンジジュースを飲みながら、キム・ブントクをまじまじと観察していた。
「ん?俺の顔に何かついてるか?」
肉を食いながらキムが岸本に言った。
「い、いえ!何でもないです」
慌てて、自分のさらに盛られた肉に箸を伸ばして頬張る岸本。
「う、うまいです・・・・・・」
岸本は、肉のうまさに思わず自然と声が出た。
「そりゃそうだ。叔父さんがわざわざ現地まで行って厳選した神戸牛だからな」
キムは岸本に肉をほめられた嬉しそうだった。
言葉から察するに、どうもこの店は、キム・ブントクの叔父さんがやっている焼肉店のようだった。
「けっ!焼肉屋なら、俺のイルガチンチョク(親戚)もやっとるわ」
テーブルに肩ひじをつきながら、まだ悪態をつくハン。
「まあそういうなよ。騙されたと思って食ってみな」
右手で持った箸で肉をつまみながら、ハンに応対するキム。
「ちっ・・・・・・」
舌打ちしながら、鉄板上にある、焼けたばかりのカルビに手をつけるハン。
「俺は正直者だからな。不味かったらボロクソに言っちゃるぞ」
「分かった分かった。兎に角食ってみ。飛ぶぞ」
モグモグ。
「意外と、うまいな・・・・・・」
ハンは正直に言った。
「そうだろー!ここの焼肉店は日本一だからな!明月館(日本で最初の焼肉屋)より上よ」
叔父さんの捌いたカルビを褒められて、キムは自分の事の様に嬉しがった。
その頃、三鷹駅前では・・・・・・。
三鷹駅前
「いたか?」
「いや、いねー」
「ちっ、どこ行ったんだ」
山内たち蛇腹三人組が三鷹駅周辺を捜索していた。
「それにしてもおせーなー」
「もっと早く招集かけておけばよかったな」
「まさか、キム・ブントクと会うとは思わなかったからな」
山内たちは、金三兄弟のキム・ブントク対策として、キムにぶん殴られた後、慌てて士官10名を公衆電話から招集していた。