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第7話 まどろみはワインと共に

 真っ赤な情熱的なドレスを身にまとった煌びやかな貴婦人をブルーの燕尾服を纏ったスタイリッシュな紳士がエスコートする場面などなど……。


 よく見ると大半の方々がそれぞれお気に入りの仮面をつけているのが散見されていた。


 ということで、私達もそれに習い各自用意していた装飾仮面を懐から取り出し、静かに身に纏う。


 ちなみに小次狼さんは龍を模した仮面を、私は右寄りに赤薔薇の飾りがついたベネチアンマスクを身にまとった。


 それぞれ昔のコードネームを模しているので、それなりに意味はあり、小次狼さんは【禅国の雷龍】、私は【レッドニードル】だったりする。


 てなわけで、準備が整った私達は紳士淑女それぞれが片手にワイングラスを持ち優雅にざわつく会場内を颯爽と歩いて行く。


 そう、まるで優雅なワルツを踊るように軽やかに……ね。


 え? 「何故場慣れしてるか」って? 


 そりゃ、わたくし昔怪盗業をやっていた身なので、昼間は堂々とこんな感じで現地の下見とかしてましたからね……。


(もうかれこれ百年以上も昔の話だけどね……。私、なんせ長寿のエルフなんで……ええ)


 隣を歩いている小次狼さんも忍びの元統領だし、威風堂々としてるもんです。


(よくよく考えると、私と小次狼さんって元裏家業のツートップなのよね)


 今は孤島でのんびりモフモフスローライフで、花屋と魔石商やらせていただいてますが。


 それは兎も角、今は少しの運動と頭を使ったからか丁度小腹が空いている。


 ということで、私達も白テーブルに置かれているとても美味しそうなワインとコックが運んできた出来立ての料理を食べていく。


「あ、この貝のパスタとても美味しい!」

「そうじゃな、ここは海辺近くだし、川も近くに流れているしの。イッカ首都は海産物や川辺の美味しい物が食べられる場所で有名じゃしのお」


「芸術の国であり、海産物料理が美味しい国か……。なんともオシャレな国……」

「そうじゃの、だからこそ戦争の歴史が長くはあるの……」


「栄華の頂点に争いの歴史あり……か」


(それが嫌だから私は組織を抜けたのよね……) 


 私達は見晴らしの良い城の最上階から見下ろした海辺や草原などの極上の風景をつまみに、美味しい白ワインを飲み干していく。


 そして思うのだ、だからこそ今は真っ当に生きたいと思い、コツコツとこの仕事を私は頑張っている。


(これは言い訳にしかならないけど、幼心に組織に拾われて育った私に善悪の判断なんかつかなかったしね……) 


 私は自身の薄い紫色の髪にそっと触れ、昔を思い出す。


(そう、私の髪の毛の色は生まれつき銀髪だった……) 


 でも、そうあの日、組織の試験を無事合格しコードネームを与えられたあの日。


 私の髪の色は組織の考え同様紫色に染まった……。


「……嬢ちゃん?」

「……え?」


 ふと気が付くと、小次狼さんは私の顔を心配そうな顔で覗き込んでいた。


「一体どうしたんじゃ? 嬢ちゃんはたまに思いつめた顔をするの?」

「ええ、ちょっと昔を思い出してね……」


 元忍びの統領であり、洞察力の深い小次狼さんに嘘は通用しない。


 だから本当の事を言える程度に話す私。


 余計な心配もかけたくないし、そこらへんは小次狼さんもプロだから理解してるだろうしね。


「ま、嬢ちゃんも色々あったろうしの。余計な詮索はしないが、話したい事があればその時に話してくれれば良い」

「そうね……」


 小次狼さんと私は数年の付き合いがあるビジネスパートナー。


 お互いの力量も知っているし、ある程度のお互いの過去の話も知っている。


 更には自分の過去の事でお互いに迷惑がかかる可能性がある事も。


 それを考えると話しておかないと逆に迷惑になる情報もある……。


 自分は小次狼さんの仕事の力量も、その強さも理解しているつもりだ。


 だから……。


「ねえ? 小次狼さん聞いてくれる? 私の昔話……」

「うむ、儂も元忍の統領じゃ。色んな話は聞いている。嬢ちゃんの組織の事も当然な」


 信頼出来るからこそ話してもいいかもしれない。


 きっと今がその時……。


「まあ、嬢ちゃん。結婚祝いにはまだ、時間がかかりそうだし一杯飲みながらゆっくり話を聞こうかの」

「うん、ありがと……」


 私は小次狼さんがグラスに静かに白ワインを注いでいくをゆっくりと眺めながら語って行く……。


 そう、ゆっくりと、百年前のあの事を……。

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