1960年代 JR埼京線 電車内
「おらぁ!朝鮮人!キムチくせえんじゃこらぁ!」
電車の自動ドアが開いた瞬間、学ランを着た厳つい男たちが大量に電車内で乗り込んできた。
人数的には10数人。
ある者は木刀、あるリーゼントはナイフ、あるパンチパーマの男は金属バット。
三者三様の武器を携帯していた。
「ごらぁ!朝鮮人は朝鮮に帰れぼけぇ!」
乗り込んだ数十人の学生たちは、車内の窓を木刀でたたき割り、座席や手すりを勢いよく蹴ったり金属バットで思い切りぶつけたりしてターゲットである数人の同じく学ランを着ていた男たちを挑発している。
その挑発している様は完全にキマっている人間と思われても相違ない姿だった。
「なんだあんたたちは!俺たちはただ電車に乗っているだけだ!喧嘩を売られる筋合いはない」
電車内の座席に座っていた1人の学ラン姿の学生が立ち上がり目が血走った男たちに抗議をした。
髪は黒色。七三分けの真面目そうな学生だ。
「じゃぁかあしい!この朝鮮人どもが!」
朝鮮人と言われたその真面目そうな学生の左襟にバッジがついていた。
ペンが三方向に伸びたそれは。
通称サンペン。
のちに「恐怖のサンペン」と呼ばれるようになる東京中の不良の憧れであり恐怖の対象でもあった代物である。
そのサンペンを付けた学生たちは、東京の朝鮮高級学校(日本の高校にあたる)に通う生徒たちで、十条駅に向かう電車内に座っていた在日コリアンの高校生たちであった。
そして、その在日の高校生を威嚇しているのは日本のある高校に通う不良学生たち。
高校の名は「国士館」。
関東中から手の付けられないごんたくれの日本人の若者が集まる高校でもあり、右翼的思想を持つ学校でもある。
「おらぁ!」
木刀を持った男が、木刀を強く横に振り電車の窓が又大きな音を立てて四散する。
その衝撃でガラスの破片が一般の乗客に降りかかり、不良学生の怒号も相まって乗客たちは慌てて電車から飛び降りるように逃げ出す。
電車の中はあっという間に、10数人の国士館の不良学生と5人ばかりの普通の朝鮮高校の学生たちのみになっていた。
「おらぁ!いちびってんちゃうぞ!」
大声で叫びながら10数人の不良たちが5人を囲うように徐々に距離を縮めていく。
「朝鮮人どもぉ!はよかかってこいやこらぁ!」
威嚇しながら近づいていく不良たち。もう目と鼻の先。今にも男同士でキスができそうな距離まで迫っていた。
お互いにらみ合いが数十秒続く・・・・・・。
その間にも不良学生たちが朝鮮人と呼ぶ学生たちを電車内の角に追いやっていく。
ジリジリと後退していく朝鮮高校の生徒たち。
その圧に耐えかねたのか1人の朝鮮高校の生徒が目の前の国士館の生徒の両肩を押した。
「なにすんじゃこらぁ!」
それが合図となり、10数人の国士館の生徒たちが朝鮮高校の学生に一斉にとびかかった。
「ぐあぁつ!や、やめってっくれ!」
集団に殴られ蹴られ木刀で叩きのめされる朝鮮高校の学生たち。
応戦しようにも多勢に無勢で勝負にもならなかった。
相手は空手や柔道などの段持ちに加え日ごろから喧嘩なれしている国士館の不良たちに、真面目に学問を学ぼうと朝鮮高校に通う生徒に勝機はなかった。
殴られてる間、朝鮮高校の生徒が隣の車両を見ると怯えながら自分たちを見ている男性や女性乗客が大人数いた。
「た、たすけてくれ!俺たちはただ電車に乗っているだけなのに朝鮮人というだけで暴行をうけてるんだ!」
必死に隣の車両の乗客に叫ぶ1人の朝鮮高校生。
「・・・・・・・」
助けを乞われた乗客たちは、関わりたくなさそうに一斉に下を向いたり横を向いたりしてその言葉を受け流す。
「!!」
その姿に叫んだ朝鮮高校生は絶望した。
ここでは誰も助けてくれないのか・・・・・・。
