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第12話 犯人のリサーチと対策   

 【紫色のヘリオトロープ】は私が昔所属していた怪盗組織【エターナルアザー】が怪盗予告に必ず使う贈り物の花だったのだ!


(うーん、これは非常にまずいことになったなあ……)


 回廊にて、立ち尽くした私は思わず海より深いため息をついてしまう。


(こうしてはいられない!)


「あの【紫色のヘリオトロープ】、間違いないわ!」

「ふむ、確かヘリオトロープの花言葉は渾身的な愛じゃったかの?」


 私達は時間が惜しいため最低限の会話をしながら、回廊を駆け足で進み、目的である騎士団長の部屋まで向かっていく。


「そう、贈り物としては別におかしくはないんだけど」

「成程、裏言葉か……。えっと確か、夢中とか熱望の意味じゃったかな……」


 そう、小次狼さんの言う通り花言葉には裏言葉もあるのだ。


「……今気が付いたんじゃが、あの花の色嬢ちゃんの髪の色にそっくりじゃがたまたまかの?」

「えっ! うん、そうじゃないかな?」


 小次狼さんの鋭い指摘に少し狼狽える私。


 そのせいか、私の走っているスピードが少し上がったのが自身でも分る。


「……儂は怪盗組織【エターナルアザー】の内部は詳しくはないが、遥か大昔は怪盗予告は出してなかったと聞くが……はて?」


 その私に追いつくように、私の顔を覗き込みながら駆け足のスピードを上げる小次狼さん。


「……す、すいません。あの怪盗予告、私が幹部になって作ったルールなんです……」

「そうか、逆算すると丁度100年前くらいからじゃったし、そんな感じがしたんじゃよな」


 目を泳がせながら、しどろもどろに話す私に対し、小次狼さんは腹を抱え豪快に大爆笑していた。


(この感じ、やはりバレてましたか……)


 そう、組織の幹部試験を無事? 通過した私はほどなくして、「花を怪盗予告に使いたい!」の意見を【エターナルアザー】で発案したんだよね。


 理由は「昔から花が好きだったし、折角やるんだったら楽しく仕事をしたい」から。


 周りの幹部連からは「わざわざリスクを増やすな」とか「今までやってないものをやる必要を感じない」とか言われて猛反対されましたけどね。


(ま、私も当時若かったので怖いもの知らずだったんだよね) 


 でも、長が「楽しそうだし、美学がありそうなのでやってみる価値はある」の鶴の一声で採用してくれたんだっけ。


 で、【紫色のヘリオトロープ】が花言葉である【夢中、熱望】に合致するため選ばれたんだっけ……。


 結果この花の怪盗予告、皮肉にも【エターナルアザー】の名前を世に知らしめる宣伝効果があったわけで……。


(そんなわけで、これがきっかけで私の株は徐々に上がっていき、結果№2になれたんだっけ……)


 勿論このラッキーパンチだけじゃなく、磨き抜いた選美眼と宝石類のカット技術などの努力もあってこそだけどね。


 更には皮肉にもこの怪盗予告の為に戦闘回数は増え、私の剣技も比例して研磨されていった。


 そんな私なので、逆に組織の手口は知り尽くしている。


「騎士団長の部屋は階段を降りて、もう一つ先だっけ?」

「そう、あそこじゃな」


 小次狼さんの射す指先を見て、ダッシュで階段を降り一階に向かう私達。


 だからこそ【紫色のヘリオトロープ】をあの部屋に設置したもの、即ち依頼者が誰かトレースする必要がある。


 そう、この城に潜り込んでいる【エターナルアザー】の組織の構成員を捕まえ、怪盗の被害を防ぐ為に!


