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第14話 私を信じて待て

 という事で、私は急いで小次狼さんを探し、走り寄る。


「小次狼さんどうでした?」


 長そうな式の説明に耳を傾けながら、私は小次狼さんと会話していく。


「残念ながら、エターナルアザーについては何も情報は得られなかったの……。嬢ちゃんは?」

「うん、それなんだけど……」


 その会話中に、瞬間、一瞬、ほんの一瞬だけど周囲が暗闇に包まれる……。


 私と小次狼さんはそれに怯むことなく瞬時に周囲に目を凝らし、周囲に怪しい人物がいないか探る。


 そう、実はこの私達が付けている仮面、「闇夜でも周囲がよく見えるマジックアイテム」だったりする。


 私達にはこんな事は日常茶飯事であるし、用意に越したことはないってわけ。


「えっ、なんだこれは⁈」

「なにがどうなってるの?」


 当然周囲は大混乱し、大いにざわつく声が聞こえて来る。


「お騒がせして申し訳ありません。これはちょっとした演出になりますので、静粛に!」


(なるほどね……)


 というのも司会者の隣に、いつの間にか新郎新婦、即ち今回の主役の王子・王妃が立っていたからだ。


 感嘆のため息と共に、周囲から惜しみない盛大な拍手が送られる。


「小次狼さん……」

「ふむ、さっきから周囲は警戒しているが怪しい輩はいないのお……」


「私も同じくかな」


 私達がこの会話をしている理由、それは今の暗転の隙に「マジックリングが盗まれた可能性を考えたから」だ。


 だがしかし、王子と王妃の指には例のマジックリングがしっかりと付けられており、その証拠に魔石特有の真紅の眩い輝きを放っていた。


 それから式は順調に進んでいき、数時間後……。


「料理美味しかったね……」

「そうじゃな……」


 私達は食後の季節のフルーツを美味しく食しながら、注意深く周囲を見渡す。


 そう、私達がこんな呑気な会話をしているのは結局何事もなかったからだ。


 王子達が退席しようと会場部屋をでたその瞬間、壁際から聞こえる位の王子の悲鳴が聞こえて来る!


「な、無いっ! 私のゆ、指輪が……」


(し、しまった! まさか終わり際を狙われるなんて!)


 けど、後悔してももう遅い!


 私は小次狼さんと顔を見合わせ、瞬時に王子達がいる回廊へと向かう。


 そこには新郎である第一王子と新婦である王妃、更に慌ててかけつけた複数の近衛兵がボーゼンと佇んでいた……。


「王子、指輪はど、どうしたんですか?」

「それが、何故か無いんだよ! ああっどうしよう……」


(お、おかしいわ、これだけ兵がいる中でどうやって……?) 


 疑問に思ったものの、解決するには現状をどうにかするしかない。


「あの、また指輪は作り直しますので、あ、ちなみにお題はもう結構です」


(作り直しても、この前頂いた宝石類で十分にお釣りがくるし、ひとまず指輪の件は解決は出来るからね)


「そ、それが、もう駄目なんだよ……」

「えっ? なにがです?」


「嬢ちゃん、この国では結婚指輪を無くした者はもうその相方と結婚できないしきたりがあるんじゃ……」

「えっ? ええっ!」


「そうなんだよ、だからこそ対となるマジックリングを依頼しているんだ……。ああ、もうおしまいだ、これじゃ彼女と結婚出来ないよ……」


 小次狼さん達のその重い一言に私は顔が真っ青になってしまう。


(私のせいではないけど、ど、どうしよう?)


「ふむ、致し方が無い。やる事はやったんじゃ、帰るかの……」

「そ、そうね……」


 冷たいようだが、私達に出来る事はもうない。


 そんな中、よく見ると王子と王妃が心底嬉しそうに抱き合う姿を脳裏に焼き付けながら私達は無事孤島ブリガンに帰宅し、それから数日が経った。 


 非常に天気の良いある日、私は花屋の2階の部屋にてイッカ国の第二王子から届いた手紙を小次狼さんと仲良く眺めていた。


 以下手紙の内容。 


 お久しぶりです。


 色々と仕事お疲れ様でした。


 後払いの報酬を支払いたいと思いますので、直接またイッカ城にいらしてください。


 なお支払いのやり取りは、貴方と見識があるイハール=ブラッドが行います。


 なお、詳しい内容については使いのものから直接お聞きください。


 ドラクル=レイシャ様へ。


 手紙の内容は以上だった。


(んん? 色々と仕事お疲れ様でした? そ、それにドラクル=レイシャ様ってなんで私のフルネームを王子が知っているの?)


