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犬次郎編11 回復系力士

 レベルアップした俺は、銭太郎と裏本太郎を一撃で始末する。


「お前らも始末したかったんだがな」


「なんじゃとー!」「ひどいわ!」


 ふむ。まあ、弾除けには使えるか。


 猿三郎も雉四郎もまだ生かしといてやってもいいな。始末ならいつでもできる。


「怪我の治療が必要でゴワスな」


「そうだな。雉四郎は魔法を使う度に嘔吐するから困る」


「オイドンに任せてつかあさい!」


 俺たちが喋ってると、猿三郎と雉四郎は目を丸くする。


「なんだ?」


「だ、誰じゃーい!」「この人、誰よぉ!?」


「本当にいちいちウルサイ奴らだ。新しい仲間に決まっているだろう」


「な、仲間じゃって? 一体なにを…」


「どう見ても力士だけど…世界観が…」


「なにが世界観だ。偉そうなことを言うな。貴様らこそ動物園か、背徳の街がお似合いなくせに」


「誰がチンパンじゃー!」「誰がトルコ嬢よ!」


 誰もそこまで言ってない。


「ジッとしているでゴワス。回復魔法を使うでゴワスよ」


 彼は四股しこを踏み、手をすり合わせる。


「は? …どう見てもパワーファイターなんですけど」


「何を言っている。彼はこの世界でも数少ない“回復系力士”だ。名をグルコサミンという」


「なんじゃそりゃ! 膝関節痛に効きそうな名前じゃ!」


「グルコサミン・大爆嵐関でゴワス!!」


「ちょっと! 色々おかしいでしょ! 大爆嵐関の方がらしい名前じゃないの!」


「…いちいちウルサイ奴らだ。黙って受け入れられないのか」


 唐突に仲間になるイベントなんてあるあるだろうに。


「受け入れられるかーい!」


「受け入れろ。俺も生まれて気づいたら、人間なんかの家族にさせられていたわけだ」


「そりゃペットショップで買わわれたからじゃろがい!」


「ふざけるな。ひとの命を買うだと? 勘違いするな。その人間はドッグフードをよこす下僕だからこそ、側においてやっていただけの話だ」


 主従関係で言えば、俺が主だった。そこは間違いない。


「そんな話は今はどうでもいい。とりあえずコイツらを回復してやってくれ」


「了解でゴワス!」


 グルコサミンは中腰に構える。


「は? 回復魔法を使うんじゃろ? なんでそんな…」


「動かないでくっさい!」


「は?」


「ドスコーーイッ!!」


 バチコーンッ!!!


 グルコサミンの強烈な張り手が、猿三郎の顔面を打ち抜く!


 猿三郎は縦回転をしつつ、大木の幹に激突した!


「き、キャアア! な、なんで攻撃するのよ!?」


「攻撃じゃない。よく見てみろ」


「な、なんじゃあ!? …はおッ?! こ、これは? だ、ダメージがないじゃと?!」


 猿三郎が起き上がる。そして自分の身体を見て驚いていた。


 もはや説明するまでもない。回復したんだろう。


「がぁー! し、しかし、痛い! 張り手の痛みが半端なーい!! 痛すぎるぅッッッ!!!」


 ゴロゴロと、その場でのたうち回る猿三郎。


「そうだ。グルコサミンは世界有数の回復力士だ。敵に受けたダメージを上回るダメージを与えることで回復させるのだ」


「エッ!? と、ということは…」


「次は雉四郎を回復させてくれ」


「解りましたでゴワス!」


 敬礼で応えるグルコサミン。実に従順なヤツだ。


「い、イヤァ! ち、近寄らないで…」


「ハフハフ! 優しくする、優しくするでゴワスゥッ!!」


「キャアアアアッ!!」


「まったく持つべきは使える下僕なかまだな」

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