「ふむ、扉に騎士隊長の印である交わる剣の彫刻」

「間違いない、ここね!」


 そんな事を考えながら、逸気持ちを抑え騎士団長の部屋の扉に手を当て中に入る私達でした。


 部屋の正面を見ると、黒の燕尾服を身に纏ったガタイのいい黒い短髪の中年の男性がいた。


 木目の入った簡素な作業机に座り、何やら書物を読んでいるのが見える。


 おそらく式警備前の時間潰しの最中だろうと私は予想する。


「ん? なんだ? お前達は!」


 騎士団長は瞬時に戦闘モードに切り替えたのか、覇気のある声と共に私達を鋭い眼光で静かに睨みつける!


 ここいらはさすがガリアス大陸3強イッカ国の騎士団長だ。


 歴戦の勇士とも感じ取れるその圧は半端ない。


 だが、私達は怯んでいる場合ではないのだ。


「火急の用事なんで単刀直入に発言します! 怪盗予告が懸念されるため、注意喚起にこちらに参りました!」

「は? な、なにっ⁈ して貴方達は?」


「えっと私達は先程第二王子に依頼された結婚指輪を直接持っていった魔石商のものでして……。それでですね」


 私達は騎士団長に詳しい事情を端的に話す。


 それから数分後……。


「え? ええっ! そりゃ本当ですか?」

「ええ」


 私は騎士団長の茶色の瞳を真剣に見つめ、まるで納得させるように深く頷く。


 それに対し、血相を変え驚き、慌てて作業机から立ち上がる騎士団長。


「で、時間が無いので手早く教えて欲しいのですが、紫色のヘリオトロープをあの部屋に持って来たのは一体誰なんですか?」 


 『あの部屋に花を持っていく様に指示したのは第二王子』という事は先程王妃達との会話で分かっている。


 更には『第二王子はその指示を騎士団を通して行っている』ことも。


 なおそれらの事は先程王妃達との会話で内部事情まで確認済みだ。


 ということで、直接指揮をとっていた実行部隊の騎士団長から話を聞いていけば、ある程度の人の流れは分るってわけなのだ。


「うーんと俺はこの城下町の花屋『リランダ』にいつも委託してるんだよな。つまり花屋の誰が来たかの特定までは確認出来てないぜ?」


 そこまでわかれば上出来である。


「なるほど、ご協力ありがとうございました!」

「いえ、こちらこそ! 私達も早速警備を固めますので! 警備対象は今回貴方達が持って来た『魔石の結婚指輪』という事でよろしいか?」


「ええ、他に金目の希少品は無いのでおそらくは……」

「了解です! では私はこれで失礼します! ご協力ありがとうございました!」


 騎士団長は私達に向い軽く敬礼すると、駆け足で部屋を出ていった。


「これで、とりあえず『魔石の結婚指輪』即ち王妃達の警備は固められるのお……」

「花屋にも手は回るでしょうがおそらくもう、その手配した者はいないでしょうね……」


 私の推測だと、花屋の雇人の誰かが組織の人間であると考えている。


 更にはその者はおそらくこの国から出航済みであるはず。


 しかもこのガリアス大陸、めっちゃくちゃ広大であるから陸路でも海路でも、空路でももう足がつかないだろうしね。


 更には瞬間移動魔法やマジックアイテムを使えば、秒単位で何処かに完全逃亡完了である。


 組織は金もコネクションも潤沢にあるんで、そこら辺は当然完備してるのが容易に想像できる。


 ……元発案者及び経験者のこの私が言うので間違いないだろう(泣)。


「まあ嬢ちゃんが言うなら間違いないじゃろうな。しかしどうしたものかのお……」


 小次狼さんが悩んでいるのは無理もない、「この国の第二王子からの依頼は確かに終わった」でもこれから新しい問題をどうするかを考えなければならない。


 早い話、「厄介事に首を突っ込むか、突っ込まないか」の二択ではあるんだけどね。


「もう手遅れな気がするけど、やれることやっておく?」

「ははっ、元組織の人間としての良心の呵責か……。そうじゃな、社会勉強も兼ねてリップサービスしとこうかの……」


「決まりね!」


 私と小次狼さんはお互いに気持ちも統一させるかのように、ハイタッチをする!


 そう、私達は気心知れたコンビであり一蓮托生なのだから……。

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