 他にも疑問は多々あるが……。


「えっと? 小次狼さん……? これってもしかして?」

「すまんな、色々嬢ちゃんの立場を利用させてもらった……」


「ま、まさか……?」

「すまん、エターナルアザーの名前を使った国単位のお芝居じゃな……」


 成程、持ってくる花の種類なんて王命でいくらでも変えられるしね。


「あ、あはは、な、なるほど……」

「ま、指輪が無くなれば第一王子と結婚出来なくなるので、王妃は無事第二王子と結婚出来るからの。流石に両親もそれは妥協するしかないじゃろうしのお……」


 小次狼さんは豪快に笑いながら、窓から見える青空を静かに眺める。


 よく見るとその澄んだ青空には二匹の小鳥が仲良く飛び立っていくのが見えた。


 そう、まるで第二王子と王妃のこれからの行く末の様に……。


 そうなのだ、蓋を開けてみれば今回のこの結婚式「最初から結婚指輪は紛失してしまうシナリオ」だったわけだ。


 少なくても、第一王子と第二王子はグルだろうと私は予想している。


 じゃないとあんなにスムーズに事は運ばない。


 という事は第一王子と第二王子、それに王妃の3人はとても仲良しなんだろうと予想できる。


 更には多分王妃は知らなかったんだろうと予想する。


(じゃないと式の最中や指輪の受け渡しの最中に、あんな悲壮感溢れた顔はしないだろうしね。まあ、そんな王妃に対して2人の王子は気を使ったんだろう、きっと……)


「ねえ、小次狼さん? ちなみに王妃のマジックリングの内側に掘らせた記号の意味ってなに?」 


 なんとなくは予想出来るけど、私としてはそれだけが気になっていた。


「あれはじゃな、イッカ国の古代文字で『信じて待て』じゃな……」

「あ、ああ、それでね……」


 私は何故、王女が王子に抱き着いて嬉しそうにしているか理解出来てしまった。


「しかしびっくりしたよね。回廊でいつの間にか第二王子にすり替わってるんだもん」


 第一王子がマジックリングを持ったまま何処かに隠れ、それと同時に双子の第二王子にすり替わり続けて演技をするシナリオだったと私は予想している。


 そもそも小次狼さんや内部事情に詳しい家臣達全員を欺くのは無理な話だしね。


「ほう? 会っていないのに気が付いたか? 双子だから何もかも瓜二つで初見じゃ見分けがつかないハズじゃがの?」

「そりゃ、王妃の態度が全然違うしね……? 」


 王子と王妃が心底嬉しそうに抱き合っていたのは、「信じて待っていた」からだったんだろうな、と。


 そして、「2人の事を真摯に考えて動いた心優しい第一王子にはきっといい人が見つかるだろう」と私は願わずにはいられなかった……。


(イッカ国のマジックリング関係は色々疑問が解決したし良しとして、問題は……) 


 私は接客用のソファーに深く腰掛け、大きなため息をつく。


 そう、問題はブラッド青年なのだ。


(どちらにせよ報酬の関係でまた後日会う必要があるけど、小次狼さんにはあのことについて色々相談しとかないとね)


 私は真正面に座っている小次狼さんを見つめながら、その事について真剣に考える。


「あの小次狼さん、その手紙に関係することでちょっとお話があるんだけど?」


 私は手際よく紅茶一式の用意をしながら、その話を進めようとする。


「ほう? 聞こうかの?」


 私は数日前にイッカ国の式場でブラッド青年と話した内容を小次狼さんに端的に話す。


「……ふむ、そうか、あの青年は豪商イハールにしてあの国の貴族じゃったか」


 小次狼さんは陶磁器のティーカップを静かにテーブルに置き、少し熟考する。


 私もその様子を見ながら、紅茶を静かに飲み干す。


「して、嬢ちゃんはあの青年と話してどう感じたんじゃ?」

「長や小次狼さんに負けず劣らずの傑物……」


「そうか、傑物か……。嬢ちゃんからしてその評価だと相当じゃな」

「ええ、これは私の予測だけど今回のマジックリングの件、おそらく王子への提案者はブラッド青年だと予想してるわ」 


「ふむ、そうじゃな。この手紙に書かれている事から王族とも既に親交がありそうじゃし、可能性は高そうじゃな」


 そう、でないと今回の報酬の件でわざわざ第二王子の手紙にイハール=ブラッドの名前を書く必要はないのだ。


 ブラッド青年は私のフルネームと昔のコードネームすらも知っていた。


 考えすぎかもしれないが、今回ブラッド青年の目的は「私と接点を持つことが目的」だと予想している。


「……で、嬢ちゃんはどうしたいんじゃ? 今回儂にデメリットは無いが嬢ちゃんはそうじゃなさそうじゃしの」


 小次狼さんは紅茶を飲み干し、陶磁器のティーカップを静かにテーブルに置く。


「癪だけど、再度会って確認するしかないかなと。どちらにせよ、報酬は貰わないと私の腹が収まらないしね」


 でないと散々利用されてタダ働きなどまっぴらごめんである。


「はっはっは! そうじゃな、相手の思惑通りかもしれんが行くしかなかろう」


(そう、あの青年のことだから、この私の性格すらも逆に利用してる気はするけどね。しかも本人は全く悪気はなく純粋思考で計算してそうなのがまた末恐ろしい……) 


 だからこそ、青年と再び会う必要があると私は感じているのだ。


「決まりね……!」

「うむ」


 私と小次狼さんは立ち上がり、気持ちのこもった熱い握手を交わす。


 そう、私と小次狼さんはコンビであり一蓮托生なのだから……。

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