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13 反感

世間が守月青平を認識してからしばらく、多くは同情混じりながらも好意的にその存在を受け止めている。


『深層級を単独撃破すげー!』

『異世界転移……? よくわからんが、ダンジョン踏破は偉業だろ』

『東大合格してたの!?』

『割と整った顔してる』

『そうか、ご両親が……』

『戻ってきたら50年経ってたとか……』

『兵器扱いで転戦か』


そんな中にあって、当然のようにそれに反発する人間も出てくる。

霧谷圭吾きりたにけいごはその急先鋒と言えるだろう。

彼はBランク探索者にしてダンジョン配信者としてもかなり有名な男である。


──はあ、深層級単独撃破?

──お前らあんなのに騙されてるわけ?

──人間にそんなことできるわけねーだろwww

──騙されるやつも持ち上げてるやつもバカ過ぎるwww


しかしその配信内容は、悪い意味で尖っている。

炎上系とまではいかないが、良く言って挑発的で毒舌を売りにしている、普通に言えば強い言葉を使って平気で他人を傷つける言動をしているだけである。

他人を煽る言動やで注目を集める刺激重視の配信内容だ。

特にトップ層のような特別な存在に対する敵意を煽り、対抗意識を見せることで、一部の視聴者から『本音を言える男』『言葉は悪いが、言っていることは真っ当』などと持て囃されている。

その内容もあってか、一部から異様な支持を受けているが、そのファンの振る舞い──自分も強くなったと勘違いするのか、大きな態度を取り、他人を平気で蔑む──によってあちこちで問題を起こし、業界でも眉をしかめる者が多い。


──『予想が外れたm9(^Д^)プギャー』?

──記者会見は見てねーけど、要するに普通には想像できないような状況だったってことだろ?

──それで普通は無理だって言ってただけの俺が、後から口突っ込んできてるだけのお前にとやかく言われる筋合いなくね?

──文句があるならお前が配信しろよ。

──こうやって、顔と探索者カード晒して表で喋ってみろや!

──お前のランクと顔じゃ、恥ずかしくって出てこれねーよなあ?

──雑魚の見苦しい嫉妬でちゅか~?


元々は中堅の探索者で、スキルも経験もあり、上澄みと呼べるだけの実力を備えている。

賛否両論あるが、本気の探索では配信をせず、後から編集された動画を公開するというスタイルも特徴的だ。

普段はゲームや雑談配信がメインで、時に浅層など安全マージンを確保した状況でのみダンジョン配信を行っている。


──てか、もしアイツが異世界転移もしてなくて、ダンジョン踏破もしてなかったらやばくね?

──国相手に詐欺ってるってことじゃん。

──そんなことに俺たちの税金が使われるとかさー?

──ぶっちゃけ俺はこの眼で見るまで信じらんねーな。

──というわけで守月サン、コラボお待ちしてまーす^^

──ま、無理だろうけど^^


そんな男が、話題の異世界からの帰還者にしてダンジョン踏破者に目をつけたのは必然といえる。

彼の視聴者が、彼が打ち出した反守月路線を面白がり、事あるごとにその話題を投げるのもある。

その発言を切り抜き、拡散する者がいるのもある。

こうして、世間が持て囃している──ように彼らの眼には映る──守月に対して批判的、否定的なスタンスを持つ人間は、彼のもとに集まりだす。

いわば『アンチ守月』層が形成されていったのである。


彼らの行動は、従来の『〇〇アンチ』のそれと同じである。

匿名での発言が多いため攻撃的になりやすく、あくまで批判や攻撃が主目的なため建設的な会話ができない。

対象を感情的に批判するだけの誹謗中傷、嘘や不確定な情報を拡散して評判を落とそうとするネガティブキャンペーン、わざわざ彼の出演するメディアやコミュニティに侵入した上で批判的な発言をしたり連投コメントをしたりする嫌がらせ。

その背景には、異世界帰還者・ダンジョン踏破者というだけでなく現官房長官の元同級生であるだとか、国内の最高学府に合格していただとか、あるいはその容姿だとか、守月の持つ様々な要因が、彼らの嫉妬心や劣等感を刺激したのもある。

元々自己肯定感が低い、あるいは異様に高いのに認められていない現実とのギャップを感じている者たちが、ソーシャルメディアやアンチコミュニティにおいて連帯し、負のエコーチェンバーによって自身は間違っていないと確信を得て、他者へと攻撃することによって自身の立場を優位に感じようとする。

何も特別なことなどない、どこにでもよくある構図である。


さらにそこへ、守月が異世界で戦争に参加し、多くの命を殺めたことを非難する自称市民団体や、魔物の保護を訴える自称動物保護団体や、その力を侵蝕領域の奪還に使うべきだとする人間などが合流し、地獄の様相を呈している。


そんな俄な活況に沸くアンチ守月界隈に、新たなガソリンが投入される。

それは、彼が北海道奪還をするつもりがないと発言したことであった。


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