朝起きたマールは、夢の事をはっきりと覚えていた。ハッと体を起こし横を見れば、呑気な寝顔をしたパデラがすやすやと眠っている。床の方には一つのクッションに団子になっている二匹が相変わらず仲良さげだ。
マールは、心底から湧き出る何かしらの感情に顔を赤くし、まずパデラを叩き起こす。パデラは至近距離で飛んできた魔力の気配を寸で察し、寝転がって避けた。
「うぉ! 寝起きで攻撃してくるなよ! どしたマール、お腹すいたのか?」
「忘れろ……」
「ぅえ?」
小さく漏らされた声に首を傾げると、マールは今まで見たことのない赤くなった顔で叫ぶ。
「忘れろと言ったんだこのバカラ! もう何も言うな、僕が良いと言うまで喋るな!」
ベッドを叩き、そのまま怒っているような足取りで台所に向かう。冷蔵庫にある牛乳を一杯分飲み、小さく息を吐く。
そんな彼を目に、パデラは昨夜の事を思いだしポンと手を叩く。
「確かにありゃマールらしくないというか。マールからしたら、恥ずかしい事だろうなっ!」
うつ伏せに頬杖を突いたまま、ははっと笑う。そうすると、向こうから一睨が飛ばされる。
「聞いていなかったか? 僕は喋るなと言った」
「そっかあ……なぁマール、今日の朝ごはん何が良い?」
「……スクランブルエッグ。甘いの」
一応しっかり答えてくれるようだ。どさくさに紛れて好物を要求してくるのは、マールらしい。
「分かったぜ。だけどまだ少し早い、もう少し横になってようぜ。ほら、おいで」
空いた横をぽんぽんと叩き、ここに来いと誘ってくる。しかしマールは誘いに乗らず椅子に座る。
「なーマール、昨夜の事なんだけどよ、」
「よし良いだろう。今から闘技場の予約とってやる、そんなに僕と勝負したいのなら相手してやるよ。お前は僕に勝てないけどな。僕の方が強い、お前に負ける事はない」
遮るようにまくし立てるが、パデラは彼の言葉を都合よく解釈し、目を輝かせながら上身を持ち上げる。
「え、マジ! 手合わせしてくれんの、やった!」
「ッチ」
本気の舌打ちをされたような気がするが、聞かなかった事にして彼の隣の椅子に移動した。
「ははっ、お前はマジでつえぇもんな。俺に勝てる奴は同年代じゃあお前くらいだぜ? 俺だって『天才』って言われてたんだけどなぁ」
そんな事を言いながら、パデラは横目でマールを見遣る。
相棒は、天才と言われた自分を遥かに上回る実力の持ち主だ。天才の上位互換の言葉は、パデラの頭に存在しないが、きっとそれだ。
「な、マール。お前は俺が勝てないつったけどよ、知ってるか? アサナトが一戦だけ、エテルノに勝った試合。要するに、俺もお前に勝てる可能性はあるって訳だ」
「一戦だけでもいい。俺はいつかお前に勝ってやるぜ。お前の前じゃ霞むけど、俺だって『天性の才能』なんだぜ!」
「だからマール。覚悟してろよ」
にっと挑発的な笑みを浮かべる。それに釣られ、マールも一笑を飛ばす。
「ハッ、出来るもんならやってみろ」
二人の魔力の天才は、好意的睨み合いをし、互いの魔力を滾らせていた。
今日の闘技場からは、素晴らしい戦闘が拝めそうだ。