朝鮮高校生は、執拗に殴り蹴る国士館の生徒たちだけでなく見て見ぬふりをする日本人たちへの怒り失望。それを暴行を受けながら心の中で何度も反芻した。
「二度と東京でデカイ顔するんじゃねぇ!」
「さっさと朝鮮へ帰れ!」
地面に倒れボロボロになった朝鮮高校生たちを見て満足した国士館生たちは意気揚々と電車から降りてどこかへと消えていった。
それから入れ違いに複数の小走りに電車に近づく集団がいた。
「通報があってきたんだが、どうしました?」
駅構内で通報を受けた警察官たちがのんきな声を出しながら現場にやってきた。
「あ~あ、こりゃひでぇな」
朝鮮高校生たちが電車内の床にうずくまって唸っている様を見て言った。
相変わらず他人事だ。
「ん?あ~被害者は朝鮮人か」
その時、一人の警察官がぼそっと言った。
「喧嘩か?国士館の奴らが朝鮮人をぼこぼこにしたらいいぞ」
「国士館高校と国士舘大学の奴らだろ」
「道理で高校生にしてはでかいと思った」
「朝鮮人は野蛮ね~。喧嘩なんてよそでやってほしいわ」
朝鮮高校生と警察官たちを見ながら群衆が世間話をする。
会社に遅れるのが嫌なのだろう、それぞれ愚痴を言っている。
「はいはい、邪魔になるんで下がってください~」
取り巻く群衆を現場から離れさせようとする若い警察官。
顔はめんどくさそうでいっぱいだ。
「どうします?このままだと騒ぎ大きくなりますよ」
若い警察官が上司らしき年配の警察官に聞く。
「ん~、まぁただのガキの喧嘩だ放置していいだろう」
そしてぼそっと若い警察官に言う。
「やられたのは朝鮮人だ」
「それはひどいんじゃないか?」
警察官の話を聞いていた一人の若い大学生と思しき男が口をはさんだ。
その言葉を聞いて、視線を下にしてうつむく警察官たち。
バツが悪そうにしている。
「大丈夫か?」
若い男が倒れている朝高生たちに駆け寄る。
「うぅ・・・・・・」
何とか若者の手を借りよろけながら立ち上がる朝高生。
そこに中年の警察官が声をかける。
「君、朝鮮高校の生徒かね?喧嘩なんかしてダメじゃないか。今度やったら警察署につれていくぞ」
「な!なんだよその言い方───」
中年の警察官の言い方に怒りを感じた若い大学生が反論しようとするが、中年の警官はさっさとその場から離れてしまった。
「いいんですよ・・・・・・」
ボロボロの朝高生が振り絞るように声を出す。
「俺たち朝鮮人が弱いから悪いんだ・・・・・・」
そういいながら涙を流す朝高生。
「この国では誰も僕たちを助けてはくれない」
「・・・・・・・」
それを黙って聞く日本人の若者。
「日本人にはこの苦しみはわからない」
そう言って、ぼろぼろの朝高生は若い日本人の手をほどき。同じような目にあった残りの朝高生4人の元に向かい立ち上げれるように手を貸していた。
「・・・・・・・」
若い日本人の大学生は黙ってそれを見ている事しかできなかった。
数時間後
立川 朝鮮中学校
「お、おい!」
クラスに坊主頭の小柄な朝鮮中学生が慌ててクラスに飛び込んできた。
「どうした?芸能人でも見かけたか?」
笑いながらそれをちゃかす一人の男。
身長はそこまで高くないが、中々のガタイである。
一目で体を鍛えていると分かる。
手は拳だこでハンマーのようにゴツゴツしている。
「き、きむ!十条でソンベたちが国士館の高校と大学のチョッパリに襲撃されて病院に送りにされた!」
「な、なんだって!」
ざわめくクラス内の生徒たち。
男子は全員坊主頭で揃えられ、その坊主頭の男子全員が一応に席を立った。
「またか」
「これで何度目だ」
「俺たちはただ学校に通っているだけなのにチョッパリの野郎」
ざわついているクラスの中で異様に身長がデカイ男がキムと呼ばれたガタイのいい男に話しかける。
「キム、これは俺たちがやり返さないといけねぇぞ」
「分かってる」
ここから朝鮮高校対国士館高校&大学の血で血を洗う抗争が幕を開けた。