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第23話 宇宙は液体となりて海に満ちる

 メンケア込みのベアトラがまだ続行中なのか、それとも、そっちはすでに終了していて次のステージに移行したのか分からないまま、それでも。

 わたしは、レイジンがお送りする滅びの星界語りに耳を傾けた。


「当時、天の海きょむは、海と呼ばれていた。天の代わりに、塩水が満ちていたといわれている」

「……………………」


 む、昔は、海だったんだ!

 そうか。ここは、塩水の海じゃなくて、星の海が満ちている、そういう星界なんだと思っていたけど、そうじゃなかったんだ。

 天っていうのは、こっちでいう宇宙のことでいいんだよね?

 今、ここに満ちているこれが宇宙だって、こっちの星界の人たちも知っているんだ。

 天体望遠鏡とかがあるってことなのかな?

 …………まさか、魔法の絨毯で宇宙飛行とか、さすがにそれはないよね?

 聞いてみたい気もするけど、レイジンはすっかり語りモードに入っちゃってるみたいだから、余計な質問も相槌も入れず、わたしは黙って話しを聞く。


「どうして、どうやってそうなったのか、詳しいことは伝わっていない。ただ、海だけでなく、陸地にも影響は及んだ。川も湖も池も沼も、水場のすべてが天に侵食されたと記録には残っている」

「……………………え?」


 さ、さすがに声が出た。

 いや、だって!

 水場全滅って、もうその時点で人類滅亡コースまっしぐらじゃない?

 遠い昔の話なんだよね?

 どうやって、生き延びたの?

 まさか、レイジンたちは、“天の水”を飲み水に出来るように改良されちゃっり進化しちゃたりした系人類?

 それとも、普通の水で生きてた旧人類は滅びて、その後に生まれた“天の水”対応型の新たなる人種族?

 え? 蛇口を捻ったら、宇宙が出て来るってこと?

 トイレの水も宇宙ってこと?

 ペットボトルの中に宇宙が詰まっているってこと?

 宇宙のシャワーを浴びたり、宇宙のお風呂に浸かるってこと?

 宇宙温泉とかがあるかもしれないってこと?

 は!?

 そういえば、結局口をつけなかったけど、絨毯部屋でルーシアが振舞ってくれた水筒の中には、宇宙茶が入っていたってこと…………?

 え、ええ~~~…………?


「ウチュウ茶?」

「うん。宇宙茶。天の水茶。水筒の中身は、天のお茶だったのかなって…………って、え?」


 ひゃうっ!?

 い、いつの間にか、天の海きょむを見つめていたレイジンが、わたしを見下ろしているうぅぅぅう!

 ヤ、ヤバい!

 脳内独り言が、うっかりモレ出てたっぽい!

 でも、聞かれたのは、宇宙茶だけっぽくもあるな?

 ギリセーフ?

 いや、アウトかも!

 レイジンが、額に手を当てて、なんか「頭が痛い」っぽい顔してるぅ!

 本当の頭痛じゃない方の、頭が痛いヤツぅ!


「もしかして、さっき、ルーシアに連れていかれ時、水筒をそのまま渡されたのか?」

「え? う、うん。そう……だけど」

「ルーシア…………」


 ん? 呆れ対象は、わたしじゃなくて、ルーシアっぽい?

 んー? 揺らぎ対策前線基地だから水筒でお茶を振る舞ってくれたんだと思ったんだけど、もしかして、あれってば。

 単にルーシアが雑だったってこと…………なのかな?


「…………ふっ、しかし、ステラは、面白いな」

「へ?」

「察するに、宇宙とは天のことなのだろう?」

「あ、うん」

「ふっ、ふはっ。天の水を、飲み水にした、人類……。天のシャワーに、天の風呂……。ふっ、ははっ」


 レイジンは、口元に手を当て、肩を震わせて笑い出した。

 アウトだった。

 バッチリ全部聞かれてた。

 いや、でも、うん。

 嘲笑とかじゃなくて、お楽しみいただけているようでは、あるね?

 笑われていることにはかわりないけど、まあ、いっか?


 うーん、しっかし。レイジン、こういうのオッケーなんだ。 

クールな美形で、でも任務には熱いって感じなのに意外…………でもないな。

 オレンジと赤のあれそれを思い出して、わたしは考えを改めた。

 うん。そもそも、こういうのに耐性があるのかも。

 でも、そういうの、良いと思います!

 硬派すぎるよりも、こういう緩さとかポンさを許容してくれる人の方が、好き。

 …………まあ、そうでもないとワンチャンすら発生しないという厳しい現実確かに存在しているわけですが、それに対する妥協とかじゃなくて、純粋に。純粋に!

 完璧すぎて相手にも完璧を求めちゃう人よりも、緩さを認められる人の方が、純粋に好きなの!


「はー…………笑った。話をすることで、ステラの心をほぐすつもりだったのに、俺の方がほぐされてしまったな。ありがとう」

「え? いや、役に立ったなら、何よりだけど…………」


 復活したレイジンに、お礼を言われてしまった。

 それ自体は、嬉しい。

 嬉しいし、レイジンに返した言葉に嘘偽りはない…………けど。

 もしかして、あの星界の滅びの話ってば、レイジン流のメンケアのつもりだったの?


 ……………………。


 えー。ここは、聞いてもいいよ、ね?

 だって、なんか、謎すぎる。


「えっと、ねえ、レイジン?」

「ん?」


 おずおずと声をかける。

 降ってきた声は、柔らかい。

 わたしは、さっと天の海きょむに目を逸らした。

 笑われているのが自分だという事実と薄明かりのぼんやりした視界のおかげでギリ保てていたけれど、さっきご披露頂いた笑い顔の時点で、もうすでに割とヤバかった。

 だっちゅーのに。

 青白い光を放つレイジンの怜悧な美貌が、ほどけて和らいだところを目撃しちゃったら、星灯愛すてら機能停止しちゃう。

 せっかくの二人きりタイムなのに、気づいたら朝になっていたとかなりかねない。

 それは、嫌だ。

 もうちょっと、話をしたい。

 レイジンのことを、知りたい。

 だから、わたしはレイジンから目を逸らし、静かに揺蕩う宇宙を見つめながら、レイジンに尋ねた。


「さっきの星界の滅びの話で、どうやって、わたしの心をほぐすつもりだったのか、聞いてもいい?」


 隣で、ハッと息を呑む気配が伝わってきた。

 き、聞き方を間違えたかな?

 いや、あんまり、いいやり方じゃないんじゃないかなー、とは思うけど。

 だからって、別に責めるつもりじゃなくて。

 普通に疑問で、聞いてみたかっただけなんだよ?


 だって、滅びを目撃して落ち込む女の子を慰めるために滅びの話をして、そこからどうやってメンケアするつもりだったのかなって、思うじゃない?


 思うよね?


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