数分後、私達は仮面を外し、木扉のアーチ扉前に深呼吸をしながら立っていた。
『木扉のアーチ扉に生花が飾られているところが王子達の控室です』
なるほど、執事から聞いた内容からして、ピンクやイエローなどの花々が飾られているこの部屋で間違いなさそうだ。
私は若干汗で滲んだ手で扉を軽くノックし中に入る。
すると、真正面には金髪貴公子の立派な肖像画が、床は真紅の絨毯がひかれ、その上には木製の装飾丸テーブルと真紅のソファーがあるなど、少しこじゃれた感じの小部屋になっていた。
「すいません、客室での対応になりまして。初めまして私の名はイッカ=ラデーニ! 隣にいるのが王妃になるラグシカ=アレニーになります」
(ああ、それで……。領主の部屋にしては大人しいと思ったのよね)
そう、祝いの部屋の様な飾り気があるものはほとんどないのだ。
ソファーから立ち上がり軽くこちらに対し一礼し、こちらに優雅に歩み寄って来る御仁をよく見る私。
ショートヘヤの整った金髪に長身のスラリとした体形が純白の装飾コタルディの上からでも分る。
更にはシャープな眉と端正な顔立ち、更にはこちらを見つめる憂いを帯びたブルーの瞳に艶のある白い肌。
第一印象から見て、絵に描いたような利発そうな若き王子様かなと。
よく見ると、後ろの肖像画はまんまこの王子のものだった。
で、ソファーに大人しく座っているのはきっと婚姻する王妃、即ち花嫁だろう。
白い装飾ドレスにそこからでも体のラインが分る華奢な体つき。
ロングヘアの金髪に、やや丸みを帯びた可愛らしい顔立ちにたれ目のぱっちりとした大きな瞳。
申し訳なさそうにこちらを見つめるエメラルドグリーンの瞳からは、彼女の繊細さが感じ取れ優しい方なのが私には理解出来た。
私は営業モードに素早くスイッチを切り替え、少しの情報から性格などを予想していく。
そう、楽しむことは勿論大事だけど仕事はきっちりやるのがプロというもの。
「あ、いえいえお構いなく。私達は対応していただければ正直どこでもかまいませんので!」
凛と答える私に対し、隣で静かに頷く小次狼さん。
「今日は快晴だし、いい式日和になりそうですね」
「ええ、本当に!」
私の会話に対し、少し顔がほころぶ第一王子。
対して後ろに控える王妃様は相変わらずのご様子。
なお、この方は第一王子であり、仕事を依頼してきた第2王子ではない。
今回後ろに控えている姫と結婚する花婿になる方だ。
「もしかして、お揃いの衣装はリャン国産の絹糸で作ったものです?」
「あ、わかりますか?」
「そりゃ、色艶と滑らかさが違いますから……」
「流石、宝石商お目が高いですね」
私は満足げに頷きつつも、次の言葉を慎重に選んでいく。
「わあ、ありがとうございます! それにしても白無垢の生地、名の通り花嫁の王妃様にぴったりですね!」
「え? そうですか? いやー嬉しいなあ!」
満面の笑みを浮かべ、すっかり上機嫌になる花婿の第一王子。
(うんこの感じこの第一王子、花嫁の事を愛してらっしゃる)
だからこそ、この会話内容に心底喜んでいる。
が、少し気になるのが、後ろで控えている肝心な花嫁は苦笑いしているだけだという事。
ちなみに私のこの会話、思っている事で一切嘘は言っていない。
理由は「嘘やおべっかは相手に知れると不信感を抱く材料にしかならない」から。
(自分でも分るけど、言葉の響きが変わって来るんだよね。ま、私もそこは営業のプロなんで……)
「誠意ある言葉が相手にはよく伝わる」皮肉にも組織の長から直接教わった言葉が今の私の根幹にあるのだ。
(そう、いい事もあれば悪い事も当然あるのよね……)
私達はこんな感じで雑談をし、相手の性格や持っている知識、好みなどを少しずつ把握していく。
理由は「相手によって品物の説明を変える必要がある」と私が考えているから。
(これはプロなら出来て当然だけど……)
というのも実は依頼主の第2王子からは「直接本人達にアクセサリーを渡して欲しい」とお願いされたからだ。
ちなみに追加依頼は、道中執事から聞いたばかりだけどね。
第2王子曰く、「アクセサリーの説明はプロから直接聞いた方がより有難味が増すから」だそうな。
で、もう一つの理由が「なんか直接渡すのが照れくさいから」らしい。
(本当はね、直接依頼主に渡すのがリスクが低くなるんだけど……)
まあ、執事からは謝礼の言葉とお礼の金貨数枚頂いているし、私も納得した上でやっているので、これはやむなしかなと。
ちなみに金貨を頂いていないならきっぱりとお断りして、題2王子の元に私達は持っていく予定だったのだけどね。
その理由は「なるべくリスクを取らない事と仕事のタダ受けはしない」のが私達プロの流儀だからだ。
長い間裏家業で生きて来た私と小次狼さんは大きな報酬には当然大きなリスクが生じる事を痛い程理解している。
なので、その少しの変更が実はリスキーであるし、少しから大きな変更に変えられるきっかけにもなり得る事も把握している。
だから当然リスクが生じる安受けはしないのだ。