安倍晴明の霊との出会い。
白雲斎の言葉。
そして、自らの背中に刻まれた、八咫烏の紋章。
宗則は、自らの運命と、秘められた力に、戸惑いを感じていた。
(…私は…一体…何者なのだろうか…?)
その問いは、まるで、深い霧のように、彼の心を包み込み、出口の見えない迷宮へと誘い込む。
日々の勤行、書物を読み解く時間、白雲斎からの教え…。
宗則は、陰陽師としての修行に励みながらも、心の奥底に、拭い切れない不安を抱えていた。
ある日、宗則は、寺の境内で、落ち葉を集めていた。
秋風が、色づいた木の葉を舞い散らし、境内は、静寂の中に、どこか寂しげな美しさに満ちていた。
その時、宗則は、足元に、黒い羽根が舞い落ちるのに気づいた。
それは、カラスの羽根よりも大きく、光沢のある、美しい羽根だった。
(…八咫烏…?)
宗則は、息を呑んだ。
八咫烏は、神聖な鳥として、古来より、人々から崇められてきた。
そして、陰陽道においても、重要な役割を持つ存在だった。
宗則は、その羽根を拾い上げ、手のひらに乗せた。
羽根は、温かく、柔らかく、そして、不思議な力を感じさせた。
その時、宗則の背中のあざが、熱を持つように疼き始めた。
それは、まるで、八咫烏の羽根と共鳴しているかのようだった。
(…これは…八咫烏の…導き…?)
宗則は、自らの能力を、まだ信じることができなかった。
しかし、彼は、その力に抗うことができず、羽根が舞い降りてきた方角へ、森の奥へと足を踏み入れた。
木々の間を縫うように進むにつれて、宗則は、奇妙な気配を感じ始めた。
生暖かい息吹が、彼の首筋を撫でるように吹き抜け、獣の匂いが、鼻腔を刺激した。
それは、彼を誘うような、それでいて、どこか危険な香りを含んでいた。
(なぜ…俺は…こんなにも…不安なんだ…?)
宗則は、立ち止まり、自問自答した。
しかし、彼の足は、すでに、森の奥へと向かっていた。
(…この先に…何があるのか…怖い…でも…行くしかないんだ…)
宗則は、自らの運命に、身を委ねるように、森の奥へと進み続けた。
やがて、宗則は、小さな空き地に出た。
そこに、古びた祠が、ひっそりと佇んでいた。
祠は、苔むした石で造られており、長い年月を感じさせる。
屋根は、ところどころ崩れ落ち、壁には、蔦が絡みついている。
入り口には、朽ち果てた鳥居が立っており、その上には、八咫烏の紋章が、薄く刻まれていた。
宗則は、祠の前に立ち、深呼吸をした。
ひんやりとした空気が、彼の肺を満たし、土の湿った匂いと、線香の香りが、鼻腔をくすぐった。
静寂の中、木々の葉が擦れ合う音が、かすかに聞こえてくる。
(…この祠は…一体…?)
宗則は、祠に、何か、不思議な力を感じた。
彼が祠に近づくと、背中のあざが、熱を持つように疼き始めた。
宗則は、恐る恐る、祠の中へと足を踏み入れた。
祠の中は、薄暗く、静寂に包まれていた。
中央には、石で造られた祭壇があり、その上には、一冊の古びた書物が置かれていた。
宗則は、書物に近づき、表紙を見た。
そこには、何も書かれていなかった。
しかし、宗則は、その書物から、強い力を感じた。
それは、彼を惹きつける、抗いがたい力だった。
(…この書物は…一体…?)
宗則は、書物に手を伸ばした。
その瞬間、彼の背中のあざが、激しく痛み出した。
それは、まるで、焼けるような、刺すような、耐え難い痛みだった。
「うっ…!」
宗則は、思わず、その場にしゃがみ込んだ。
同時に、書物から、かすかな声が聞こえてきた。
「…汝…力…求める…か…?」
その声は、古びて、弱々しかったが、宗則の心に、直接響いてくるようだった。
それは、まるで、長い年月を経て、封印から解き放たれた、古の魂の声のようだった。
(…誰…?)
宗則は、恐怖に震えながら、ゆっくりと顔を上げた。
彼の視線の先には、書物ではなく、闇の中から浮かび上がる、巨大な影があった。
その影は、ゆっくりと、宗則に近づいてくる。
果たして、宗則の前に現れた影の正体とは…!?
(続く)