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37 第一章エピローグ

青平の北海道遠征から数ヶ月を経て、政府から正式に北海道奪還が発表された。

調査の結果、あれだけ大量にいた魔物は一体も確認されず、各地に残されたのは旧市街地の廃墟と、大雪山系を除き広く均された草原地帯であった。

それ以外には、丘陵地帯とは呼べないまでも大分標高は下がり、大部分は広大な平野となっている。

この変化によって、自然環境などを始めとした様々な部分でダンジョン災害前と同じようにとはならないだろう。

しかし、50年前のダンジョン災害発生後から高まり続ける土地開発の熱は、これを投機のチャンスと捉えたようで既に動き出している者もいる。

とはいえまずは復興が第一であり、臨時に立ち上がった北海道復興庁を先頭にしてこれにあたるというのが政府の見解である。

ちなみに、元侵蝕領域内における大雪山系以外を水源とする河川──特に天塩川などは、なぜ涸れていないのかと疑問であったが、一部残っている山林地帯の中などに、複数の豊かな水源が確認されたのだ。

まるで都合よく、涸らせないように残そうと意図したかにも見える配置であった。


そんな大規模な侵蝕領域の数少ない奪還事例として世界中が注目している中で、その立役者である青平が超高額の寄付をしたことが発覚した。

彼は奪還作戦中に斃したすべての魔物──少なくとも数万体はくだらないその素材を取得したわけだが、その売却益の大部分を復興のためということで寄付したというのだ。

本人はそもそもソーシャルメディアも連絡用にしか使っておらず、自分から何かを発信する気質でもないため、外部から漏れた情報である。

そのためあくまでも信頼性を確保できない未確認情報であると前置きがつくが、おおよそ12桁ほどの金額になるという。

彼のその行動は世界中から賛美され『日本の英雄、守月青平。彼の行動に世界が称賛』といったような、いかにもな動画や記事も濫造された。

しかし、その莫大な報酬の内いくらかが落ち目のダンジョン関連企業に流れたことは、表に出ることはなかった。




そうして光が強くなればなるほど、闇もまた深くなる。

先に紹介した炎上系スレスレの配信者である桐谷圭吾の元に集まっていたアンチ青平勢力も、北海道奪還という誰もがなし得ない、批判のしようがないほどの大功績と、その功績を誇ることもせず、あまつさえ復興のためにと巨額の寄付をした彼の行動を前にその多くが離れていき、むしろ青平の熱心なファンとなった。

ライトに他者を攻撃して満足感を得ようとする層は、得てしてそういう行動を取りやすい。

彼らにとって他人の瑕疵を責めるのも、瑕疵のない英雄を讃えるのも、本質的には同じことなのだ。

結局は、そういった意見を持つ自分こそが大切で、それを他者に見せることで空虚な満足感を得ること──得られていると錯覚できることが重要なのだから。


一方で、そんな状況でもなおアンチ青平というスタンスを崩さない者もいる。

悪意の煮凝りのようなその連中は『何か裏があるはず』『ズルをしていなければおかしい』『寄付なんて偽善だ』『そもそもあいつが居なくても奪還できた』『ただの力任せで、戦略を欠いた無能』などといった馬鹿のエコーチェンバーによってより先鋭化されていく。

彼らのその歪んだ認知では『偽善で12桁も寄付ができるか』という正論は届かない。

自身の知りたい、聞きたい情報だけしか取り込むことはないのだから。

さらに、この段になって新たに心が──そしてなにより頭が弱い陰謀論者が加わったことも付記しておく。

曰く『守月青平は単なる駒に過ぎない』『背後に巨大な勢力が動いていて、守月青平はその手先として利用されている』『奪還作戦自体が、別の目的を達成するために仕組まれた罠だった』らしい。

なにを言っているのかは、本人を除いた誰にも理解できなかった。


そうした連中に担がれている霧谷は、最初こそ自らが伸びるためのひとつの方法くらいの感覚で青平叩きを行っていたはずが、気づけばそれこそが自分の意見であると勘違いし始め、より攻撃的に、より過激になっていった。

その結果として一線を越え、しっかりとマークしていた情報部──内調を基に拡張・発展した組織──によって逮捕された。

しかしそれによって離れる者は少なく、むしろ『不当逮捕だ』『真実だからこそ揉み消そうとしている』『(青平に攻撃が)効いている証拠』などと、まるでカルトの様相を呈して来ている。


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