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犬次郎編05 呪われたホルスター

  1週間後、俺たちは町の入口に集まる。


「何があったかは聞かん。聞く価値がない」


 猿三郎は酔っ払っている。雉四郎はなんだかやつれている。


 武器を揃えると話したはずだ。目的外のことをして散財したクズとカスに同情の余地などない。


「まあ、そんなこと言うけんな。ワシはパワーアップしたんじゃけんのぉ!」


 前後左右に揺れまくってる猿三郎。単なる酔っ払いにしか見えない。


「雉四郎は?」


「あ、アタシも…色々経験積んだから。はは」


 なんで少しヤケになっている感じなんだ?


「なら戦えるのか? 試してみるとしよう。ちょうどあそこにスライムが3匹いる。この世界では最弱の魔物だ。1匹ずつ倒してみるんだ」


「へ! スライムゥ? お茶の子さいさいよ! よし、まずわワシからいくけんのぉ…グビッ!」


 まだ酒瓶を持ってたのか。呑みながら千鳥足でスライムへと向かう。


「ワシの獲得したモンクスキル! 酔えば酔う…ウオボェールロロロッ!!!」


 スライムの前で吐いたか。あれだけ酔っ払っていたらそうだろう。


 そして憤ったスライムたちが猿三郎をボッコボコに殴っている!


「た、助けてくれぇー!!」


 スライムから引き剥がし、血まみれの猿三郎を救出する。


「死ぬぅー! 死んでしまうぅ!!」


「【キュア】」


 雉四郎が何か使った。猿三郎の身体がみるみるうちに治っていく。


「き、雉四郎…まさか、これは魔法ってやつじゃ? 回復魔法が使えるようになったのけ?」


「ええ。仕事上、どうしても必要で…えたのを元気に回復させ…オエップ!」


 雉四郎が口元に手を当てて吐き気を堪える。


「回復魔法の代償なのか?」


「え? え、ええ…まあ、そんなところね。詳しくは聞かないでちょうだい」


 そうか。武器を手に入れなかったのはともかく、回復魔法を会得するのに苦労したのなら何も言うまい。


「…残念だが猿三郎。お前は戦力外だ」


「ま、待ってくれぃ! まだだ! まだワシはやれるわい!」


 怪我と一緒に、酔っていたのも治療されたらしい猿三郎が立ち上がる。


「見ててくれぃ! ワシの真骨頂は遠距離攻撃にあるんじゃい! これぞ奥義【疾風怒濤波】!」


 おお! 猿三郎の拳から螺旋状の風が飛び出して、スライムの表面が激しく揺れている!


 ……揺れている?


「…これはダメージを与えているのか?」


「は!?」


 ちょっとした強風を出してるだけじゃないか。


「し、しまった! スカートめくりするために威力を調整し過ぎて“弱”でしか出せんくなっていたんじゃ!」


 再び猿三郎はスライムたちに囲まれボッコボコに殴られる!


「た、助けてくれぇー!!」


「何なんだお前は」


 再び、猿三郎を救い出す。スライムに倒されるなんてどんだけなんだ。


「雉四郎。お前は…」


「はい! アタシの色気で誘惑してみせます!」


 聞くんじゃなかった。時間の無駄だった。


「きっと上手くいくわ! お店に来た人は皆、虜にしてやったもん!」


「…そりゃ金払って行く店なら、入った時点ですでに虜になっとるじゃろがい。そういう目的があるんじゃけんのぉ」


「は!? ウ、ウルサーイ! やってみなきゃ解かんないわよ!」


 乳の谷間を寄せて、スライムへと向って雉四郎は走る!


「き、キャアアアッ! た、助けてぇ! アタシの魅力が通じないわぁ!」


 そりゃそうだろう。相手は魔物だ。


 同じようにして雉四郎を救い出す。


「最初から期待はしてなかったが、やはりお前らはクズカスだ。まごうことなきクズカスだ。スライムすらまともに倒せない。俺がやるのを見てろ!」


「犬次郎よ! たいそうなこと言うとるが、今のオメェの格好はだいぶやべぇーぞ!」


「なにがだ?」


「なにがって…気づいてないの?」


 ふたりは揃って俺の股間を見やる。


「武器だ。モーニングスターだ」


「いや、武器なのはいいんじゃけん、なぜにそんなところに装備しとるんじゃ? そんな股の間に挟んどったら…もう狙ってやっとるとしか…」


「店主のサービスでくれたホルスターが呪われていたらしい。外せないのだ。不便はないんでいいがな」


 手に武器を持たず、ホルスターに差すだけで持ち歩けるのはいい。鉄球同士がガンガン当たってうるさいのも困ったものだが。


「ホントにナニにしか見え…オエッ!」


「人の武器を見て吐くな! 見せてやる! この伝説の武器の力を!」


 俺は股の間から棒を引き抜く! 垂れ下がっていた刺鉄球が喜んだかのように跳ね上がった!


「うおりゃぁッ!」


 俺は鉄球をブン回す!


 そしてスライム目掛けて振り下ろす!


 ズコゴーンッ! スゴゴーンッ!


 なんだか魔法の力が宿っているらしく、攻撃はホーミングして、2個の鉄球はスライムを次々と叩き潰した!


 さすが大魔神の陰嚢玉だ!


「レベルアップ…はしないか。スライムだしな」


 俺は死んだスライムから、金をもぎ取る。倒すと金になるらしい。1円玉が3枚だ。


「どうだ。お前たちは不要だと解った。ここでさらばだ」


「ま、待て! 犬次郎! ワシは情報を持っとる!」


「わ、ワタシもよ! 次の町の情報よ!」


「て、テメ! 卑怯じゃぞ! それはワシが先に仕入れた情報じゃー!」


「……どうしても付いて来たいのか?」


「そうじゃ!」「ええ!」


「なら荷物持ちとしてだ! いいな!」


 平伏するふたり。もはやプライドも失ってしまったようだった。




──




 一方その頃……



「こんな世界に来たのかい! 世界異動ごときでアタスから逃れられると思うたら大間違いだよ!」


 バチバチと転移エネルギーの余波による干渉を受けつつ、ババアが次元の穴を潜り出る。


「絶対に見つけ出してやるぅッッッ! 必ずだッッッ!」

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