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「……なるほどですねえ。まさか異世界にレベルアップ美容法なんてものがあるとは驚きでしたね~」


「まあ、どの世界でも美容に対する執着を持つ人はいるって感じですかね」


「アタシもそろそろ気にした方が良いのかな……?」


「龍ヶ崎さんはまだ若いし、探索者としても活動されているから大丈夫じゃないですか?」


「またまた~お上手なんやからもう。そういう守月サンはさらにお若く見えるやないですか」


「あー。僕はもう18から相当レベル上げてますからね。しばらくはこのままです。本当はもっと大人っぽく渋くなりたいんですけど」


「ないものねだりっすよね~。さてさて、次の質問にいきましょう!


『地球に帰ってきて驚いたことは?』ということなんですけど、50年ぶりのこちらの世界でビックリしたこととかありますか?」


「……」


それまでは軽妙な語り口で間を置かずに返答していた守月が少し黙り込む。

その様子を見て、何か地雷踏んでしまったかと顔には出さずに焦る真奈美。


「んーすみません。本当はスマホとか配信とか、その他諸々の浦島太郎状態を聞きたいっていう質問だとはわかってるんですけど……重い話しちゃって良いですか?」


「もちろんもちろん。守月サンが思ったとおりに答えてもらって大丈夫っすよ」


「ありがとうございます。地球に帰ってきて一番驚いたのは、両親が死んでいたことです」


「…………」


その返答に真奈美は咄嗟になにかを言うことができなかった。

コメントでは『あー』『まあ、そうか……』『50年も経てば、そういうこともあるよな』という反応。


「しかも両親は、タイミングが悪かったのもあって、僕がどこかのダンジョン内に居るんじゃないかって探し回っていたみたいで。ダンジョン災害が多少は落ち着いて、探索者が登場してからは各地のダンジョンを巡っては僕の写真とかを見せて聞き込みしていたらしいんです……」


その後も、淡々と両親のことについて語る守月に、真奈美は何も返すことができなかった。


「あ、あの……あのあの……」


『コミュ障こじらせて学校辞めた沙塔には難易度高すぎるっぴ!』『そんな辛い思いしてたんだ……』『いきなり異世界に召喚されて、戻ってみたら両親が……とか。しんどすぎるやろ……』『最近歳のせいか、こういう話に弱いんだよ……』


「あーすみません。こうなるとはわかっていたんですけど、言わずにはいられませんでした」


「あ、いえ。全然! 大丈夫っす! 大丈夫なんすけど……」


なんとか言葉を絞り出す真奈美であったのだが、その声は段々と潤み、震え出す。


「すいません、すいません。アタシが泣いたってどうしようもないのに……」


「ごめんなさい。そういうつもりじゃなくじゃなくって」


守月が立ち上がって真奈美に近寄り、その肩に手を置く。

質疑応答は一時中断し、真奈美が泣き止むまで僅かな時を挟む。


…………


「いやーすんませんっす。落ち着きました!」


「こちらこそ申し訳ないです。あんな話をするつもりはなくて、本当は色々と浦島太郎ネタを仕込んでたんですけど」


「マ? それ聞かせてくださいよ!」


「マとは?」


「あ、あのー『マジで?』みたいな意味っす」


「マです」


「早速使ってて草」


「草とは?」


「話が進まへん!」


『草』『草なんよ』『しっかり浦島太郎状態wwww』


「もう! 進めますよ! では次の質問、


『異世界ってどんなところ?』ということですけどどうですか?」


「これ、事情聴取でも結構答えるのが難しい質問でしたね。一応資料として見せてもらった最近のネット小説みたいなのが一番近いかなとは思うんですけど」


「なろう系ってやつっすか。じゃあ剣と魔法の中世ヨーロッパ風の世界って感じっすか?」


「そうですね。中世ヨーロッパっていうのが、時期的にも場所的にも範囲が広すぎて当てはまってるのかどうかよくわからないですけど」


「ほーほー。あ、なろう系っていったら、異世界に行くのもいくつかパターンがあるっすよね。トラックとか、神様がどうのこうのとか、召喚とか」


「みたいですね。僕は神様とかは会ったことがないんで、よくわからないですけど、神様が異世界に連れ去るパターンもあるんですか?」


「連れ去るっていうか、本当は死ぬ予定やなかったのに手違いで死なせてしまったから異世界に行ってどうのこうのみたいな」


「なんで神様がそんなこと気にするんでしょうね。たったひとり間違えて死なせただけでそんなイレギュラーな対応してたら、神様過労死するんじゃないですか?」


「神様が過労死は嫌すぎっすね……」


『神は死んだ(過労)』『言われてみれば確かに……』というコメントが流れる。


「とりあえず僕の場合は、人為的に召喚されたパターンですね」


「おー。そしたら人類がピンチで、召喚した国のお姫様に世界を救ってくださいって言われたみたいな?」


「お姫様とは会ってないですね。普通に考えて一国の王族、しかも女性がどんな人物が出てくるかかもわからない異世界召喚に立ち会うわけないですよね」


「そういわれたらそうですけど……でも後々は英雄を讃えるためにみたいなこともあったりするんやないですか?」


「まあ、それはあり得そうですね」


「じゃあ魔王を倒した時にはどうだったんですか?」


「いえ、実は魔王は倒してないんです」


「……?」


「むしろ、人類サイドを裏切って魔王サイドについた形ですね」


「マ?」


「マとは?」


「もうええねん!」


『ありがとうございましたー(締め)』『コントかな?』『天丼www』『話進まんwwwww』


「まあ簡単にいえば、魔王サイドから元の世界に戻る方法を提示されて、人類サイドを裏切ったってだけですよ」


「だけって……それは大丈夫なんすか?」


「誰から見て大丈夫なのかによりますけど、人類サイドからしたら大丈夫じゃないでしょうね」


「ええ……?」


『それはそう』『人類滅亡の危機に呼び出した勇者が魔王サイドについた件ってラノベありそう』


「でも、いきなり召喚とかいって拉致されて来ただけの人間ですよ。そもそもそこまで協力する義理もないでしょう?」


「そう言われたら、そうやんなあ……」


『それはそう』『しかも帰還したら……とかね』


「それで、向こうの世界はどうなったんですか?」


「んー。僕が魔王サイドについて帰還するまで、しかも魔王サイドから齎された情報なんで、どこまで正しいかはわかりませんけど、相当やり込めたみたいには聞いてます」


「というと?」


「元々、僕が召喚されるまで人類サイドは連戦連敗で、何もなければ魔王サイドが完勝するのが確定みたいな状態だったらしいんですよ。だからこそ古文書だかなんだかに記されてたなんていう、眉唾ものの儀式を行って僕を召喚したんです。僕が居なければ当然その状態に逆戻りしますよね。まあ、僕が魔王サイドの特記戦力を削ってたり、人類サイドが盛り返す時間を作ったりもしてたんで、何もかも元通りというわけにはいかなかったでしょうけど」


「その、聞いて良いかわかりませんけど、なんで魔王サイドについたんですか?」


「まあ色々とありましたけど、結局のところ魔王サイドは僕という戦力を除きたい、僕は元の世界に帰りたいっていう利害の一致ってことですかね」


『まあ、元の世界に帰れるなら、俺でもそうするかなあ』『だとすると、もし向こうの世界との交流を持とうとしても難しいのか?』『結構やばいんじゃない?』


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