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11 金策

青平は探索者の資格を取得した。

手っ取り早くお金を稼ごうと思ったのだ。

失われた5年の月日、考えようによっては50年のそれを取り戻すため、何をするにもお金があって困ることはない。

半ば国に保護されているような特殊な状況ではあるが、自立するに越したことはない。

何より、50超えた妹や、70歳手前の幼馴染に世話を焼かれている現状に思うところがあった。


──字面だけ見ると、奇を衒い過ぎたギャルゲーみたいだな。


しょうもないことを考えつつも、ダンジョンに向かう。

場所は再びの京極ダンジョン。

ここは現在の住居──奈緒と同居中──からも近いし、一度は踏破しているので初見のダンジョンに潜るより多少はマシだろうという判断だ。

時間は深夜、丑三つ時。

仕方がないとはいえ、明るい時間に出歩くと、視線が鬱陶しいのだ。

中には尾行してくる者までいる。

ここは本当に自分の故郷なのだろうかと、時間のズレ以上に世界が変わってしまったような感覚がある。

世界もそうだが、何より自分自身が変わってしまったわけだが。

ともあれ、そういった諸々を嫌って、誰にも会わない深夜を選んだ。


青平は元の姿を知らないが、ダンジョン周辺の風景は様変わりしている。

ややこしい話になるが、京極ダンジョンは京極町にあるわけではない。

同じ左京区ですらなく、中京区にある旧新京極公園跡地に存在しているからそう呼ばれているのだ。

50年前、そこにゲートが発生し、北は御所手前まで、西は烏丸駅、南は国道1号線、東は八坂神社までが更地となった。

魔物の氾濫及び、その駆除のための砲撃等により、歴史的建造物を含めたすべてが灰燼に帰したのだ。

その段になっても火力の発揮に対するアレルギーを抑えられない人間がいたようだが、流石に世論がそれを受け容れることはなかった。

そんなあれこれがあり、しばらくの間ダンジョンゲートの周りは、ダンジョン省のゲート付き支部──俗にいうギルド支部──以外の建物は存在しない期間が続いた。

安全を確保するための特例的措置として、ギルドの周囲の一定範囲は入場及び新規建造物建設の制限がかかったためである。

そんな制限がなくとも、平和な日本に突如としてダンジョンだの魔物が現れた当時の混乱は計り知れないであろうし、わざわざ危険地帯に近づこうとする人間もいないだろう。

しかし、それに当てはまらない者たちも存在した。


実はギルドが設立する前から探索者は存在していた。

単純な好奇心、山師の勘、失われた家族の姿を求めてなど、理由は人によって様々であるが、それぞれがその身ひとつで危険地帯に入っていった。

その中から、現在は国内で伝説と呼ばれる探索者も誕生している。

加えて、そんな彼らをサポートするために乗り出した企業も存在していた。

前述のダイナ・サポートなどがそれにあたる。


そして、そんな命知らずたちのおかげで人類は生存圏を取り戻せたことが発覚する。

ダンジョンによる領域侵蝕は、その範囲内に敵性存在──つまりは地球人類が存在する限り、完全に定着することはできないということが、後の研究によってわかって来たのだ。

つまり、初期に溢れ出した魔物から逃げ、完全に避難がなされてしまっていたら、そこは侵蝕領域として奪われていただろうということだ。


そんな探索者の存在を追認する形でギルドは設置されたのであった。

そしてギルド設置後に、段々と上記の新規建造物建設制限が緩和されていった。

結果として、現在は探索者向けの施設が多く立ち並ぶ、探索者街とも呼ばれるエリアを形成されている。


そんな街並みを抜け、京極ギルドでAIによる手続きを終える。

この時間であれば、職員は仮眠している──当然、異常を検知すればすぐに不安を煽る音階のアラートが大音量で鳴り響く──ので、対面での手続きを求められることはない。

いくつかの分厚いドアを抜け、継ぎ目のない一塊の金属のような光沢を持つ四角い枠──そう呼ぶしかない不自然極まりない見た目のダンジョンゲートを目視し、そしてそれに向かって照準を合わせた重機関銃を横目にダンジョンに潜る。


ダンジョン内の構造は、探索済みのところであれば基本的に誰でも情報を得ることができる。

探索者が装着を義務付けられているボディカメラなどによって、3次元的に解析され、探索者が帰還すれば自動的に情報が更新されるのだ。

個人の利益を守るために秘匿される情報も存在するが、基本的に構造に関してはほぼオールフリーである。

そういうわけで青平は、事前に京極ダンジョンの構造を予習してきている。

探索者人生をここで終える者もいるという一層を最短距離で走り抜けた青平は、そのまま止まることなく京極ダンジョンの最高到達記録を更新した。


…………


青平がダンジョンに潜って3時間後、その姿はギルドの自動成果物スキャナーの前にあった。

このスキャナーは、AIが素材の種類・大きさ・重さ・品質を瞬時に解析し、登録データと照合、スキャン結果をもとに買取金額をその場で表示してくれる優れもので、なるべく対面での手続きを避けたい青平にとってはちょうど良かった。

さらに、ここでいう成果物とは物理的な物資のみならず、情報も含まれる。

装着を義務付けられているボディカメラを接続し、その映像もまたAIが解析した上で、新規情報であると認められれば買取対象となる。


そうして諸々を精算した青平が一言漏らす。


「……時給800万ってマ?」


マである。

青平が転移する前の最低時給が1,000円にも満たなかったことを考えると、比較するのもおこがましく感じる。

AIが算出した金額は最低2,400万円。

内訳としては各種物資が9割、情報が1割程度となっている。

これは情報に関する買取価格が、AIだけでなく後に専門家による解析が行われ、さらに上積みされる可能性を考慮した価格であるためである。

物資はそれまでの最高到達記録より少し前の階層で、既にデータベースに登録されている物のみを集めた。

新規の取得物がある場合、対面での手続きを求められることがあると聞いていたので、あえてそのようにしたのだ。


なお、彼が家を出てから発した言葉はこれだけだった。


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