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第24話 雨と絨毯は星を救う

 世界の滅びを目撃しちゃった女の子へのメンケアとして。


 その滅びを悼む心を「優しい」って認めてあげるのは、アリだと思う。

 そんな風に言われるって思ってなかったから、上手く受け取れなかったけど、そう言ってもらえたことは、嬉しかった。

 だけど、その後に。

 星界せかいが滅びかけた時の話をするのは、いかがなものだろうか?


 繊細な女の子だったら、メンケアどころか、さらなるショックを受けちゃうんじゃないだろうかと思う。

 わたしは、思考が脇道に逸れたおかげで、結果的にそれがメンケアになっちゃってたところがあるけど。

 普通だったら、これ。

 さらに女の子を泣かしちゃう案件だと思うんだよね。


 これって、星灯愛すてら向けにカスタマイズしたメンケアなの?

 それとも、レイジン流のガチメンケアが、これってことなの?


 そこのところを、ぜひお聞かせ願いたい。

 ……………………って思っての問いかけだったんだけど、なんか違う角度から返事が来た。


「すまない、ステラ。俺が、不用意に水場が全滅したなどと告げたせいで、驚かせてしまったか? 大丈夫だ。今は、陸地の水場は、一部を除いて回復している。生活に必要な水は確保できている。天の水は、飲み水にはならない」

「あ、そうなんだ」


 そこじゃないけど、そこもまた気になっていたところではあるので、とりあえず相槌を打っておく。

 ちょっぴり焦った感じの早口なのは、わたしを安心させるためなのか、それとも、勘違いしたわたしがうっかり天の水を飲んだりしないようになのか。

 …………出来れば、前者であってほしい。

 さすがに、アレを掬って飲んだりはしないよ?

 水筒で振る舞われたら、飲んじゃうかもだけど。


「天の水は、その名に反して、地の底から湧いて来るんだ。だから、雨水は平気だった。天と化した水場に落ちたものは、天の水になってしまったが、容器に集めた雨水は無事だった。人口は激減したが、それでも星の民は、ギリギリ滅亡を免れた」

「……………………」


 聖書に出てくる、ノアの箱舟の話を思い出した。

 地球の人類は箱舟で救われたけれど、絨毯星界の星の民は雨水の容器で救われたのか。

 伝説の巨大容器の名前とかが、遺されたりしてるんだろうか?


「雨水と、それから、絨毯のおかげでもある」


 ん? 絨毯?

 ………………………………はっ!? もしかして!?


「太古の星の民は、いつ何時天に成り果てるか分からない大地を捨て、絨毯の上に逃れた。空飛ぶ絨毯を発明したのは、星導せいどう教会の祖となったメンバーの一人だといわれている。奥ゆかしい人物だったらしく、名を残そうとはしなかったので、絨毯の君と呼ばれている」


 容器じゃなくて、ノアの絨毯だった!

 地球で起きたかもな大洪水の時は、人類は箱舟に乗り込んで生き延びたけど、こっちの星界の星の民たちは、空飛ぶ絨毯に乗って“天の滅び”から生き延びたんだ。

 なんか、すごい話になってきた。

 星導教会は、もうその頃から、滅びの運命と戦ってきたってことなんだね?

 うう。胸が震える。

 でも、絨毯の君は、どうかと思う。


「その一方で、滅びそのものに立ち向かおうとした者たちもいた」


 し、新展開、きた!

 あ、でも、そうか。

 陸の水場は、一部を除いて回復したって言ってたもんね。

 ………………しかし。

 星の歴史語りのはずなのに、ラノベの設定を教えてもらっている気分になっちゃうのは、不謹慎だろうか?


「始まりの鍵使いたち。星に干渉する力、鍵……という概念と力を生み出した者たちだ。鍵の力により、陸は水を取り戻していった。しかし、一度大きく揺らぎに傾いた星の修復は、彼らの代だけで成しえることは出来なかった。彼らは、絨毯の君と共に、星を救う意思を持つ同志を集め、鍵の御業を伝授した。それが、星導教会の始まりだ」


