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元怪盗令嬢【レッドニードル】レイシャは世界を変革す
元怪盗令嬢【レッドニードル】レイシャは世界を変革す
菅原みやび
異世界恋愛悪役令嬢
2025年02月15日
公開日
3.9万字
連載中
長寿のエルフであるレイシャはとある組織から追われていた。その組織の名前は【エターナルアザー】。バンパイヤの長がトップに君臨する世界的に有名な異形の集団であった。彼女はその組織の元№2【レッドニードル】の異名で世を震撼させた怪盗令嬢であった。

レイシャは組織から逃げて逃げ続け、百年が経つ。そんなある日、漂流したレイシャは北の孤島ブリガンにたどり着く。その新天地にて、レイシャは花屋『エターナル』を営み、悠々自適のスローライフ生活をし、小さな客人兼お友達の女の子マーガレットやモフモフ羊達と理想のスローライフを楽しんでいた。

が、ある時、活火山の見回りをしていたところ、崖下に珍しい花が咲いているのを見つけてしまう。それは魔石【ブリガンレイン】を生成する超希少な名も無き花だったのだ! それがきっかけでレイシャが昔養った【選美眼】と長寿の知識を活かしたら、現世界トップレベルの魔石商になってしまって⁉

そんな元悪役令嬢レイシャを巡る、ドタバタ物語が今ここに華麗に幕を上げる!

【これは元悪役令嬢のエルフのレイシャが、相棒の小次狼達と共に切磋琢磨し、スローライフを送りつつ、世界を冒険し、自身の過去を清算していくそんな物語!】

第1話 決別と新天地と

 目の前に見えるのは真っ赤な炎……。


 それが左右にチロチロと蠢いている様は、まるで『炎の精霊サラマンダー』の舌のように見える。


 立ち込める煙と熱を帯びた灼熱の炎は、住み慣れていた私の屋敷が燃えていることを否応が無く実感させる。


 そんな最中、窓からさしこむ月光とそよ風を受け、私の真紅のネグリジェは静かにはためく。


 その私の真正面に静かに佇む圧倒的存在があった……。


「……いつまでも、この私から逃げられると思うなよ」


 まるでホタルの光のように放物線を描き、火の粉が私の目の前を跳ねる。


「……逃げてはないわ。ただ、追い求めている理想が貴方と違うだけ」


 再び火の粉が複数跳ねる音が周囲から聞こえる……。


「お前の理想と我の追及する美に違いがあると……?」


 勢いを増した真紅の炎はまるで彼の憎悪を駆り立てる様に激しく燃え盛り、彼と私の間を遮る灼熱の壁となる。 


「……他人からひたすら奪い続ける貴方達の行きつく先は、美は美でも滅び。即ち滅美よ……!」


 やや僅かに間を置き、私は皮肉を込め言葉を放つ。


 その私の言葉に対し、炎柱から覗き見える彼の端正な唇は少し歪んで見えた。


 彼のまるでルビーのような真っ赤な瞳を見ると決して笑ってるようには見えない。


「……これ以上話し合っても無駄のようだね」


 彼は静かにこちらに向けて怒気のこもった言葉を放ち、その敵意と共に鋭い牙をむき出しにし、更に鉄槍のような鋭い爪をこちらに向ける。


 黒豹のように締まった体を緩やかに前かがみにし、闇夜よりも深い漆黒のマントが優雅にはためくのはなんとも様になっている。


 いつでもこちらに飛び掛かれる臨戦態勢ということだろう。


 そのなんともいえない圧のためか、私の額から頬へ一筋の雫がゆっくりと伝うのが分った。


 私はその緊張感から音をたてずに静かに生唾を飲み込こむ。


(仕方が無い、やるしかないのかな……) 


 観念した私はため息と共に、腰元から愛用の武器を素早く抜刀し、それを正中線に静かに構える。


 その刀身は真紅の棘のようであり、独特の怪しい輝きを静かに放つ……。


 通称【レッドニードル】、私の愛用のレイピアだ。


 その時! 頭上からまるで落雷のような轟音が響き渡り、天井が崩れ落ちるのを私は察知し……た……。


   ♢


 ……。


「……ちゃん。ねえ、レイシャおねーちゃんてば!」

「え? ああ、ごめんねマーガレット、ちょっとボーっとしてて……」


 気が付くと、私の目の前には赤いリボンのついた麦わら帽子を被り、赤いワンピースを着ていた小さな女の子がちょこんと立っていた。


 彼女は大きな茶色の瞳をぱちぱちさせ、心配そうな顔でこちらを見つめている。


 彼女の名前はマーガレット。


 私の開いている花屋『エターナル』によく来てくれるお客さん兼お友達で、栗毛のおさげに真ん丸のふっくらとした顔にそばかすが特徴の小さな女の子だ。


 で、今日の私の服装は白色のワンピースにお気に入りのペンダントを身に着け、レンガ色の革靴を履いてたりします。


 私は寝ぼけ眼を擦りつつ、「ほう……」と軽くあくびをし、周囲をゆっくりと見渡す。


 辺りは、赤、青、黄色などのカラフルな花畑に囲まれた広い広い大草原が広がっていた!


