1週間後、俺たちは町の入口に集まる。
「何があったかは聞かん。聞く価値がない」
猿三郎は酔っ払っている。雉四郎はなんだかやつれている。
武器を揃えると話したはずだ。目的外のことをして散財したクズとカスに同情の余地などない。
「まあ、そんなこと言うけんな。ワシはパワーアップしたんじゃけんのぉ!」
前後左右に揺れまくってる猿三郎。単なる酔っ払いにしか見えない。
「雉四郎は?」
「あ、アタシも…色々経験積んだから。はは」
なんで少しヤケになっている感じなんだ?
「なら戦えるのか? 試してみるとしよう。ちょうどあそこにスライムが3匹いる。この世界では最弱の魔物だ。1匹ずつ倒してみるんだ」
「へ! スライムゥ? お茶の子さいさいよ! よし、まずわワシからいくけんのぉ…グビッ!」
まだ酒瓶を持ってたのか。呑みながら千鳥足でスライムへと向かう。
「ワシの獲得したモンクスキル! 酔えば酔う…ウオボェールロロロッ!!!」
スライムの前で吐いたか。あれだけ酔っ払っていたらそうだろう。
そして憤ったスライムたちが猿三郎をボッコボコに殴っている!
「た、助けてくれぇー!!」
スライムから引き剥がし、血まみれの猿三郎を救出する。
「死ぬぅー! 死んでしまうぅ!!」
「【キュア】」
雉四郎が何か使った。猿三郎の身体がみるみるうちに治っていく。
「き、雉四郎…まさか、これは魔法ってやつじゃ? 回復魔法が使えるようになったのけ?」
「ええ。仕事上、どうしても必要で…
雉四郎が口元に手を当てて吐き気を堪える。
「回復魔法の代償なのか?」
「え? え、ええ…まあ、そんなところね。詳しくは聞かないでちょうだい」
そうか。武器を手に入れなかったのはともかく、回復魔法を会得するのに苦労したのなら何も言うまい。
「…残念だが猿三郎。お前は戦力外だ」
「ま、待ってくれぃ! まだだ! まだワシはやれるわい!」
怪我と一緒に、酔っていたのも治療されたらしい猿三郎が立ち上がる。
「見ててくれぃ! ワシの真骨頂は遠距離攻撃にあるんじゃい! これぞ奥義【疾風怒濤波】!」
おお! 猿三郎の拳から螺旋状の風が飛び出して、スライムの表面が激しく揺れている!
……揺れている?
「…これはダメージを与えているのか?」
「は!?」
ちょっとした強風を出してるだけじゃないか。
「し、しまった! スカートめくりするために威力を調整し過ぎて“弱”でしか出せんくなっていたんじゃ!」
再び猿三郎はスライムたちに囲まれボッコボコに殴られる!
「た、助けてくれぇー!!」
「何なんだお前は」
再び、猿三郎を救い出す。スライムに倒されるなんてどんだけなんだ。
「雉四郎。お前は…」
「はい! アタシの色気で誘惑してみせます!」
聞くんじゃなかった。時間の無駄だった。
「きっと上手くいくわ! お店に来た人は皆、虜にしてやったもん!」
「…そりゃ金払って行く店なら、入った時点ですでに虜になっとるじゃろがい。そういう目的があるんじゃけんのぉ」
「は!? ウ、ウルサーイ! やってみなきゃ解かんないわよ!」
乳の谷間を寄せて、スライムへと向って雉四郎は走る!
「き、キャアアアッ! た、助けてぇ! アタシの魅力が通じないわぁ!」
そりゃそうだろう。相手は魔物だ。
同じようにして雉四郎を救い出す。
「最初から期待はしてなかったが、やはりお前らはクズカスだ。まごうことなきクズカスだ。スライムすらまともに倒せない。俺がやるのを見てろ!」
「犬次郎よ! たいそうなこと言うとるが、今のオメェの格好はだいぶやべぇーぞ!」
「なにがだ?」
「なにがって…気づいてないの?」
ふたりは揃って俺の股間を見やる。
「武器だ。モーニングスターだ」
「いや、武器なのはいいんじゃけん、なぜにそんなところに装備しとるんじゃ? そんな股の間に挟んどったら…もう狙ってやっとるとしか…」
「店主のサービスでくれたホルスターが呪われていたらしい。外せないのだ。不便はないんでいいがな」
手に武器を持たず、ホルスターに差すだけで持ち歩けるのはいい。鉄球同士がガンガン当たってうるさいのも困ったものだが。
「ホントにナニにしか見え…オエッ!」
「人の武器を見て吐くな! 見せてやる! この伝説の武器の力を!」
俺は股の間から棒を引き抜く! 垂れ下がっていた刺鉄球が喜んだかのように跳ね上がった!
「うおりゃぁッ!」
俺は鉄球をブン回す!
そしてスライム目掛けて振り下ろす!
ズコゴーンッ! スゴゴーンッ!
なんだか魔法の力が宿っているらしく、攻撃はホーミングして、2個の鉄球はスライムを次々と叩き潰した!
さすが大魔神の陰嚢玉だ!
「レベルアップ…はしないか。スライムだしな」
俺は死んだスライムから、金をもぎ取る。倒すと金になるらしい。1円玉が3枚だ。
「どうだ。お前たちは不要だと解った。ここでさらばだ」
「ま、待て! 犬次郎! ワシは情報を持っとる!」
「わ、ワタシもよ! 次の町の情報よ!」
「て、テメ! 卑怯じゃぞ! それはワシが先に仕入れた情報じゃー!」
「……どうしても付いて来たいのか?」
「そうじゃ!」「ええ!」
「なら荷物持ちとしてだ! いいな!」
平伏するふたり。もはやプライドも失ってしまったようだった。
──
一方その頃……
「こんな世界に来たのかい! 世界異動ごときでアタスから逃れられると思うたら大間違いだよ!」
バチバチと転移エネルギーの余波による干渉を受けつつ、ババアが次元の穴を潜り出る。
「絶対に見つけ出してやるぅッッッ! 必ずだッッッ!」