俺はツギーの町へと戻る。
町の中にさえ入ってしまえば、敵は追いかけては来ないだろう。
「さて、レベルアップのためにイベントをこなさなければならない」
俺は手近にいた男に声をかける。
「なんだ?」
「殴らせろ」
「は?」
ボグゥッ!!
俺は男の腹にボディブローを叩き込む。
「ハウウッ! な、なにを…なにをするッ!?」
「うーん。レベルは上がらんか」
「レベル!?」
「やはり殺すしかないか」
「エッ!?」
俺は鉄球を振り回す!
「な、なにを!?」
「人間どもめ。お前たちは存在だけで罪なのだ」
そうだ。人間こそが我々柴犬にとってモンスターなのだ!
俺は思い出す。八百屋のオヤジに蹴られたことを、魚屋のオヤジに魚を無理やり食わされたことを、そしてどこぞの学校教師に極太油性ペンで眉毛を描かれたことを……
許せん!! 人間めが!! 駆逐してやる!!
「やめて!」
目の前に美少女がいた。柴犬の俺でも解る良い女だ。ボーダーコリーだ。
ボーダーコリー?
なんだと? いや、人間のハズだ…???
「お察しの通りです。私もまたゴッデム神によって異世界異動してきた者なのです」
「そうなのか?」
「はい。ツギーの町に来られてからずっと見て参りました。しかし傍若無人なそのお姿…ンボォッ?!」
俺は鉄球で女の顔を殴り飛ばした。
「なんで!? どうして殴った!?」
さっきボディブローを加えた男がキャンキャンやかましく吠える。
「話が長くなりそうだからだ」
「そ、それだけで…」
「教会はどこだ?」
「え?」
「教会なら蘇生させられるんだろ?」
「そ、それはそうだが…」
「場所を教えろ」
「この町の北だ。ミカンみてぇなオブジェが屋根にあるからすぐに…ンバァッ!!」
俺は男を鉄球で殴った。
「北のミカンだな。それだけ解ればもう用はない」
──
「オーマイゴッド!」
血塗れの町を見て神父は漫画みたいな顔をする。
そうだ。俺がこの町の住人全員を鉄球で始末したからだ。
「神などいない。…いや、いたがラーメンを食ってた」
「ユーは悪魔ですか? なぜこのような残酷なことを!」
「レベルアップのためだ」
コイツらのおかげでレベルが10は上がった。
「ワッツ!?」
「それに蘇生させられるんだろう?」
「で、できるにはできますが…」
「ならさっさとやれ」
「え? えっと…町人1人あたりの蘇生代が500円ですから、この町の住人の数が1000人だとすると…」
「無償でやれ」
「は、はぁ!?」
「普段は神への奉仕どうのと言っておいて、タダ働きはしない気か? まるでペットのように良いご身分だな」
「な、なんという罰当たりなことを…」
「罰もクソもあるか。蘇生しないなら、貴様を今すぐに神の元へと送ってやる。ラーメン食ってる邪魔をするなと怒り狂うだろうがな」
「オーマイゴッド!」
「だから神などいない。お前を救う神などいないのだ」
「オーマイゴッド!」
ダメだな。コイツは…
まあいい。無理やりにでもやらせるだけだ。
「さあ、さっさと蘇生しろ! 少なくとも3周はするぞ! あとレベル10は上げる!」
「オーマイゴッド!」
──
町の惨劇を、銭太郎も裏本太郎も唖然として見やる。
「こんな酷いやり口は見たことがないだっちゃ!」
「貴公らの仲間の方が常軌を逸しているでありますぞ!」
捕らわれの身となった猿三郎と雉四郎は何とも言えない顔をする。
「まったくもって…」
「ねぇ」
ツギーの町からは、犬次郎唸り声と人々の嘆き叫ぶ声が夜まで響いていたのであーった!!