そこには、都内の不良たちから、チョーコーの番と言われている、キム・ブントクがポケットに手を突っ込みながら、仁王立ちで立っていた。
左頬に少し紫色のあざがあった。
「いてて・・・・・・」
「だ、誰だったんだあいつ」
(恐ろしくつええ・・・・・・)
山内ら蛇腹3人組は、三鷹駅前で倒れていた。
何者かに殴られて、3人ともその場にうずくまっていた。
「君たち大丈夫かい?」
サラリーマンらしき30代男性が、へたりこんだ山内たちに近寄る。
「うるせえ!触んじゃねえ!」
邪険に扱われたサラリーマンらしき男性は、気分を害しながらその場を離れた。
「あっ!」
富永が何かに気づいたように大声をあげる。
「なんだようるせえな!いちちち」
殴られた左こめかみを抑えつつ、山内は、富永に怒鳴った。
「い、いや・・・・・・」
「なんだよ。言えよ」
何かを考えている富永。
下田は、富永が中々言わないのでやきもきしている。
「振り返った瞬間に殴られたんでよく顔見えなかったんだが、あいつ・・・・・・金(キム)三兄弟のキム・ブントクだ」
「キム・・・・・・ブントク」
ハンは、路地裏の入り口辺りで立っている男を見てそうつぶやいた。
「キム・ブントク?知り合いか?」
「ああ・・・・・・チョーコーの番長だよ」
「ば、番長!?」
岸本は驚いた。
岸本は、チョーコーと言えば、都内で暴れまわってる悪名高い不良高校だと認識しており。
彼らのテリトリーである、十条周辺は極力近寄らないようにしていたのだ。
岸本の学校の不良ぶってる奴らも、「朝鮮高校だけは手を出すな」と言ってるくらいである。
そんなヤバい高校のさらに番長である。
岸本は完全に別世界の住人(まるで芸能人)を見るかのように、キム・ブントクを見ていた。
「お前は韓学だよな?名前は?」
キム・ブントクがハンに質問した。
「ハン・シュウイチだ。文句あるか!?」
キムの問いに、威嚇しながら応対するハン。
相手はチョーコーだ。
同じ在日といえど、舐められるわけにはいかない。
そんなハンの精一杯の威嚇だった。
「おーおー、威勢がいいな。嫌いじゃねえよ」
ハンの威嚇を受け流すキム。
「で、隣のお前は?チョッパリだよな?」
「き、岸本です・・・・・・」
「岸本か。俺はキムっていうんだ。よろしく」
(ほっ・・・・・・。どんなヤバい人かと思ったら、意外と普通だ)
岸本は、内心安堵した。
チョーコーの番長というくらいだから、どんな狂犬かと思っていたのだ。
「ここじゃあなんだ。ちょっとツラかせよ」
アゴを背後方面に向けてクイッとするキム。
それにピクッと反応するハン。
「ああ、いいぜ・・・・・・」
岸本は、前言撤回した。
(こいつら、いきなりあった瞬間喧嘩する気かよ~・・・・・・)