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猿三郎編06 チキンとしなさい

 猿三郎たちはドクター・ベンザーの部屋を経由し、白衣を着た謎の科学者の白骨死体を乱雑に放り投げ、彼が用意したと思わしき隠し通路を抜けてひた走る!


 なぜ走るのか?


 特に理由はない!


 脱走シーンは走っている光景が当たり前のように出てくるんで、なんとなしに走っているだけなのだ!!


「で、俺たちはどこに向かっているんだ?」


「“鳥舎”じゃー!」


「鳥舎? オウムやヨウムも頭はええが、オラよりは劣るっぺよ」


「いんや、旧い知人がおるんじゃい! 特に何が優れとるわけでもないザコ鳥じゃが、ワシらに足りない部分を補ってくれるんじゃあー!」


「俺たちに…?」


「足りないもの…だっぺ?」


 ゴリッポとベンザーは不思議そうに顔を見合わせる。


「それは色気じゃー! もう6話になるちゅーのに、ろくすっぽ、まともなヒロインが出ておらんのじゃけん!」


「そうか? 雌は沢山でていたように…」


「違ーう! ネオペの読者は人間じゃい! 類人猿見ても萌えん、難儀な性的指向の持ち主どもばかりじゃけん!」


「しかし、サブよ。かといって鳥類だしてもどうかと思うだよ」


「ところがどっこいじゃい! ワシの知人の雉こと、雉四郎は異世界で人型になっとるんじゃー!」


 そう! 前作をご存知の方はご存知だろうし、知らない方はなんとなく察すれば別に問題のない情報であるが、異世界に転移した猿三郎含む3匹は、転移物あるあるご都合主義により人型になって転移したのであーった(猿三郎の場合は何が変わったのか不明だったが)!


 そして雉四郎は名前から雄っぽいが、実のところ雌であったのであーる!


「なら、その雉は良い雌なのか?!」


「ああ! 頭も性格もカス中のカスじゃが、顔と身体だけは満点じゃ!」


「ウヒヒ! そりゃ楽しみだっぺ!」


「期待しててくれてよいわーい!」


 ちなみに猿三郎だけでなく、犬次郎も雉四郎も現代に戻った時に動物の姿に戻っているわけなのだが、自分本位に生きている猿三郎はそんなことすっかり忘れてしまっていたのであーーる!


 そして欲望丸出しの3匹は、鳥舎エリアへと辿り着く!


 ガラス張りのドーム型天井、バビロンの空中庭園を意識したレイアウト…そこはまさに天空の覇者たちに相応しきエリアであった。


「雉四郎! ワシじゃ! 雉四郎! どこじゃー!? ここを脱園するんじゃけー!!」


 猿三郎が叫ぶ!


 しかし、ピーチクパーチクと南国の鳥どもの鳴き声は聞こえど、超日本語は返ってこなかった(猿三郎たちは超日本語で会話している。なんでか? そうじゃないと読者が読めないでしょうが!)。


「なんだ。三郎。そのべっぴんさんはどこに…」


「んん? なんか良いニオイが漂ってるだよ」


「なんじゃと? クンクン…そういえば香ばしいニオイが…」


 3匹は周囲を見回す。


 と、通路のど真ん中に皿があった!


 その上には、ほんのり湯気を立てている茶色い塊が! 


 そう言うと小学生が大好きな“アレ”を思い浮かべる、単純思考の読者がおられることと思うが、これはそんなお下品な作品では決してなーーい!


 それはからりと揚げられたチキンだ!


 洋画とかによく出てくる、超日本人がどうやって食べていいか悩む、七面鳥の姿揚げだ!


「こ、これは一体…ま、まさか雉四郎は…」


 猿三郎はワナワナと震え、揚げチキンを持ち上げる。


 そしてガブッと一口食った!


 なぜ食ったのか?


 それは猿三郎が畜生であるからに他ならない!


「それは一体…」


「この味…間違いない。雉四郎じゃ!」 


 何をどうしてそうなるのか誰にも解らなかったのだが、猿三郎は確信持った顔でツーと涙を流す。


 そしてもう一口食べた。


 なぜそんなことをしたのか?


 決まっている! 美味かったからだ!


「なぜこんな姿に…そういや、“雉”とはなんなんだ?」


 ゴリッポが自分の無知を晒す。


 そういえば、作者も雉は「ケーン」と鳴く派手な鳥というイメージしかない。


 人間様である作者がそうであるのだからして、ゴリラもどきであるゴリッポが知らないのも無理はなかった。


「聞いたことがあるべ。それはスズメとハトの中間生物であり、その希少価値ゆえに世界三大珍味に数えられ、人間どもの密猟の対象にされている…それが“キジ”であるんだと!」


 ベンザーは嘘八百を並べ立てるが、猿三郎もゴリッポもバカだったのでそれに気付かなかった!


「雉四郎! なんでこんな姿に! 許せん! すべてはあの犬次郎のせいじゃけーん! 仇は必ずとっちゃる!!」


 猿三郎は涙しつつ、ガツガツと肉を貪る。


 知らずと、ゴリッポとベンザーも手を出して食べ始めた。


 当然、奪い合いが始まる。


 なぜか?


