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犬次郎編04 大魔神の陰嚢玉

 ゴッデムのゴッドパワーによって俺たちには衣服が与えられた。


 胸ポケットに、ゴッデムが中指を立てたシルエット+金文字で本名の刺繍…が、付いている以外は完璧だ。


「人間というのはこんな窮屈なものを着てよく平気だ…。それにこの姿で生きるには金が必要だ」


「アタシ知ってるわ! 鬼1匹につき3,000円貰えるんだよね! 市役所で!」


「イノシシかーい! と、ツッコミを入れんといかんわーい!」


 何が面白いのかクズとカスが笑い合う。


「ゴッデムから説明書をもらった。それによると魔物を倒すと金が手に入るらしい」


「その魔物って、まさか鬼みたいな強さってわけじゃ…鬼だけに」


「いや、この世界の魔物はピンキリらしい。弱い魔物とかもいるようだ」


「所持金はゴッデムから借りた金が…各5,000円ある。それで装備等を揃えるとしよう」


「おう!」「はーい!」




──




『雉四郎の場合』



「えー、困っちゃう〜♡」


「いや、キミはカワイイからイケるって!」


「そうかしら? でも確かに今少しお金に困ってるし〜」


「月100万も目じゃないよ〜! ペロンと足だすだけで稼いで、スポンサーの目に留まればアイドルデビューも夢じゃない!」


「全裸になれとかはイヤよ〜♡」


「大丈夫! 大丈夫! おさわり厳禁のお店だから! ささ、こっちで契約書にサインを…」




『猿三郎の場合』



「ほおおお! 【疾風怒濤波】!」


「う、うおおお! スゲーのじゃ! 風の力で岩に穴が空いたわーい!」


「ふむ。モンクとしての修行を積めばこんなことも可能だぞ」


「さ、サイコーじゃい! 武器に金かけんで正解じゃ! どうせ買い直さねばならんしのぅ! 入門料にしたワシはクレバーじゃー!」


「さあ、やってみろ。猿三郎よ」


「おう! 【疾風怒濤波】!」


「違う!」


「へ?」


「何を見ておったか! 岩に向けて撃ってどないする!?」


「し、しかし、師匠は…」


「あっちだ。あっちの短いスカートのオナゴが集まっとるところに“間違えて”撃つのである!」


「は! そ、そうかぁ!!」




──




 俺は武器屋へと来ていた。


 最初の村なんだからそこまで凄い武器は期待できないだろう。

 希望としては、骨を尖らしたボーンダガーがいい。または骨を連結させたボーンヌンチャクでもいい。

 いや、ペディ○リィーチャムの詰め合わせの方が……いかん。ヨダレが出てきてしまう。


「武器が欲しい! 予算はこの紙切れ1枚だ!」


 俺に貨幣の価値はよく解らん。なんで札に人間の女の絵が描かれてるかもさっぱりだ。


 だが、こいつと何かが交換できるのは知っていた。きっとこの女が好きな奴がいるんだろう。


「いらっしゃーい。へ、へへ。兄さんはせっかちだねぇ」


 出てきた店主はヨボヨボのジジイだ。今にも死にそうだ。


「ムムムッ!?」


 ジジイは俺を見るなり、いきなり顔を近づける…なぜか股間にだ。


 確かに我々は相手の情報を知るために尻の側にある分泌腺をクンカクンカする。


 しかし、人間はそんなことをしないハズだが…いや、塵太郎はやってたか。そういや村娘にいきなりそんなことをして殴られてたな。


「な、なんと見事な睾丸のバランス! 左右がまったくの均等じゃと!? あ、ありえん! 人間じゃないな、お主はァァァ!」


「よく解ったな。元柴犬だ」


「マジか! イケメンなのに柴犬なのか!? 柴犬だからイケメンなのか!?」


「…店を間違えたようだ。では」


「待てぃ! 武器じゃな! 武器なら売ってやるわい!」


 良かった。気は狂っているようだが商売はできるらしい。


「で、何が欲しい!?」


「まずは剣か刀を見せてもらえるか」


 塵太郎が使ってたな。物取りに押入る時や、夜這いをかけた女を黙らせるのに携帯性が抜群らしい。


「ツルギィ〜? カタナァ〜?」


「なんでそんなに露骨に嫌そうな顔をしてるんだ? ほら、そこのカウンターの奥にある奴を見せてくれ」


「こんなもんはぁ〜」


 店主は剣を持ち上げ…


「こうじゃあッ!」


 ボキィ! 剣の側面に太腿ふとももを押し当てて圧し曲げる!


「何をする!? 売り物じゃないのか?」


「売り物じゃ! じゃが、ワシは剣や刀が大嫌いなんじゃー! こんなもの! こんなもの!」


 陳列棚にあった武器を地面に投げ捨てて踏みつけにする。


 やはりイカれている。商売をやらせてはいけない老害だ。


「やはり失礼する。とても武器を売る店には見えん」


「売る! 売ってやるとも!」


「売るはずの物を全部ダメにしてしまったではないか!」


「ある! ちゃんと、オメェさんのための武器はここにある!」


 店主はやたら豪華な箱をカウンターに置く。かなり大きい。両手幅くらいはある。


「開けてみぃ! オメェさんの睾丸を見てピーンとキタ! これ以外の武器を売るつもりはねぇ!」


 俺は箱を開ける。刺の付いた鉄球が2個、それに鎖が繋がっていて、1本の太い握り棒と連結されていた。


 これはアレだな。何かに似ている。配置が…アレに似ている。


「なんだこれは?」


「モーニングスターじゃ! 人類最強の武器! 剣や刀なんて目じゃねぇ! コイツがあれば巨人だって魔王だって泣いて逃げ出す! 名付けて“大魔神の陰嚢玉ふぐりだま”じゃあ!!」


 俺は箱を閉める。


「どうやら本当に、この店に来たのは何かの間違いだったようだ。さらばだ」


「待て! 待ってくれ! 何が不満じゃ! ワシのどこがマズイ! 直す! 直すから行かんでくれぃ!」


「ええい! 離せ! もう手遅れだ!」


「使ってもいないのにダメとか決めつけるな! 使ってダメならワシも諦める! オメェさんの最高バランスの睾丸でなきゃ使えん、伝説の武器じゃ! まずは使ってみてくれぃ!」


「……伝説の武器」

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