中央・総武線の電車の運転士・斎藤は、数十メートル先の線路上でフラフラしている高校生らしき男性を視認し、慌てて警笛を鳴らし続けていた。
その音で、混乱状態だった石野は、やっと今の状況を正常に認識した。
(おいおいおい、電車が目の前まで来てるじゃねえか!!!)
認識したと同時に命の危機を感じた石野は、目の前数十メートルまで電車が接近している中、ホーム上で自分に向かって呼びかけている二人の国士館高校生の所までダッシュ。急いでホーム上に両手をかけて上がろうとした。
だが、ホームに転落した際に頭を打った影響か、体に力が入らず中々登れない。
電車は、急ブレーキをかけたが、勢いはそこまで衰えない。
石野は焦った。
それと同時に、今までの自分の行いを走馬灯の様に思い出し後悔した。
(今まで散々朝鮮人どもをいじめた報いなのか!?)
半ばあきらめかけた石野に声が飛んできた。
「石野さん!」
先ほど呼びかけていた二人の国士館高校生(3年)が、ホームにかけていた石野の両手を、それぞれが握ると同時に思いっきりホーム内へ引っ張った。
滑るように石野がホーム上に引き上げられると同タイミングで、電車が石野の背後をブレーキ音を立てながら通過した。
「あぎゃ!」
その際、石野の右足が電車にぶつかり、この影響で石野は右足首を打撲、情けない悲鳴を上げてしまった。
だが、石野も誇りある日本最強と自負する高校の番長、電車に足をぶつけた影響を周りに見せない様に、何事もなかったかのように立ち上がった。
立ち上がると同時に、目の前で繰り広げられている死闘に目をやり、現状を確認した。
石野の目の前で、チョーコー生10名対国士館連合9名の激しい殴り合い掴みあいが、ほぼ拮抗した状態で続いていた。