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半身
半身
三好ことね
文芸・その他ノンジャンル
2025年02月14日
公開日
1万字
連載中
「この物語は自伝である」
舞台をきっかけに前世を取り戻した夜月臙時。そして、前世の記憶を持った兄、夜月蒼葉。
前世と共存し、生きていくことを決めた臙時に襲いかかるのは、まるで小説の出来事のような非日常ばかり。
前世と一体化した蒼葉、そして臙時の半身と臙時自身は、戦いながらこの非日常を生きていく。

いつか、非日常を日常だと、笑って思い出話に出来る日まで。

第1話 縁は遠からじ

 これはフィクションではなく、ノンフィクション。自伝である。

「と。まさか兄上のように文字を書く日が来るとはね」

 とはいえ、自伝でも書いていないとやっていられないのは事実であり、どれほどの人が信じてくれるか――それは、実のところどうでも良いのだ。

 何故なら、この非日常は最早日常として馴染んだから……などと言葉では何とでも言えるのだ。

「でも、君は私の存在を否定しなかった」

 半身はそう告げた。

 思考回路は筒抜けである。

「ならば、私という証を残しておきたい、という君の気持ちにも気づいていることは、分かるのではないかい? 臙時えんじ


 そう夜月臙時やづきえんじの人生は大きく変わったのだ。

 その証を、ここに残そうと思う。


 遡ること、数ヶ月前になるだろうか。

 臙時は、とある舞台を気まぐれで観てしまったのだ。

 それがまさか――自分に非日常をもたらすと、誰が思うだろうか。


 ――偶然流れてきた舞台の配信情報。

 幕末物の舞台だった。

 興味を惹かれた臙時は、深夜に配信チケットを買いに外へ出た。

 家の中でも舞台が見られるとは、良い時代になったものだ。

 勿論、現地に赴くのが一番迫力を感じることは当然なのだが。

「流石に深夜だから……寒っ……」

 今年は秋から冬に変わるのが早かったな、などとぼんやりと白い息を見つめながら考えた。


 引きこもりがちな臙時にとって、近所のコンビニへ行くのも十分すぎる運動なのだ。

 家へと戻るのも一苦労だ。


 呼吸を整えながら、体を温めるよう自室の布団に包まりながら、買ったばかりの配信アーカイブを視聴する準備をする。

 集中できるよう、電気を消す。

 しっかりと台詞を聞くため、両耳にイヤホンを装着し、再生ボタンを押すのだった。


 冒頭のアナウンス――というより、正確なタイトルを聞く限り、どうやらこの舞台はシリーズ物らしい。

 舞台の内容は一公演完結だが、シリーズとして毎回違った題材で公演をしている……と後から調べて知った。


 舞台本編が始まり、冒頭だけでぐっと惹き込まれた。

 あったかもしれない話、そういった題材の話だからこそ、歴史の知識が白紙に近い臙時はまっさらな状態で観られたのだろう。


「闇の深さを演じるのが上手い人だな……」

 主演、岡田以蔵役の演者を目で追いながら、自分の心が何か――別の何かに惹かれているのが分かった。

 ダブルキャストのその役――そう、役自体に強く惹かれていた。

 昼夜で演者が違うにも関わらず、強い感情――一種の狂いのように惹かれていた。

 役自体に惹かれていたことは間違いない。

 強く、強く惹かれたその感情が何なのかは分からない。


 けれど、その日からだ。

 ――非日常へと足を踏み出していたらしい。

 前世というものに執着するかの如く、興味が湧いた。

 けれど、前世の記憶、或いは情報などそう簡単に思い出せるものではない。

 中には『前世』というものを否定する人も多くいる。


「やっぱ、オカルトな話だよなぁ」

 臙時自身、オカルトは信じる方の人間ではあったが、それは兄の影響であった。

 そのため、一般的に受け入れられない話ということも理解していたのだ。


 臙時の兄、蒼葉あおばは、前世の記憶を持ち現世を生きている。

 その話を疑うこともなく生きてきた。

 蒼葉は兄であり、前世の記憶は『有る』だけなのだから、臙時にとっては昔話を聞いている感覚と何ら変わらなかった。

 ――実際、昔話ではあるのだが。

 だからといって、性格や行動が変わるわけではなく、蒼葉は蒼葉のままだった。

 少しばかり、他の人間よりオカルト方面の力が強いだけの、一般人だったのだ。


 ならば、と臙時が思い立ったことは、蒼葉に相談することだった。

 しかし、どう説明したものか……と頭を悩ませた。

 正直に全てを話せば良いのだが、あしらわれてしまうのではないかと、少しばかり不安に思った。

(兄上も、こんな風に不安を抱えながら、前世の話をしてくれたのかな……)

 そう考えると、もう少し真剣に聞けていれば良かった、と後悔の念も生まれた。

「……まあ、話してみるか」

 そう決心し、蒼葉の部屋の扉を叩いた。


「はいはい、どうしました? 臙時」

「あー、えっと。兄上……相談がある、んだけど……」

「聞きましょう。なんです?」

 普段通りの蒼葉は、相談とあらば、と聞く姿勢へと変わった。

 その姿を見て、臙時は一つ深呼吸をする。

「……前世ってさ、どうやって思い出した?」

「――はい?」

 蒼葉は予想外の方向から飛んできた質問に、きょとんとした表情を浮かべた。


「あー、いや……あの、ね。昨日舞台観てたんだけどさ、観終わってから異常なほど、前世が気になるようになっちゃったーっていうか……」

 冗談めかしく状況を説明する臙時に反し、蒼葉は少し考えた後、部屋に招き入れた。

「そうですねぇ、ワタシが思い出した時は……本を読んだとき、徐々に、というのが適切でしょうか。徐々に、しかし唐突に」

「どういうこと?」

 一冊の本を取り出した後、その本を見つめながら蒼葉は続ける。

「この本を読んでいた時に、唐突に思い出したのです。しかし、その過程は本を読み進めるうちに、徐々に懐かしい光景を思い出す……というもの。知らないはずの場所や出来事を『これは知っている』と古い記憶を思い出すように、光景が浮かぶのです」

 しかし、臙時はその説明にピンと来ないのだった。

 何故なら、臙時の記憶はとても脆いものだったから。


「……古い記憶、かぁ。僕、昔のことはあんまり思い出せないなぁ」

「……そうでしょうね」

 そのことを蒼葉は知っている。

 夜月臙時という存在の曖昧さを。


「そんな貴方が気にする程の前世、ですか。ふとした拍子に出てくるもの、とは言えその舞台にはワタシも興味が湧きました。観せていただいても?」

「まあ、まだ期間あるからいいけれど……兄上、平気? 幕末物、引っ張られやすいでしょ?」

「……ある程度の覚悟はしておきます」

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