「……なんだ。また頭がおかしい奴らか」
俺はため息をつく。
「な、なんだと!」
「心外な!」
銭太郎と裏本太郎が怒る。
「なんで変身すると弱そうになるんだ。あの翁仮面の方が不気味でヤバい感じがしたのに、ラスボスの第二形態(だいたい巨大化する)くらいに面白みを損なうぞ」
そうだ。せっかくここから面白くなる展開じゃなかったのか。なんでここで面白み落とす必要がある?
「余裕だっちゃな! おいどんたち、
「
「知ってるの!? 猿三郎!」
「いや、まったく知らん!」
「なら知ってる風に驚くんじゃないわよ!」
コイツらもうるさい。
「どうでもいい。本当にお前らにはガッカリだ。変態の相手は疲れる」
「な、何を! 貴公が一番変態っぽい格好してるではありませぬかー!」
「そうだわいな! なんで股間にそげなもん括りつけておるっちゃわいな!」
「何を言っている。これは武器だ。それに急所を保護する上で最も最適、確実に守る装備ではないか」
「ま、マジで言っているのけ、犬次郎よ」
「は、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしい? 笑わせるな。元柴犬を舐めるな。このエセ人間かぶれどもめ」
俺たちの失敗を写真や動画に撮って「カワイイ」だのと宣い、SNSに投稿して“映え”を狙うあこぎな人間どもめ。
逆の立場ならどうだ? 上司に怒られたり、階段でつまづいたり、家の鍵を閉め忘れたりしたのをネット上にアップされて喜ぶのか? それを「カワイイ」だなんていう言葉だけで許せるのか?
「とても許せん。人間どもめ。犬族の仇をとってやる!」
「な、何を言うとるんじゃ。犬次郎は…」
「わ、わからないわ…」
俺は鉄球を振り回す!
「危ないわーいッ!」「きゃあッ!」
チッ。仕留め損なったか。
「まあいい! 貴様らから一撃粉砕だッ!」
俺はそのまま陰嚢玉を振るう!
「させーん! どすこーい!」
「なに!?」
銭太郎が俺の放った鉄球を受け止める!
「まだだ! 陰嚢玉は2つある!」
もう1つは裏本太郎に襲いかかる!
「あっと驚く玉毛箱!」
「なに!?」
裏本太郎が持つ小箱を開くと、異臭を放つチヂレ毛があふれ出し、鉄球をガードした!
「なんてことじゃい! 犬次郎の攻撃が通用せーん!」
「ど、どうするのぉ!?」
…うるさい。本当に。
「…待てよ。しかし一撃で倒せなきゃ、俺が無双していることにならないじゃないか!」
タイトル詐欺だ! 何が異世界で無双するだ!(※)
[※…作者注 この1(無印)のサブタイトルは、〜柴犬が最強武器の大魔神のふぐり玉と呼ばれるモーニングスターで異世界無双する件〜で、犬次郎はその部分のことを言っています]
「さっきから何を言うとるっちゃわいや!」
「さっぱり解らぬですよ!」
「うるさい! 犬族の未来がかかってるんだ!」
しかしなぜ倒せないんだ? 大魔神の陰嚢玉は伝説の最強武器だったんじゃないのか?
俺はゴッデムに渡された攻略本を読む。
「お、おい! 戦闘中だっちゃ!」
「小生らを舐めておるな? ナメプですな!?」
「黙ってろ。こっちが行動するまで貴様らは動けんはずだ」
ふむ。どうやらレベルが足りないようだ。
そうだ。そもそもスライムを幾らブッ叩いてもレベルはたいして上がらん。中ボスに勝てるはずもない。
「逃げるぞ!」
「は?」「へ?」「え?」「お?」
「レベルアップしたらまた戦う。じゃあな」
俺は逃げ出した。元柴犬だ。勝てなきゃ逃げる。吠えるだけ吠えて逃げる。
「「「「「負け犬の遠吠えじゃーん!」」」」」