二人で切ったケーキのお味は、甘さ控えめだった。
何しろ砂糖はこの世界では高級品だし、甘いのがあまり得意ではない他の人も食べられるように、作ってもらったから。
まあ、初夜もあるのであまり食べられなかったけど、満足だった。
今夜に備えて宴の後には個室のお風呂でメイド達に磨き上げられた。白い浴槽には花弁も浮いて華やかだった。
とても緊張する。
そこで生地の薄い寝巻きを着せられた。
白くてひらひらしてて、薄い。
私は隣りにあるジュリウス様の寝室に通された。隣室の扉を開ければそこはもう彼の寝室だ。
妻になるので、隣の部屋をいただいたのだ。
寝室に彼はまだいなかった。
どうやら入浴中で、少しほっとした。
まだ……心の準備が出来ていない。
心臓がどくどくと早鐘をうっている。
これから初体験だと思うと、落ち着かないのでテーブルの上にある物を利用することにした。
ワイングラス二つとワインが置いてある。
「大丈夫……大丈夫…」自分で言い聞かせながら、早速ワインを開けて飲んだ。
こちらの世界だと、私はもう成人年齢になってるから、問題はない。
この結婚が決まるまで、私は度々夢を見た。
時が巻き戻り、王妃の刺客に殺される夢。
ただ、幸せに生きていたかっただけなのに。
幸せどころか、人生の半分も生きる事すら許されず殺された。
私は皇帝から愛されても、贅沢や権力を望んだ訳ではなかった。
皇帝からの寵愛など、一度も望んだことはなかった。
今私は、公爵様の妻に望んでなろうとして、ここまでやってきた。
ワインで少し思考が曖昧になってきたところで、ジュリウス様がバスローブ姿で現れた。髪がまだ少し濡れている。
「誕生日おめでとう」
とても良い声で言われて、思考が一瞬止まる。
彼はベッドサイドにある赤いビロードの布を掴み、それを取り払った。下にはプレゼントが隠されていた。なにかこんもりした固まりがあると思っていたら……。
赤い布の下には、新しいドレスに、アクセサリーが沢山隠されていた。
「あ、ありがとうございます、こんなに沢山……」
ようやく御礼が口から出てくれた。
「そなたは放っておくと、ろくに自分の分を買わないからな」
「……私は温室だけでもありがたく、嬉しかったので」
気を使わせてしまった。
「それと、乳母に聞いたが、誕生日には願い事を聞くものだそうだ、願いはあるか?」
……え? こんなにも沢山の贈り物があるのにまだ望んでも……いいのですか?
「……愛さなくてもいいので、私を他の男に渡さないで、ずっとこの地に置いてください」
私にとっては、それが何よりの贈り物です。
「ふっ、欲がないな」
……どうして? 笑っている場合ですか?
「皇帝からも皇后からも守ってほしいと言ってるので大変ですよ?」
「……そうか」
彼の金色の瞳が、揺らぐこともなく、笑っていた。まるで生まれながらの王者のように。
彼の考えが……全く読めない。なぜか今、初めて見る人のような顔をしている。
「そ、そうです……よ」
「それでわざわざ刻印を見せびらかすようなドレスにしたのか」
「そうです」
同じ説明を色んな人に何度もしてる気がする。
「そなたが一目で私のものだと分かるように」
「はい」
彼はワイングラスに自分の分を注ぐと、それを一気に飲み干した。
ゴクリと喉がなり、アルコールを嚥下する姿がとても絵になるし、セクシーだった。
ぼんやり見惚れていると、彼はワイングラスをテーブルに戻すと、私をお姫様だっこで抱き上げて、ベッドに連れて行った。
真新しいシーツの上に私を横たえ、太ももの竜の刻印に手で触れた。
その後に、その刻印にキスを落とした。
刻印に何故か疼くような感覚があった。
体が勝手に震えだした。
カダヴィードの歴代の公爵婦人は早死にする。その噂が怖く無い訳ではない。
でも皇后とその手先に殺されるのだけは嫌だった。あれは理不尽すぎた。
目をとじて、胸の前で手を組んで、祈る。
薬指には、セイクリッドセブンの指輪とシルバーの結婚指輪が重ね着けで嵌められている。
この初夜が無事に済みますように……。
私の瞼に彼の唇がそっと触れた。
「震えているな……」
「大丈夫です……気になさらないでください。灯りを消して……早く私をあなたのものにしてください、完全に……」
「……」
私の祈りのような願いを聞き届けてくれたのか、彼がパチンと指を鳴らすと、魔法の燭台の灯りがいくつか消えた。
流石に全部消すと、真っ暗になりすぎるから、ベッドサイドの1つだけは残してついているみたい。
彼が私に覆い被さる。
寝台がギシリと音を鳴らし、夜が濃くなり、さらに更けていった……。
◆ ◆ ◆
――――そして、私は朝を迎えた。
無事に生還した。旦那様のものが大きくて痛かったけど、生きてる……。
私は結婚指輪とセイクリッドセブンの指輪を重ねつけしている薬指に触れながら、神に感謝した。