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犬次郎編09 タイトル詐欺

「……なんだ。また頭がおかしい奴らか」


 俺はため息をつく。


「な、なんだと!」


「心外な!」


 銭太郎と裏本太郎が怒る。


「なんで変身すると弱そうになるんだ。あの翁仮面の方が不気味でヤバい感じがしたのに、ラスボスの第二形態(だいたい巨大化する)くらいに面白みを損なうぞ」


 そうだ。せっかくここから面白くなる展開じゃなかったのか。なんでここで面白み落とす必要がある?


「余裕だっちゃな! おいどんたち、芝刈翁シバカリオキナーズを前に!」


芝刈翁シバカリオキナーズじゃと!?」


「知ってるの!? 猿三郎!」


「いや、まったく知らん!」


「なら知ってる風に驚くんじゃないわよ!」


 コイツらもうるさい。


「どうでもいい。本当にお前らにはガッカリだ。変態の相手は疲れる」


「な、何を! 貴公が一番変態っぽい格好してるではありませぬかー!」


「そうだわいな! なんで股間にそげなもん括りつけておるっちゃわいな!」


「何を言っている。これは武器だ。それに急所を保護する上で最も最適、確実に守る装備ではないか」


「ま、マジで言っているのけ、犬次郎よ」


「は、恥ずかしくないの?」


「恥ずかしい? 笑わせるな。元柴犬を舐めるな。このエセ人間かぶれどもめ」


 俺たちの失敗を写真や動画に撮って「カワイイ」だのと宣い、SNSに投稿して“映え”を狙うあこぎな人間どもめ。

 逆の立場ならどうだ? 上司に怒られたり、階段でつまづいたり、家の鍵を閉め忘れたりしたのをネット上にアップされて喜ぶのか? それを「カワイイ」だなんていう言葉だけで許せるのか?


「とても許せん。人間どもめ。犬族の仇をとってやる!」


「な、何を言うとるんじゃ。犬次郎は…」


「わ、わからないわ…」


 俺は鉄球を振り回す!


「危ないわーいッ!」「きゃあッ!」


 チッ。仕留め損なったか。


「まあいい! 貴様らから一撃粉砕だッ!」


 俺はそのまま陰嚢玉を振るう! 


「させーん! どすこーい!」


「なに!?」


 銭太郎が俺の放った鉄球を受け止める!


「まだだ! 陰嚢玉は2つある!」


 もう1つは裏本太郎に襲いかかる!

「あっと驚く玉毛箱!」


「なに!?」


 裏本太郎が持つ小箱を開くと、異臭を放つチヂレ毛があふれ出し、鉄球をガードした!


「なんてことじゃい! 犬次郎の攻撃が通用せーん!」


「ど、どうするのぉ!?」


 …うるさい。本当に。


「…待てよ。しかし一撃で倒せなきゃ、俺が無双していることにならないじゃないか!」


 タイトル詐欺だ! 何が異世界で無双するだ!(※)


[※…作者注 この1(無印)のサブタイトルは、〜柴犬が最強武器の大魔神のふぐり玉と呼ばれるモーニングスターで異世界無双する件〜で、犬次郎はその部分のことを言っています]


「さっきから何を言うとるっちゃわいや!」


「さっぱり解らぬですよ!」


「うるさい! 犬族の未来がかかってるんだ!」


 しかしなぜ倒せないんだ? 大魔神の陰嚢玉は伝説の最強武器だったんじゃないのか?


 俺はゴッデムに渡された攻略本を読む。


「お、おい! 戦闘中だっちゃ!」


「小生らを舐めておるな? ナメプですな!?」


「黙ってろ。こっちが行動するまで貴様らは動けんはずだ」


 ふむ。どうやらレベルが足りないようだ。

 そうだ。そもそもスライムを幾らブッ叩いてもレベルはたいして上がらん。中ボスに勝てるはずもない。


「逃げるぞ!」


「は?」「へ?」「え?」「お?」


「レベルアップしたらまた戦う。じゃあな」


 俺は逃げ出した。元柴犬だ。勝てなきゃ逃げる。吠えるだけ吠えて逃げる。


「「「「「負け犬の遠吠えじゃーん!」」」」」

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