さて、猿三郎の部屋と同じような部屋。
当たり前だ。畜生の部屋なんて、どこもコンクリ打ちっぱで飾り気ないものなのだ。
そう。そりゃ水漏れはしてるわ、便所は臭うわ、よく解らん毛玉は転がってるわ、エイリアンの白骨死体が転がっているわ……まあ、よくある光景なので、細かい描写は端折らせて頂く!
「…と、いうわけで、ワシはこのクソ監房…もとい、クソ動物園を脱出したいんじゃーい! そしてシャバのエエ乳した娘っ子に…じゃなくて、ワシを捨てたクソ犬次郎のヤツに復讐するんじゃーいッ!!」
「ふむ。よく解らんが、よく解った。しかし、この園のセキュリティは、団地に住む町内会長の奥さんの監視の目よりも厳しい。あの保安部の隊長ロリゴスロリは…」
「当然、ヤツも脱園するの時に全殺しじゃーい! そのためにゴリッポ! オマエの力が必要なんじゃ! ワシに協力してくれぃ!」
「うーん、協力したいのは山々なんだが…」
「なんじゃ! 歯切れが悪いのぅ! オマエもこの園から脱出したがってたじゃろうけん!」
ゴリッポは頷く。
最近…というより、だいぶ前から、このエリアのゴリラたちと上手くやれていない気がしていたのだ。ハブかれているというか、まるで宇宙から来たエイリアンのような扱いを受けているような気分だった(ゴリッポは自分が宇宙人に造られたことを知らない)。
「だったら…」
「いや、待て。俺は確かに腕っぷしは強い。…しかし」
「しかし?」
「俺は頭がすこぶる悪い」
「は? いや、頭が悪いのはともかく…自分で言うことけ?」
「ああ。少なくとも俺は自分の弱点を理解している」
悟ったような顔をするゴリッポに、猿三郎はハッとする。
(待てよ。コイツ、もしかして自分が頭が悪い事を自覚しているだけ、ワシよりマシだと言いたいんじゃないか? マウンテンゴリラ[※]なだけに、マウントとろうとして…)
[※…ゴリッポはマウンテンゴリラではありません]
「ゴホン。いや、そうは言っても、ゴリッポ。ワシよりガタイが良い分、脳味噌もデカイんじゃから、まるっきりバカっちゅうわけでもないじゃろ」
猿三郎はニッコリと笑って言うのに、ゴリッポがハッとする。
(ああん? この野郎…。まさか、上から目線でそんな事を言うとは、遠回しに俺の事をバカにしているってことじゃねぇの? 超日光猿軍団[※2]のボスザル風情が調子こきやがって!)
[※2…猿三郎は超日光猿軍団とは何の関係もありません]
「…まあ、あれだ。身体が小さいからこそ頭脳労働に長けてるっていうのはあるだろうしな。あれだろ? 小学生の300円未満のオヤツをかっぱらったり、旅行者のバックひったくり取ったりってのは、そりゃ相当な知恵がねぇとできねぇしな」
(なんやこのクソが…。エ○ゴリくんみたいなバカヅラしくさってからに偉そうに…。…まさか、ワシがコソ泥みたいな、せせこましい浅知恵しかないとバカにしとるんかい?!)
「…そうは言っても、ゴリラはあれじゃろ。ドラミングとか胸を叩くのって、威勢のいい威嚇と思わせて置いての、実は和平的な行為なんじゃってな。そういやドンドコってよりポコポンみたいな愉快な音じゃったな! こりゃゴリラの賢さの指標だと思うけんなぁ!」
「は、ハハ…。三郎…」
両者は引きつった笑みを浮かべ、ゴツンと額と額を打ち付け合う!
(なんじゃ! このクソリラが!)
(あーん? このエテ公が!)
猿三郎とゴリッポは血走った眼で睨み合う!
──小1時間後──
殴り合いの果て、2匹はようやく我に返る。
自分たちは一体何をしていたのか、と。
((もしかして、もしかすると、我々は同じくらいのバカだったんじゃないのか?!))
そう! 彼らは所詮、人間に劣る類人猿(え? ニホンザルは類人猿じゃない? 超日本猿はエイプなんです)!
「……なあ、ゴリッポ。ワシらの頭だけじゃ足りんけん」
「……そうだな。知恵者には心当たりがある」
「…ほうけ。なら、ソイツんところに行くとしよか」
互いに支え合い、猿三郎とゴリッポは微笑み合う。
今まで何を争うことがあったのか。
同じバカなら、踊らにゃ損じゃあないか。
拳を交えれば皆友達。かつて偉人のどこの誰かが、争いとは同じレベル同士の間にしか起きないと言っていたような気がしなくもない。
そうさ! 考えてみれば、同じ宇宙船地球号の仲間たちじゃあないか!
これは同じ窯の飯を食った仲と申し上げて差し支えあるまい! 種族間の差など、居間で食ったか、便所で食ったかの些細な違いでしかないのだ!
種族が違ったっていいじゃない。
2匹は恋人つなぎで手を取り合い、エイリアンがゴリッポを搬送時に使ったと思わしき、そんな隠し通路に「よいやっさー!」と、踊りこむようにして飛び込んだのであーーった!