 ラ、ラノベみが増してきた。

 おかげで、授業よりも頭に入りやすい。

 絨毯星界の歴史のテストなら、結構いい点が取れそうな気がする。


「それから、長い時をかけて、星導教会は陸地のほとんどを取り戻した。しかし、いまだに揺れ返すことがある。星の民は、雨と絨毯の君と始まりの鍵使いたちのおかげで、辛うじて滅亡を免れた。けれど、この星は、まだ、揺らいだままなんだ……………………す、すまない。つい、話が長くなってしまった。こんな話、つまらなくなかったか?」

「う、ううん! 大丈夫! 大事な、この星の歴史のお話だもん! これから、ここで暮らすなら、知っておきたいし! 教えてくれて、ありがとう!」


 語りモードに入っていたレイジンが、急に我に返って、わたしを気遣いだした。

 心配そうな声が聞こえてきて、わたしは慌てて、心配不要な旨を伝える。

 むしろ、好物なまであるんだけど、さすがに言葉は選ぶ。


「そ、そうか? それなら、よかった。星と揺らぎと鍵の話になると、つい熱が入ってしまって。星導教会の人間以外にはやるなと、ルーシアによく怒られるんだ」


 わたしの返事にホッとしつつも、ルーシアを思い出して、ションってなってるレイジンが、ちょっと可愛い。

 うう、それにしても、ルーシアの影響力よ。

 レイジンは、ルーシアのこと、どう思ってるんだろう?

 気になる……けど、真っ向から聞いてみる勇気はない。

 知りたいけど、でも。

 わたしがそれを聞いたことで、レイジンがルーシアを意識するようになっちゃったら、藪蛇じゃん!

 それは、困る。でも……!

 なんて、恋の迷路に陥りかけてたら、レイジンのはしゃいだ声が聞こえてきた。


「ステラ! 見てみろ! 天の魚だ!」

「ふぇ? 天の魚?」


 レイジンは、立ち上がって絨毯の縁から天の海きょむを覗き込んでいる。

 わたしも立ち上がってレイジンの隣に並び、宇宙を覗き込んでみる。

 だって、宇宙を泳ぐ魚なんて、気になるし。

 一体、どんな魚…………。


「ほ、骨ぇ――――!?」


 思わず、叫んだ。

 だって、微発光している魚の骨が泳いでるよ?

 しかも、群れで!

 死後の世界じゃん! やっぱり、墓場じゃん!

 てゆーか、レイジンはなんで、こんなにテンション高めなの?

 ワクワクの波動が伝わって来るんですが?

 魚の骨を見つめるよりは、はしゃいでいるレイジンの顔を見てみたくはあったけど、普通に目が潰れそうな気がするので、大人しく泳ぐ骨を見つめておく。


「6号! 来い!」


 ん? 6号?

 まさか、魚の骨にナンバー付けて呼びかけているわけではない、よね?

 戸惑いとワルツを踊っていたら、脇をミニ絨毯がすり抜けて行った。

 お一人様ミニ絨毯だ。

 ミニ絨毯は、魚の骨の群れの上でストップした。待機している?

 ん、でも。ちょっとだけ、安心した。

 あの絨毯が、6号なんだろう。

 偶然出会った魚の骨に数字(しかも、すっ飛ばして6だ)で呼びかけたんじゃなくて、よかった。

 備品だと思われる絨毯を番号で管理するのは、ほら、おかしなことじゃないし。


「頼む! 来てくれ!」


 さっきのは、命令だったけど。

 今度のは、希うような「来てくれ」だった。

 さっきのは、備品の絨毯への命令だったけど。

 今度のは、魚の骨への、お願い?

 うん? そうっぽいな?

 泳ぐ魚の骨に呼びかけているっぽいな?


「ステラも、一緒に願ってくれ!」

「え? あ、はい。天の魚さん、来てー!」


 わたしにも応援を要請された。

 なんだか分からないけれど、お願いされちゃったので、わたしも口元に手を当てて、泳ぐ骨に向かって叫ぶ。


 一つの骨が、飛び跳ねた。

 宇宙から抜け出たとたん、骨に身が生えた。

 骨は、魚になった。

 その魚を、絨毯6号がキャッチする。


「でかした、ステラ! 今日の夕飯は、期待してくれ!」

「え? う、うん?」


 レイジンが、あまりにも嬉しそうだから、疑問形とはいえ、つい頷いちゃったけど。

 え? マジ?

 それ、食べるの?


 てゆーか、それは!

 食べても大丈夫なお魚なんですか!?


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