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第4話 まてや!さかん坊

1960年代中盤 赤羽線 赤羽駅 朝


「ハッハッハッ!だ、誰か───」


革靴を履いた学ラン姿の不良高校生が赤羽駅構内を全力で走り抜けていた。

学ランをはだけさせ、顔面は汗だく。

これ以上腕や足を可動できないほど上下に躍動させてそれを遠心力に群衆をかき分け進んでいく。

時折後ろを確認しながら、決まっていたリーゼントはただのぼさぼさ頭に変わっていた。




「さかん!まてやぁぁぁぁ!」



ドドドドドド。


不良高校生の後方から、すさまじい地響きが聞こえてきた。

多くの通勤通学途中のサラリーマンや学生たちが地響きの方向を振り返る。


「さかんをころせぇぇぇぇ!」


その方向の先には、怒号を響かせながら30人ほどに達するであろう大人数の学生が我先にと競うように駆けていた。

坊主にアイパー、髪先を天に伸ばしたかのような短髪姿。

それぞれが鬼の形相でたった1人の不良を全力で追いかけていた。

特に先頭を走る、アイパー姿の見るからに不良学生は、先が尖った革靴を履いてるにも関わらず、とてつもなく足が速い。そのスピードは完全に不良ではなくアスリートそのものだった。


(ま、まずい。あれはキ、キム・・・・・・あいつに捕まったら殺される・・・・・・)


キムと呼ばれた男は、都内の不良たちから朝高の番格と言われている1人。キムジヘイと呼ばれる東京中に名をとどろかせた不良である。

背は180cmと長身にも関わらず、非常に足も速く手足が長い。身体能力も高く、その能力を喧嘩に応用して日本人不良の間から恐れられた男である。

その長身から振り下ろされるボクシングと空手で鍛えた拳で数多の日本人不良男子を殴り飛ばしてきた。

だが、キムジヘイの恐ろしさはその喧嘩の強さだけでなく、殴り飛ばしてフラフラな状態の不良を学校によくあるようなゴミ焼却炉に投げ捨てそれに火をつける、それをヘタヘタ笑いながら眺めるという趣味を持っているサディストでもある。

その逸話がより日本人不良男子たちを怯えさせ、キムジヘイを見たら180度反転して逃亡するという日本人不良の間のルールみたいなものができあがった。


そんなキム達の後方で一緒に走っているのが朝鮮高校の不良集団であり、その男たちの目的が前方でもう少しで追いつかれそうな不良、国士館高校生である。


そして、その国士館高校生、朝高生たちからはさかんの逃走劇もキムジヘイの攻撃で幕をおろす。


「おらぁぁぁぁぁ!さかんしねやああああああ!」


キムジヘイの飛び蹴りがさかん坊 の背中に命中。


さかん坊は激しく前方に数メートル転がっていく。

なんとか、態勢を整え立ち上がろうとするが時すでに遅し。

さかん坊の周りを数十名の朝高生が取り囲んだ。


「まっ───」


さかん坊が何か言いたそうにしていたが、それを聞く間もおかず、蹴りが洪水のようにさかん坊に降りかかる。


ドカバキ。


激しい打撃音が朝高生たちの集団中から聞こえてきたが、数十秒後その音がピタッと止まると朝高生たちは意気揚々と散っていった。

その中でボコボコにされていたさかん坊は、仰向けで失神しており、学ランには靴の跡がビッシリついていた。


朝高vs国士館、この戦いはまだ始まったばかりである。

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