 説明するまでもない。


 それは彼らが畜生だからだ!


 目の前に食い物があったら食う!


 それが畜生というものだからだ!


 そしてあっという間に、皿の上には油カスだけが散る状態になってしまう!


「ゲフッ! 雉四郎! オメェのことは忘れねぇ!」


「ゲフッ! ああ、会ったことはねぇが舌には残ったぜ! 俺も忘れねぇ!」


「ゲフッ! んだ! 雉四郎とやら、安らかに眠るだ! あとはオラたちに任せてな!」


 3匹は頷き合うと、物凄い勢いで鳥舎エリアから飛び出して行ったのであーーった!




★★★




 しばらくして、繁みの中から1匹の鳥類が顔を出す。


 そして、空になった皿をジト目で見やった。


「……なんでこれがアタシだと思うのよ。どうみてもケン○ッキー…ニワトリじゃないの」


 そう! それは紛う事なき雉! 雉四郎であった!


「でも良かったわ。なんか嫌な予感がして、ここに“囮”を設置しておいて…」


「だから言っただろォ。あのアホな3匹は必ずここに来るとネェ…」


「あら♡ ダーリン♡ そこに居たのね♡」


 別の繁みの奥から、ロリゴスロリが姿を現す。


 ポッと雉四郎の頬が紅く染まった。


 そう! 実は雉四郎は、峰不○子の如く、敵役のボスと愛人関係にあったのであーーる!!


 類人猿と鳥類との恋愛が上手くいくかは知らない!


 しかし!上手く行くのだからそういうこともあるんだろう!!


「ククク。猿三郎は脱出するのに、必ず渡り鳥である雉四郎を引き込むと思っていたさァ。空からなら、万が一にもこの動物園からの脱出は可能だったかんなァ〜」


「だけれども、アタシはそんなことに協力なんてしない…。そんなことお見通しだったわよね」


「まあな、だが念の為だぜィ。俺様には一分いちぶの隙もねぇんだヨォ」


「ホントウに悪い類人猿ひとね…。でもそこが好き♡」


 2匹は近づく。そして熱い口づけを交わそうと……


 グサッ!!


「あんぎゃあーーッ!!!」


「ダーリン!?」


 何が起きたのか!?


 説明しなければなるまい!!


 口づけしようと双方が顔を寄せた瞬間、雉四郎のクチバシが、ロリゴスロリの左眼内眼角に突き刺さり、前頭葉を穿ち、脳幹を大破させ、後頭部頭蓋から飛び出したのであーーる!!


 つまり平たく言えば、即死であーーる!!


 ロリゴスロリはその場に崩れ落ち、しどどに赤黒い血を床に撒き散らす!!


「ダーリン?! 死んじゃイヤァァァッ!!」


 雉四郎は鮮血に濡れそぼったクチバシを開いて絶叫する!!


 悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!


 脱園篇に置いて最大最強のボスキャラになるであろうと思われ、猿三郎たちと死闘の果てを繰り広げ、その都度、因縁深い関わり合いを持ち、最終的に島を爆発させる自爆装置を起動させたところで、すべてをぶつけ合うような掛け合いや熾烈な切迫したタイマンを通して、お互いをようやく分かり合い始め、そんなちょうど和解できんじゃないかなぁっていいところに、黒幕が出てきて、2匹の闘いに水を差すが如く、「ロリゴスロリ。使えん奴め。お前たちはまとめて始末してくれよう」となった際、「猿三郎。ライバルのオメェはこんなところでやらせねェ。オメェをやるのはこのロリゴスロリ様よ。だから、ここは俺様に任せて逃げなァ」と、最後の最期で友情の片鱗を見せ、黒幕が放った刺客を巻き添えに島ごと消え去って、脱園編─完─みたいな感じで逝く……そんな予定のキャラであったのに、何の因果か、まさかの事故死!! ああ、悲しい事故死!!!


 ネオペ系小説初! ボスが序盤で事故死になったのであーーった!!


「ギャアギャアギャアギャア!!(雉四郎の野郎が、あの治安部隊隊長のロリゴスロリ様を!!)」


「ホ、ホケ! ホーホケ! ホーホーケキョ!!(た、大変だ! これは謀反だ! 園に対する反逆だ!!)」


 今まで適当に鳴いていた鳥たちが、一斉に雉四郎を批難する声で鳴き始める!!


「ち、違うわ! 恋ならぬ、故意じゃないもの!!」


 雉四郎は弁明するが、凶器のクチバシには真っ赤な痕跡が残っていた!


 こんなモロな証拠が残っていては、お奉行様でも「いやー、ちょっと」と言って手打ちにしてしまうであろう!!


「あんまりよ! あんまりだわ!! アタシは幸せになりたかっただけなのにぃー!!」


 どこぞの少女漫画のヒロインの如く、涙をハラハラと散らして、雉四郎はトトトと駆けてその場を逃げて行ったのであーーった!!

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