 ふと頭上を見上げると、雲一つない澄んだ青空が何処までも広がっている……。


 そんな最中、爽やかな一筋の風が大草原を吹き抜け、緑の草花達はさわさわと波立つ。


(……そっか、どうやら私はこの余りの心地よさに居眠りし、過去の記憶を思い出しちゃったみたいね……) 


 安心した私はハンモックチェアーに再び腰を深く落とし、自身の両手を静かに胸元に組む。


 その時、自身の胸元に付けている『大粒のルビーのペンダント』に偶然手が触れてしまう。


 それはまるで太陽のように激しく輝き、圧倒的存在感を放っていた。


「……ねえ、大丈夫お姉ちゃん?」


 その様子を見ていたからか、マーガレットは私の顔を心配そうにのぞき込む。


 そう、この子は私と違ってすれてない純粋でとても優しい子なのだ。


「あ、ああ! 今日は暖かくて気持ちいいから、少し眠くなっちゃってね?」

「そうなんだ……。あ、話は変わるけど、お姉ちゃんってペンダンドいつも付けているね?」


「えっ! え、ええ……」


(この子、勘がいいからね……)


 私はマーガレットの鋭い指摘に少し狼狽えてしまう。


 彼女の指摘どおり、このペンダントは毎日身に着けている。


(だって、これは私の大事な……)


 私は胸元に付けているペンダントをそっと握りしめ、再び物思いに耽る……。


 そう、これは遥か昔の何百年前の私の記憶……。


 私の名前はレイシャ。


 この名はあの人が付けてくれたもので、その由来は花の名の一部からとったもの……。


 そして、この真紅のペンダントはあの人に貰った大事な物だった。


 だから……。


「ねえ、レイシャおねえちゃんはこのブリガンに来てどれくらいだっけ?」

「……えっと、5年くらい?」


 私はそれをアピールするかのように静かに自身の髪をかき上げながら前かがみになり、マーガレットに目線を合わせる。


「へー、じゃ丁度私が生まれた時なんだね!」


 ……マーガレット。


 その名前の由来の通り、彼女が笑うその様は明るく私の心を癒してくれる。


 「ああ、ここに来て本当に良かった……」と実感する程にね……。


 私達が住まう土地ブリガン。


 ここは世界地図の北東に位置する氷に覆われた島国。


 他国からは『風景明媚な国』、『奇跡の島』、『北の孤島』などと言われている場所になる。


 それらの所以は氷に覆われた島国ではあるが、火山国であるために冬は平均気温が0度と極めて低く、夏は平均気温が10度となっているからだ。


 が、年中寒いわけじゃないし、これらの環境が数々の絶景を生んでいた。


 例えば、まるでダイヤモンドのように輝く美しい氷河や、七色に光輝く帯のオーロラが見える大地、厳しい自然が作り出した飄々とした山々などがそれだ。


 この世界の中央に存在するガリアス大陸の3強国。


 その強国たちですら、ここの自然の厳しさに参り、攻め込むのを断念しているほどだ。


(まあ、自然が厳しすぎて、たまに火山が大噴火してしまうのがね……。そのおかげで、天然の温泉があり、それに浸りながら見る絶景がとても魅力的なんだけどね) 


 そのため、自然に適応出来た人々や種族しか住むことが無いので平和と言えば平和だ。


 てなわけで、このブリガンは一部の特権貴族様達が来る観光地となっており、それがこの国の主な財源となっていたりするわけです。


「レイシャおねーちゃん!」


 気が付くとマーガレットがまたもや私の正面にふくれっ面で立っていた。


(おっと、いけない。これは悠久の時間を与えられた私達エルフ族の悪い所よね……) 


「ごめんごめん! で、どの花を買うか、もう決まったの?」


 彼女はふるふると可愛らしく首を左右に振る。


「……うーん、じゃ私と一緒に決めよっか!」

「うん!」


 たちまちぱあっと明るく輝くマーガレットのその笑顔。


 ……マーガレットは孤児だった。


 漁師である彼女の父親は、ある日漁をしている最中、海で屈強な海賊共に出会い殺されてしまう。


 で、元々病弱だった母親はそのことが原因でショックで寝たきりとなってしまった。


 そんなある日、この国お家芸の火山の大噴火が発生し、寝たきりの母親も命を落としてしまったのだ。


 悲しい事に厳しい環境にあるこのブリガンじゃ珍しくも無い光景であり、被害者はマーガレットだけではない。


 そんな最中、不憫に思った教会のシスターに拾われ育てられ今日に至ったのだ。


(……そう、今日ここに彼女が花を買いに来たのは、そんな育ての親であるシスターリンへの誕生日プレゼントを買いに来たからなんだよね) 


 実は彼女と同じ孤児育ちの私。


 だから私は、共感の為か彼女に対し「ついつい何とかしてあげたい」と思ってしまうのだ。

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