渦巻くような宇宙と満天の星空の間に挟まれていた。
その狭間で。
わたしたちをのせたデカ絨毯は、まるで満月のように仄かに優しく灯っている。
床暖房が効いているみたいに、ほんのり暖かい。
魔法の絨毯は万能だった。
丸めた絨毯を椅子にして、わたしは。
レイジンと二人きりで、並んで座っていた。
お膳立てをしてくれたのは、ルーシアだ。
三人が星導師としての務めを終えて、三色に光る鍵が消えるのと、陽が完全に沈み切るのは、ほぼ同時だった。
そして、陽光の代わりのように、デカ絨毯が柔らかく灯る。
切り替わりがスムーズすぎて、魔法のタイマー仕掛けなのか、一仕事終えた誰かが魔法で灯したのか、よく分からなかった。
「お疲れ様でした」
「ステラ……。緊急事態とはいえ、話の途中で放り出してごめんなさい。そして、卵を守ってくれていたのね。ありがとう」
涙を拭い、卵をナデナデしながらみんなを労うと、ルーシアが疲れを滲ませつつも笑顔を返してくれた。レイジンもルーシアの言葉に頷き、エイリンは「む!」って顔をして葛藤しているみたいだった。わたしのことは気に入らないけど、卵保護は認めてやってもいい……みたいな感じ?
ま、それはそれとして。
みんな、卵に興味津々みたいで、わらわらとわたしの周りに集まって来た。
や、レイジンは、こっちに寄っては来たけど、すっかり静かになった宇宙……こっちの星界で言う
んん、女子の輪の中に入れないから警護に徹しようってことなのかもしれない。
なんにせよ、とりあえず卵は絨毯部屋の中へ運び込もうってことになった。
まあ、何時までもはしたなくスカートなのに足で抱え込んでるわけにもいかないし、真ん丸すぎて、うっかりしたらコロコロぽちゃん(ぽちゃんじゃなくて、すとーんかもしれない)しかねないからね。
ここまでは、誰も反対する者はいなかった。
何となく、みんなで部屋に入るのか、もしくはレイジンが宇宙監視役として外に残って、女子三人で卵を運び込んでの卵観賞っていうか卵談笑っていうか、一部バチバチが入りそうではあるけど、まあ、そういうノリになるのかと思ってた。
思ってたんだけど。
とりあえず、三人のまとめ役というか指揮官は、ルーシアで間違いないようだった。
ルーシアの采配で、ルーシアとエイリンが卵を部屋に運び込み、状態の確認と協会本部への報告をまとめて、レイジンは外で揺らぎへの警戒に当たりながら、異星界人であるわたしに、さっきの揺らぎについて異星界人目線で気づいたことがないか聞き取り調査を行うことが決定したのだ。
まさしく、鶴の一声だった。
レイジンは無言で頷き、エイリンはさすがに何か言いたそうだったけど、ルーシアが無言の微笑みで圧をかけると渋々頷いた。
卵の運搬役は、ルーシアがすることになった。
わたしが、結構重いって伝えたからだ。
こういうのは、下っ端がやるものかもしれないけど、エイリンは小柄だし、落としたら取り返しがつかないことになるかもしれないから、その方がいいとは思った。
「今は落ち着いているから、たぶん何もないと思うけれど。もしも、揺らぎを感知、ううん、揺らぎじゃなくても何か異変を感じたら、レイジンの指示がなくても、私たちに知らせに来るのよ?」
「あ、は、はい」
卵に手を伸ばしながら、ルーシアが言った。
わたしは、素直に頷く。
またしても何かが起こったのなら、そうするのが一番だな、とわたしも思った。
でも、こうやって言われてなければ、どうしていいか分からずに一回あわあわしてから、「そうだ!」ってなった気がする。
うーん。これが、お姉さん系指揮官の気遣い。
出来る女っぽいな。カッコいい。
もうすでに出来るお姉さんに傾いちゃってるわたしに、ルーシアはさらに駄目押しをしてきた。いや、そういうつもりじゃないんだろうけれども。
「辛い現場に立ち会わせちゃって、ごめんね。私たちは、これが任務だし、こういうこともあるって覚悟をしている。でも、あなたは違う。心の処理の仕方は人それぞれだけれど。抱えきれないものは、誰かに零してしまうことで、昇華できることもあるわ。そして、それを受け止めることも、私たち星導師の務めなの」
「…………あ」
どうやらこの采配は、ママと水晶世界の葬儀に立ち会って泣いちゃったわたしのメンケアのためみたい。
お相手のレイジンを選んでくれたのは、わたしの気持ちを知っているからの配慮なんだろうか。
気遣いが……気遣いが沁みる。推せる。
レイジンとは違った意味で、こんなの推すしかない。
そして、一つ気づいたことがある。
きっと、エイリンも女子高あるあるなお姉さま的な感じでルーシアをお慕い申し上げているんじゃないかって。
だとしたら、今後。
わたしとエイリンは、レイジンを巡る恋のライバルってだけじゃなく、ルーシアお姉さまの寵愛を競い合うガチじゃない百合ライバルになるのかもしれない。
「だから…………ま、ごゆっくりってこと! じゃ、レイジン。後は頼んだわよ?」
「ああ」
ルーシアは、卵を手に立ち上がるとバチコンとわたしにウインク。それから、レイジンに後を託すと絨毯部屋へと向かって行った。
真摯なアドバイスから一転して茶化すような物言いになったのは、深刻になり過ぎないようにって配慮なんだろうな。
その優しさだけで十分に癒されて、気持ちは浮上してましたが、それはそれとしてありがとうございます。
てゆーか、卵を両手で抱えているのに絨毯壁を開けるんだろうかと心配になったけれど、そこはエイリンがエスコートしていた。二人は、絨毯の中に消えていく。
外には、わたしとレイジンだけが残された。
レイジンは、何処からか取り出した絨毯をクルクルと丸めて絨毯床に置き、そこに座ると、隣に座るように促してきた。
言われるがまま、絨毯に腰を下ろす。
そして、冒頭に至るという訳です。