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第22話 メンケアなの? ベアトラなの?

 しばらくは、無言のまま。

 そらと、そらを、見つめていた。


 これが、これこそが、満天の星空ってヤツなんだろう。

 暗い空で、瞬きがひしめいている。

 こんなの、初めて見る。

 知ってる星空と全然違う。

 絨毯の下の宇宙もすごいけど、これはこれで、違ったすごさがある。

 今にも降ってきそうだ。

 只今の降水確率ならぬ降星確率は、何パーセントだろう?


 光だけが、降り注いでくる。


 だけど、宇宙に星の光は降り積もらない。

 はね返す、わけでもない。

 ただ、吸い込まれていく。


 もちろん、宙にも星はある。

 渦巻く星雲が、遠くに、近くに、いくつも見える。

 天のような光が散らばる中に、輪っか付きの惑星がくっきりと存在している。

 天体望遠鏡で見る惑星みたいな、縞模様まで肉眼で確認できちゃうアレ。

 赤い光の帯の中に、白や濃いオレンジや青い点が灯っているところもある。

 とりわけ、青い光に目を奪われた。

 レイジンの鍵と同じ色だから……っていうのも、あるけど。

 純粋に、目を引かれた。心を惹かれた。

 とりわけ、眩く感じる…………のは、やっぱりレイジンをイメージさせるからかもしれない。

 足元の宙は、クリアで硬質な感じがした。


 某っと空と宙を見ていると、隣でレイジンが小さく身じろいだ。

 爽やかに甘くて、どことなくスパイシーな香りが、ふわっと匂い立つ。

 それだけで、胸の奥が、きゅんってなる。

 レイジンは、ほつりと言葉を零した。


「ステラは、優しいな」

「…………へ?」


 う、しまった。

 メンケアが始まるのかと思ってたのに、いきなり褒められから、変な声出ちゃった。

 や。これも、メンケアの一環なのかな?

 は! それとも、ハニト……ベアトラの一環だったりする?

 意図が読めなくて、首を傾げつつレイジンを見上げる。

 レイジンは、宇宙を見ていた。

 ぼんやりとした灯りしかないせいで、どんな表情をしているのかは、よく分からない。


「自分とはかかわりのない星界と、その星界の神の終焉を悼み、託された新しい命を守ってくれた」

「え? そこ!? いや、そんなの、当たり前のことじゃない?」


 びっくりして、思わず声が高くなった。

 だって、そんなに大したことはしてないと思うし。

 誰でも……なんて青臭いことを言うつもりはないけど、でも。

 ある程度、まっとうに育っていれば、あのくらいは普通のことじゃない?

 んん。やっぱり、ベアトラ前提のリップサービスってヤツなの? これ?


「当たり前…………か。当たり前のように、そう言えるということは、ステラの育ったチキュウは、素晴らしい星界せかいなのだろうな」

「え? いや、その。す、素晴らしいところもあると思うけど、そうじゃないところもあると思うし、ふ、普通だと、思うよ?」


 ち、地球まで褒められた!

 嬉しいけど、つい謙遜しちゃうのは、日本人の性ってヤツ!

 まあ、実際。

 一介の女子高生にすぎない……すぎなかったわたしが語るのもどうかとは思うけど、犯罪とか紛争とか貧困とか、問題もいっぱいあるわけだし、いいところばかりは決してないし。

 それに、他の星界のこととか知らないから、他と比べてどうなのかとかも、分かんないし。

 そもそも、日本から出たことすらなかったしね。

 わー。改めてだけどさ。

 わたし、海外旅行も未体験だったのに、いきなり異星界いせかいへ来ちゃったんだなぁ。

 てゆーか、三人を見ていると、こっちの星界だって捨てたもんじゃないって思うけどな。

 ん? 捨てたもんじゃないって言い方は、ちょっとウエメセ?

 ま、まあ。心の中で思ってる分にはいいか。

 癪に障るけど、エイリンだって恋絡みのことには釘をさしてくるけど、理不尽に貶めてくる感じじゃないっていうか。その完全に悪役に回る感じじゃないところが、むしろ癪に障るっていうか。まあ、そんな複雑な乙女心は、ひとまず置いておいて。

 この三人が所属している星導せいどう教会は、きっといい組織なんじゃないかなって思う。


「普通、か。そうか……」

「うん。そうだよ」


 心の中で、魔法絨毯星界アゲをしていたことは伝えられないまま、会話が終了してしまった。

 レイジンは、そのまま押し黙ってしまう。

 ……………………あれ?

 もしかして、わたし。

 お返事をミスった?

 ここは、可愛く「ありがとう」って言っておくところだった?

 それでもって、三人がいるこの星界もとても素敵だと思うって褒め返すべきだった?

 思っているだけじゃなくて、ちゃんと口にすべきだった?


 待て! 落ち着け!

 まだ、間に合う!

 取り戻せる!

 ちょっと、タイミング開いちゃったけど、い、今、今からでも!

 いざ!――――と口を開こうとしたそのタイミングで。


「遠い昔の話だ。かつて、この星界は大いなる揺らぎに襲われた。完全に滅びる直前で回避されたが、今も揺らぎは続いている」


 星界語りが始まった。始まってしまった。

 か、被らなくてよかった。

 被せなくてよかった、けど。

 褒め返すタイミングを見失ってしまった……。

 話題が深刻すぎて、これは、この後、下手に褒めるとかえって微妙になるパターン……。


 というか、メンケアはどうなったんだろう?


 これは、滅びを目撃してしまった一般人へのメンケアだったはずだよね?

 なのに、なぜ?

 魔法絨毯星界が滅びかけた時の話になるの…………?

 もしかして、わたしと地球を褒めたことで、メンケアは終了したってこと?

 ん? レ、レイジン?


 い、いや!

 どういう意図であっても、レイジンが、この星界のことをわたしに伝えたいというのならば!

 もちろん、受け止めるけれども!

 歴史の授業で教わるレベルのこっちの星界での一般常識なのかもだし!

 だとしたら、ちゃんと教わっておきたいし!

 ……………………でも。


 それが、今このタイミングなことには、ちょっぴり戸惑いを覚えてはいる…………。


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