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第13話 異星界は魔法の絨毯社会でした。

 海が宇宙で満たされている異星界は、絨毯社会だった。

 交通手段的な意味だけじゃなくて。

 建築手段的な意味においても。


「テ、テントとかじゃ、ないんだ」

「あー。まあ、テントでもいいんだけど、絨毯の方が用途の幅が広がって便利なのよねー。予備の交通手段としても使えるし、魔法の力を通しやすいから、防御面でも頼りになるし。危険が伴う任務の時には、テントよりも絨毯を使うことが多いわね」

「そ、そうなんだ……」

「そんなに硬くならないで。もっと気楽にしていいのよ?」

「あ、ははー……」

「ま、その辺は、徐々にでもいっかー」


 素朴な疑問をポロリしつつも、ぎっしぎしにぎこちないわたしに、ルーシアさ……ルーシアは、明るくカラリと笑いかけた。

 わたしは、それに硬い笑みを返す。

 えー……。

 今が、どういう状況なのかというと、ね?


 あの後。


 ベアトラを真実の愛にするための第一歩として一世一代の告白を試みたはずが、なぜか匂いハラスメントをかました挙句の突然すぎるプロポーズで微妙な不発に終わり、レイジンを赤面させた上にデカ絨毯の端へ追いやってしまった、あの後。


 その一連のアレソレがね?

 なんと、女子二人にも聞かれていたという驚愕の事実が発覚したわけよ。

 運の悪いことに、ちょうど二人の話し合いが終わって、こっちに向かって来ていたタイミングだったみたいでさ。

 おまけに、わたしの一世一代のソレは、思っていた以上に響き渡ってたみたいでね?


 バッチリ。しっかり。


 聞かれちゃってたんだよぉー…………っっっ!


 ううっ。自ら仕出かした公開プロポーズとはいえ、こんなの公開処刑も同然じゃん!

 てゆーか、もはや後悔プロポーズじゃん!

 なんて、内心ではのたうち回りつつも、ルーシア……の主導で、わたしたちはここでようやく自己紹介をしあった。

 にこやかに。辛うじてぎこちなく。そして、敵意ギンギンに。

 その結果。

 赤毛のお姉さんが、やっぱりルーシアで、薄茶の小生意気がエイリンだと確定した。

 ルーシアは快活な笑顔と共に「さん」も敬語もいらないから、と言ってくれて、それで。

 金色の瞳をキラッとさせて、「詳しい話は、中でお茶でもしながら聞かせてちょうだい」って言って、レイジンに大声で「見張りは頼んだわよー!」って叫んで、それで。「あ、エイリン。あなたも外で見張りをお願い。この子の話は、私が聞くわ」って言って、薄茶を追い払っ…………たわけじゃないんだろうけど、わたしの心情的には追い払ってくれて。生ける怨念と化していた薄茶は、不服そうな顔をしたけれど、ルーシアが笑顔で無言の圧をかけると大人しく言う通りにして。


 で。


 わたしは、一人。

 絨毯建築へお呼ばれされることになったのだ。


 それの存在には、デカ絨毯に降り立った時から、気づいてはいた。

 ちゃんと視界には映っていたし、認識もしていた。

 ただ、それどころじゃないからスルーしていただけで。


 デカ絨毯の真ん中には、絨毯でつくった箱があった。

 仮説絨毯住宅みたいに。

 絨毯でつくったプレハブ小屋みたいに。

 あったっていうか、建っていた。

 鮮やかで華やかな花柄だ。

 いろんな色がいっぱい盛り込まれている、とにかく花柄だ。

 下品な派手さに陥る一歩手前くらいの、鮮やかで華やかな花柄だ。


 ルーシアは、その花柄絨毯小屋を指さしながら、ウキウキと気軽にわたしをお茶に誘った。

 女子だけでお茶会しましょ♪――――みたいなノリで。

 エイリンは敵意を滾らせていたけれど、ルーシアにはまったく敵意はなかった。

 それは、わたしにとって朗報のはずなんだけど、それに気づく余裕はなかった。というか、正直。この時点では、ルーシアが上機嫌だってことにも、気づいていなかった。


 これから、サシで尋問されるんだとばかり思っていた。

 レイジンへのハラスメントについて、問い詰められるんだと思っていた。

 レイジンのことは諦めなさい宣告をされるんだと思っていた。

 気持ちは完全に連行される者だった。

 いや、そういう恋愛的なアレソレを差し引いたとしてもだよ?

 そもそも、穴掘り案件なんだよ!


 いや、だって、アレを聞かれたとかさあ…………!


 誰かに聞かれちゃったっていうだけで、すでにさあ!

 いくらでも穴を掘るっていうか、自ら足元の宇宙に沈みたいくらいの案件なのだが?

 もう、すでにわたしは死んでいるんだが?


 もう死んでいるとか思いながらも、これから死刑執行される罪人のように、わたしはルーシアに連行されていく。

 ルーシアは、お豆腐型に組まれた絨毯の一辺、その真ん中辺りで立ち止まった。

 てゆーか、ドア的なものが見当たらないんですが?

 どうやって中に入るのこれ?…………とか思っていたら。


「どこからでも入れるのが、絨毯部屋のいいところなのよねー」


 そう言ってルーシアは、目の前の壁……じゃない絨毯をノックした。

 すると、ノックした辺りが、ぼぅっと鈍く光る。


 あ、もしかして?

 これで、ドアが現れるってこと?

 いかにもな魔法っぽい魔法に童心を刺激され、そわっとワクッとした。

 そしたら。

 全然思ってたのと違う展開が来た。


 ルーシアは絨毯の光っている部分に、サクッと両手を突き入れた。

 そして、グイッと押し広げた。


 カーテンを開くって感じじゃない。

 肉壁を押し開くって感じだ。


 ルーシアは、押し広げたそこへ、スルリと身を滑り込ませた。

 そして、閉じないように片手で絨毯の端を押さえながら、言った。


「さ、閉じちゃわない内に、入っちゃって?」

「……………………あ、はい。お邪魔……します」


 思ってたのと違う。

 思ってたのと違う!

 入り方もそうだけど、ルーシアの性格も、もしかして思ってたよりも雑だったりする?

 二重のびっくりに戸惑いながらも、わたしはルーシアのお招きに応じて絨毯の裂け目から身をくぐらせた。


 絨毯部屋にお邪魔するっていうよりは。

 絨毯生物の体内探検に行くみたいだった。


 わたしは、闇に葬りたいアレソレを忘れて、ちょっとワクワクしていてた。


 だって、こういうの。

 実は、割と好きなんだよ。

 想像と違って、びっくりはしたけれど。


 でも、嫌いじゃない。


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