決して見られたくない何かを隠匿するかのように、小さな村の最奥にて佇む廃社。
もはやただの苔石と化した石柱の狭間を、贄の
真っ当な社としての権能などとうの昔に放逐され、神殿内には何も残されてはいない。
最奥にて異様な存在感を放つ呪符がこれでもかと貼られたボロボロの御簾と、その奥で妖しく揺らめく赤き双眸の光を除いて。
「来たか、娘。疾くその純潔を……って、漢!?」
儀式の始まりを告げるお決まりのセリフを言いかけたところで、声の主が異変に気付き、素っ頓狂な声へと変わる。
「ああ。村から生娘が絶滅したものでな。今年は儂がお主の相手をすることとなった」
威風堂々と土地神に相対するこの漢の名は、鍛冶屋の権蔵。
「い、いや、我、漢はちょっと……」
対する土地神は、権蔵の筋骨隆々の肉体と、そこに映える真っ赤なふんどしの威圧感にたじろいでいる。
「なんだお主。漢同士は初めてか? 案ずるな。儂が手解きしてやろう」
いつのまに背後に回り込んだのだろうか。権蔵の髭もじゃらな口元から漏れ出づる吐息が、土地神の耳元を優しくくすぐる。あくまで依り代に過ぎないはずの仮の肉体越しでもなお、身の毛もよだつほどの恐怖が土地神を襲った。
「アアァァァァァアアアアーーーーーーーーーー!!!!!!!」
その夜。嬌声にも断末魔にも似た謎の
***
「ふむ。実に良い。
獣のような血走った眼の権蔵。白目を剥いて痙攣を起こしている土地神から反応がないことが分かると、彼は赤いふんどし一枚のみを拾って身に着け、村の方へと姿を消した。
***
そのまた翌年。神殿に現れたのは一昨年と同じ少女。
「はあ……結局
前年。その場のノリ、もとい挑戦的な取り組みとして権蔵を派遣した生贄の儀。
しかしそれが土地神の怒りに触れたのか、その後村には災いが訪れた。具体的には贄役に選ばれた権蔵の気が、神憑きにでもあったのかのように
あの儀式の後、まるで理性なき獣へと変わり果ててしまった権蔵。
来る日も来る日も丁稚の蘭丸を性欲のはけ口とし、それに耐えかねた蘭丸は夜逃げし村を出て行ってしまった。性欲のはけ口を失った権蔵は村の漢たちに見境なく襲い掛かり、果ては村長をも襲った。結果、齢90の老体には耐えかね村長はショック死。権蔵は
それにより、村は指導者及び唯一のまともな産業をも失い、貴重な働き盛りの漢たちは皆一様に尻の穴を押さえているという、ただただ滅びを待つのみともいえる状態となってしまった。
そんな土地神の祟りを思い知り、今年こそはちゃんと生娘を捧げようと村会議で決まったのだが、いかんせん無い袖を振ることはできない。結局「せめて若い娘を」ということで、落としどころとしてまたも少女が選ばれたのだった。
敬意も畏れも何もなく、ぶつくさ愚痴をこぼしながら入殿する少女。しかし、そこである異変に気付いた。
「あら? 誰も居ませんのね?」
呪符の貼られた御簾の裏側。そこに確かにあったはずの姿は、影も形もなくなっていた。