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第6話 芸術の城

「彼は嬢ちゃんの知り合いか?」

「いえ、全く心当たりがないわ……」


 その様子を静かに見守っていた小次狼さんは私にそっと尋ねる。


(本当に心当たりが無いのよね。組織の知人の誰にも該当しないし……)


 ただ、気になるのは先程銀髪の青年が身に着けていたペンダント……。


(でも、あれは彼が身に付けているお気に入りの物だし、多分類似品だろうと私は予想してるけど……)


「しかし、爽やかな青年じゃったな……」

「あ、小次狼さんもそう感じました?」


「ああ、嬢ちゃんに近づいてきたのも本当に挨拶目的じゃったしな」

「うん、純粋で邪気を感じなかったしね」


 お互いの顔を見合わせ、感じた情報交換をしていく私達。


「ただ、分っているのは青年の言う通り、城内で再び会うということか」

「ええ、そうでしょぅね」


 私は先程の青年の笑顔に何故か懐かしさを感じてしまい、そこが妙なもどかしさを感じてしまっていたのだ。


「ねえねえ! あの陶磁器色艶が凄かったね!」

「ああ、曜変天目のまるで星のような煌めきに宇宙を感じれたしのお……」


 私達は目を輝かせ興奮し、語り合いながらラウヌ美術館を出ていく。


 そう、『仕事は遊び、遊びは仕事』これが私達の仕事のスタンスであり、これらの話し合いは客観視した仕事としてのインプット後の大事なアウトプット作業の答え合わせなのだ。


 こうして私達は目の前の円状の大噴水を眺めながら、しばし語り合った後、晴天の最中真上に昇る太陽を見つめ、イッカ城へ向かうのだ。


 それからしばらくして……。


「うーん、流石に見事なお城ね……」

「ああ、そうじゃな」


 私達は目の前に見える、幻想的で超巨大な白亜のお城を眺め思わず感嘆のため息をついてしまう。


 というのも今、私達は吊り橋を渡ってやや遠くからイッカ城を眺めているのだが、海辺に建てられたその様子が本当に凄すぎて……。


(天気が良いからか、水面に写った白城がまた何とも言えない味がでていて、もうね……) 


 お陰で私達は時間を忘れ、その素晴らしい情景を楽しみながら目的地である城内に辿り着くことになる。


「本日はようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞ城内へ。婚礼の間には私が案内させていただきます」


 流暢な動作と共に私達に礼をするのは、見た目二十歳前後の体格の良い黒服金髪のミドルヘア男性執事。


 彼にまぬかれ、私達は大人2人分はあると思われる鋼で出来た堅牢な扉をくぐりぬけ、城内に入る。


「へえ、これは……」

「ほう……」 


 城内に入り床を見ると、まるでチェスの盤面にように白と黒の正方形のタイルが交互にひかれているのにまず驚いた。


 タイルからして、いきなりオシャンティである。


 天井を見上げると、硝子細工で作られた豪華なシャンデリアが吊るされてはいたのは驚きだった。


(代わりに城内の壁と天井は白に統一され、おとなしめではあったけどね) 


 執事に案内されながら歩いて行くと、大廊下の両脇には木のテーブルが等間隔に置かれていることが分り、そこには愛らしい季節ものの花が飾られていた


(これは今回の婚礼の祝いの為の展示物かな?) 


 そんな事を考えながら添えた花々の後ろの壁をよく見ると、そこにはイッカ城国内の広大な原野などの様々な風景画が展示されていた。


「花に見合うように絵も展示されてるし、センスがいいね」

「ふむ、これだと会場に期待が持てるの……」


「はは、これらは全て婚礼用に展示している第一王子様の計らいでございます」


(でしょうね……。それはさておき、このアイビーの葉ふんだんに使われているのが少し気になるのよね)


 ここで、花屋を経営させている身として少し語らせていただく。


 アイビーとは葉の形は紅葉に似ており、緑色の大きな葉をはやし、朝顔みたいにツタが伸びてくる植物のことである。


 この土地の様に寒い地帯でも生息できるのがポイントかな。


(まあ、なんにでも合わせられる使い勝手はいいのよね。えっと花言葉は確か、誠実とか結婚とかだったかな?)


 それこそ結婚用の祝いの品と考えれば別におかしくはないし、むしろピッタリの贈り物と言えよう。


 お陰で私達は美術館に続き、城内でもこれらの芸術品を楽しみながら歩くことができ、あっという間に目的地に到着する。


「どうぞ、ごゆっくり」

「うん、ありがとう」


 流暢な動作で白いサーベルタイガーの装飾ドアを執事が開け、礼の言葉と共にその中に入って行く私達。


 ……目前にはなんと驚いた事に、この世の贅を尽くした豪華で煌びやかな舞踏会が広がっていた。

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