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雉四郎編06 スッパイ・ファミリー

 そこは悪役令嬢の実家、悪徳霊場。


 凄まじいやり手のビジネスマンたちが、黒電話を片手に激しくメモを取る。


「はいはい。大丈夫ですよ。うちの墓地はいつでも空いてます。霊柩車の手配から、墓石の手配まですべてお任せ下さい!」


「坊主、神父、神主、よくわからん祈祷師や検討師まで、宗教問わずなんでもいますよ! お布施はお気持ちだけで……具体的に申しますと、格安プランですと100万単位で受け付けております! 子孫に丸投げローンも可です!」


「え? 犬に戒名はおかしい? そんなことはございません! え? 葬式は仏式じゃなかった? そんなことは関係ございません! いまや神棚と仏壇は並べて揃えてなんぼです。セット価格で割引もできますよ! 十字架と卒塔婆もセットで……はいはい! ええ、800万から……はい。ええ! 骨壷にアイドルのサインも別料金でいけますよ!」


「あー、もうですね、レンタル墓地の期限が過ぎるんでぇ。次が埋葬が待ってるんですよ。え? 永代供養したはず? いや、それはもう先月でプランが終わってましてねぇ〜。ええ。そうです。はぁ!? 契約書ちゃんと読みましたぁ? 375ページ目の64行目に書いてありますよ(小さくて読めねぇけどな)! とにかく! さっさと遺骨、掘り出して持ってって下さいよ! 邪魔なんですよ!!」


「はい! 葬儀のご相談ですね! すぐに参り……え? おじいちゃんまだ生きている? 構いません! まったく問題ありません! 早めの埋葬が吉です! すぐに霊柩車で向かいます!」


 ひっきりなしに鳴る電話。


 鳴らなきゃこっちから掛けて、契約成約してしまう……相手が生きていてピンピンしてもそんなの関係ねぇ! それが悪徳霊場のやり方だった!!


「ガッポガッポで笑いが止まりまへんなぁ!」


 キジシロッティの父親であるモロハラッティは腹を押さえて笑う。


「オホホ! まったくもってそうね!」


 キジシロッティの母親であるアケヒロッティは、激しくウェーブしたロングなパープルヘアーを揺らして笑う。


 説明するまでもなく、この2体は贅沢三昧の生活で肥え太っており、部屋の四角を占拠していた!

 もちろん健康診断は、すべての項目がレッドゾーンであーーる!


 キジシロッティは、どうしてこれら両親から自分が産まれたのやら、設定にしても無理があるとは思いはしたが、ここはご都合主義よろしく、どこからどう見ても自分の両親にしか見えなかった。


 経験した覚えはないのに、なぜが鮮明に思いだされ幼い頃に札束の風呂で父親にバタフライスイミングを教わり、「これが金に溺れないということだ!」というつまらないダジャレを聞かされた記憶だけが鮮明に浮き上がる!


「おや、愛娘。グッドマネー」


「グッドマネー……ですわ。お父様」


 この家では“グッドモーニング”に代わる挨拶であった。


「どうしたの? 不景気面ね。“御々鵜裸之魔泉おおうらのまいずみ”の跡取りとしてはふさわしくないわ!」


 やたらと長いが、キジシロッティの名字は御々鵜裸之魔泉であった。覚える必要はない。もう二度と出てこないからだ。


「そ、そんなことはございませんわ」


「お黙りなさい! 小娘!」


「ビクゥッ!」


 衝撃波を伴う母の一喝に、キジシロッティは思わず竦み上がったのを擬音で口にしてしまった!!


「男の事で悩んでいるのね!」


「ギクゥッ!」


 まるで透視能力でもあるのかの様な母のズバリな指摘に、キジシロッティは「こわいわ〜」と鳥肌(鳥類だけに)を立たせて震える。


「そうかそうか! キジシロッティも年頃の娘だかんのぉ! 悪役令嬢のテンプレから察するに、きっとライバルの正統派ヒロインを蹴落としたくて仕方がないというところかいな?」


 すべてお見通しとばかりに、父がニタリと笑う。


「父も母もあなたの味方よ。あなた……」


「わかっとるよ」


 父がベチンと指を鳴らすと、スタッフのひとりが一升瓶を抱えて走ってきて、キジシロッティの前に恭しくも置いた。


「こ、これは…」


 なんのラベルもないまっさらな瓶の中に、並々とコールタールのような、腐った豆を食った後に出た糞便のような、そんなドロドロとした液状のものが並々と詰まっていた。


「知っての通り、ゾンビビス・エキスだ」


 そんなん知らねぇよとキジシロッティは思ったが、話が先に進まないので黙っておく。


「墓場で運動会しているヤツらから抽出した、人間をエロティック・グロ・性欲モンスターに変えてしまう酸っぱいアイテムよ」


「エッ!? それはなんて素敵な酸っぱいアイテムなのかしら!」


 常人なら疑問に思うところを、さすが畜生なだけあって、都合のよいところしか耳にはいらないのであーーる!


「なら、これを憎い恋敵のカマトトぶったコリッティに飲ませれば…」


「もはや敵はない!」「オダブツよ!」


「最高! 最高でしてよぉ! オーッホッホッホッホ!!」


 とても主人公とは思えない笑顔で、キジシロッティ高らかに笑ったのであーった!!

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