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第三十三話 戦友の誓い、終わりなき道

近江国、観音寺城跡。

かつて六角氏の誇りであった堅城は、今や、燃え尽きた残骸と化した天守閣が、空虚にそびえ立つのみであった。

夕暮れ時、赤く染まった空が、戦の跡地を、哀しげに照らしていた。


宗則は、自らの部屋で、一人静かに過ごしていた。

窓の外には、燃え尽きた城の残骸と、戦の傷跡が生々しい風景が広がっている。

しかし、宗則の心は、それらの光景よりも、深い闇に覆われていた。


(多くの兵が、私の策によって、命を落とした…)


宗則は、自らの罪の重さに、押しつぶされそうになった。

彼は、掌に握りしめた「試練の巻物」を見つめた。

巻物からは、かすかな温かさを感じ、宗則は、その温かさに、わずかな慰めを見出そうとしていた。


その時、襖が開き、隼人が部屋に入ってきた。


「宗則殿、お邪魔してもよろしいでしょうか?」


「ああ、隼人殿、どうぞ」


宗則は、静かに答えた。


隼人は、宗則の向かいに座ると、彼に、酒を差し出した。


「宗則殿、お見事でした! おかげで、わしらは、六角を打ち破ることができた!」


隼人の言葉は、力強く、そして、どこか嬉しそうだった。


「いえ、勝家様の的確な指揮あってこその勝利です」


宗則は、頭を下げた。

彼は、隼人の言葉に、素直に喜ぶことができなかった。

彼の心は、まだ、戦の犠牲となった者たちへの、罪悪感で、重かった。


「それに、隼人殿の活躍も大きかった」


宗則は、隼人に視線を向けた。


「隼人殿の槍さばき、見事でした。あれだけ速く敵陣に突入できるとは思っておりませんでした」


「宗則殿、それは、言い過ぎです」


隼人は、照れくさそうに笑った。


「俺は、ただ、突っ込んだだけだ。宗則殿の策と、勝家様の指揮があったからこそ、勝てたのだ」


「いや、隼人殿。お前の武勇は、織田軍の士気を大いに高めた。それは紛れもない事実だ」


宗則は、真剣な眼差しで、隼人に言った。


「それに、お前のような強い武士が傍にいてくれることは、心強い」


「宗則殿…」


隼人は、宗則の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。

宗則は、少し間を置き、静かに言った。


「だが、俺が望んでるのは、もっと上の評価だ」


「もっと上の評価…?」


隼人は、宗則の言葉に、首を傾げた。


「俺は、信長様の天下統一を陰で支える、真の陰陽師になりたい。そして、この乱世を終わらせる力を手に入れたい」


宗則は、遠くを見つめるような目で、静かに語った。

彼の言葉には、強い決意が込められていた。


隼人は、宗則の言葉に、驚きながらも、彼の決意を理解した。


「宗則殿ならきっとできます!」


隼人は、宗則の肩を叩き、力強く言った。


その時、二人の前に、信長が現れた。


「宗則、隼人、よくやってくれた」


信長は、二人に、労いの言葉をかけた。

彼の声は、静かだったが、力強かった。


「はっ!」


宗則と隼人は、信長に、深く頭を下げた。


「わしは、お前たちの活躍を期待しておるぞ」


信長の言葉は、静かだったが、重みがあった。

宗則は、信長の鋭い視線に、自らの使命の重さを、改めて実感した。


「わしは、近いうちに、上洛する。そして、この乱世を終わらせる」


信長は、力強く宣言した。

その言葉には、揺るぎない決意が込められていた。


「次は、越前の朝倉義景を討つ!」


信長の言葉に、宗則と隼人は、身が引き締まる思いがした。

新たな戦いが、始まろうとしていた。


「宗則、お前は、わしの天下統一に、必ず必要な存在となるであろう」


信長は、宗則の肩を叩き、そう言うと、広間を出て行った。


宗則は、信長の言葉に、自らの運命の大きさを、改めて感じ取った。


(信長様、私は、必ず、あなたの期待に応えてみせます)


宗則は、心の中で、誓った。


数週間後、宗則は、自室で、机に向かっていた。

彼は、信長に提出する、越前攻略の戦略案を練っていた。


その時、綾瀬が、部屋に入ってきた。


「宗則様、失礼いたします」


綾瀬は、宗則に、一通の手紙を手渡した。


「春蘭様からの手紙でございます」


宗則は、手紙を受け取ると、すぐに開封した。


「宗則様、お元気でお過ごしでしょうか? 都では、様々なことが起こっています。蓮様は、信長様との同盟を、さらに強固なものにしようと、動いておられます。しかし、私は、蓮様の真意が分からず、不安です。そして、二条尹房殿の動きも怪しい。彼らは、何か大きな陰謀を企んでいるような気がしてなりません。どうか、お気をつけください…」


春蘭の言葉が、宗則の心に、重くのしかかった。


(春蘭様…)


宗則は、春蘭の不安を、感じ取ることができた。

彼女の言葉の端々に、蓮への不信感と、宗則への心配が滲んでいた。


(私は、都へ戻らなければならない…)


宗則は、決意した。

しかし、信長様の上洛を目前に控えた今、尾張を離れることは、許されない。


(私は、どうすれば…?)


宗則は、自らの使命と、春蘭への想いの間で、激しく葛藤した。


その時、彼の耳に、かすかに、八咫烏の声が聞こえた気がした。


(迷うな、宗則。お前の行くべき道は一つではない)


宗則は、深呼吸をし、心を落ち着かせた。


(私は、信長様の天下統一を支援し、そして、春蘭様を守る。その両方…を…成し遂げなければ…ならない…!)


宗則は、静かに、しかし力強く、自らの心に言い聞かせた。


(続く)

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