そんなわけで、真奈美は実質的に青平の弟子2号のような扱いになった。
玲那の時の経験から、まずはダンジョン内でスキルを使用し、その際に流れる魔力を感じるところから始めた。
ちなみに、いわゆる魔法系スキルに限らず、武術系スキルやステータスの向上なども魔力の作用だということが判明している。
索敵系スキルが魔力を放出してその反応を確認する形態だったのと同じく、身体能力や反応速度の向上、武器術系スキルで身体が自然と動くというのも魔力の働きだったのだ。
魔法スキル持ちしか覚醒──通常空間でスキルが使用できるようになることを仮にこう呼称するようにした──できないのであれば、公開には踏み切らなかった可能性もあり得た。
ダンジョンで魔物を撃破することで、誰しもが──その多寡や有用性は別にして──スキルを得られ、そのスキルを元に覚醒に至れる可能性があるのだ。
もし、逆に魔法系スキルを持つ一部しか覚醒に至れないのであれば、この覚醒メソッドの公開は、ただ社会の騒乱を招くだけであろう。
それから真奈美は着々と成長し、玲那を教えた時よりも早く覚醒に至った。
これは彼女らの才能を比較してどうとかいう話ではなく、単に検証が進みメソッドが洗練されたことが大きい。
ちなみに奈緒は玲那と同時に教えていたのにも関わらず、遥かに早く覚醒に至った。
これは完全に才能であった。
なお本人の感想としては『書類仕事が捗るわ~』とのことである。
そうして検証が進んでいく内に、ひとつの仮説が出来上がっていった。
たったの3例で仮説と呼ぶのも烏滸がましいが。
その仮説とは、ダンジョンで得られるスキルは、ゲームの体験版のようなものなのではないかというものだ。
インターネットの対戦機能や、ランクマッチ機能、トレーニングモードなどに制限がかかっていたりするあの体験版である。
本来は青平のように場所を選ばず使えるはずのスキルを、ダンジョン内と場所を制限した上で体験的に使用させているのではないだろうか。
青平はあまりゲームなどをやった経験はなかったのだが、真奈美が教わっている中でそうポロッとこぼしたのだ。
それを青平が採用し『ダンジョンスキル体験版仮説』として浩一郎を通して政府に提出、以降はその名称が世間にも浸透していくことになり、慌てるやら気恥ずかしいやらで、クソ勇気バフが切れて小心者に戻った真奈美が騒ぎ立てるのだが、それはしばらく先の話である。
覚醒には、使用範囲外でもスキル使用が可能になること以外にも、いくつかの効果が認められた。
その内のひとつが、スキルのマニュアル操作によるスキル経験値の増加である。
魔物を撃破したりすることで、身体能力の向上などが見られる、いわゆるレベルアップとしか言いようのない不思議な現象が起こるというのは先に述べたとおりである。
ゲームのステータス画面のようなものはないため、数値などは確認できないが、本人には明らかな感覚がある。
このレベルアップは、スキルにも適用される。
ダンジョン内でスキルを使用することによって、そのスキルにも経験値が入っているのだろうと推測されている。
特に戦闘に用いた際は伸びやすいなどとも言われるが、実際には戦闘の前後、たとえば戦闘前に索敵スキルを使用したりだとか、戦闘後に回復魔法を使用したりだとかでも同様の効果が見込めることが、各国の研究機関の調査により判明している。
当然そういった情報は秘匿され、一部が恩恵を受けるに留まっているが、世間でも噂として語られる程度には認識されている。
そのスキル経験値が、増加しているのではないかと気づいたきっかけは玲那であった。
先述のとおり、玲那はボッチ気質で、ストイックなところがある。
なればこそ彼女はAランクまで上り詰めたのだが、同時に行き詰まりを感じてもいた。
磨きに磨いたスキル群はどれも一級品であるのだが、その成長が頭打ちになっていたのである。
ここしばらくは、スキルのレベルアップを感じることがなかった。
だからこそ、一縷の望みをかけて青平に弟子入りしたところもある。
彼への単純な興味も強かったが。
そんな彼女が覚醒のための訓練中に、スキルレベルが上がったのだ。
これまでの苦労はなんだったのかというほどあっさり、色々なスキルレベルが上がった。
そのことを他のメンバーに報告したところ、スキルのマニュアル操作は取得経験値が多い、もしくは体験版にはレベルキャップが存在するのではないかという話になったのだ。
これを聞いて真奈美はどうかと確認したところ、具体的な前回のレベルアップの日付がわからないものの、体感的には早い気がするということであった。
奈緒も同様に、久々にレベルアップしたとのことでこの説は有力であるとされた。
レベルキャップについては、そもそも上限に達していたのかどうかを確認する術がないため、スキル経験値の増加ということで検証を進めることになった。
その他の効果、というか変化は、新たなスキルの獲得及び統廃合である。
わかりやすいところで言えば、魔法系スキルだろう。
スキルの、より正確に言うと魔力のマニュアル操作に習熟していく内に、先述の青平が語った魔法に関する適性──強化型・変換型・投射型・制御型・具現型・特殊型の6つのタイプ──それぞれに関係するスキルを習得した。
例を挙げると『強化型魔法』などである。
補足として、そういう名前のスキルを獲得したのではなく、その技能にそういう名前をつけたのである。
これらの修得と並行して、従来の属性魔法は失われた。
といっても、今までできたことができなくなったわけではなく、たとえば火を出すのであれば『変換型魔法』もしくは『具現型魔法』を使えば可能である。
むしろ今までは属性に縛られつつ、明示されてない適性にも縛られていた状態だったのに対し、現在ではより多くのことをこのスキル群がカバーし得るであろうことを感じている。
玲那はこの変化を、脳内の本棚の棚割りが変わったみたいと評した。
これも体験版における機能制限の内のひとつであろうと考察された。
そうしてあれやこれやと検証する内に真奈美が覚醒へと至り、ついにこの事実、そして覚醒メソッドを世界に公開するという段になって、思わぬ方向から待ったがかかった。