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第22話 サミュエルお兄様の来訪

 ――――そして日々は過ぎ行き、世間は初夏。

 公爵領も遅い春が来ていて、活気づいてきた。


 私はバルコニーから新鮮な空気を吸込み、春めいた陽射しを浴びて日光浴をした。


 庭を眺めていると緑なす木々の梢には、小鳥も遊びに来ている。かわいい……。


 最近は温泉の温活のおかげか、私の体調もだいぶいいし、温泉の温度を利用した温室の企画もちゃんと進行していて、雪解けと共に設計士などが来た。


 更に依頼したスリット入りウェディングドレスの仮縫いの日まで来た。


 店の人間が公爵邸まで来てくれて、合わせてくれる。


 美しいレースで飾られたドレスとなっていた。

 貴族間で目立ちたくないから外部からの参列客もいないんだけどね!

 でも家門の騎士とかは参列してくれるみたい。

 身内だからそこはいい。


 私はジュリウス様の留守中にならず者を撃退した為か、家門の騎士達もかなり好意的に接してくれる者が増えた。


 こんな仮面やらレースやらで顔を隠した不審者なのに、優しい人が多いのはとてもありがたい。



 兄が持参金の事もあるので、結婚式より、前乗りで来てくれる事になった。

 家門を継ぐ兄はアカデミーでも忙しくしてるだろうに、申し訳ないないと思いつつ、ありがたい。


 でもここまで順調だと、後が少し怖い。反動が。


 一抹の不安を残しつつも、ジュリウス様は色々お忙しい様子だったので、ついにお部屋デート以外は婚約者らしいお外でのデートなどはせぬまま、結婚式が数日後となった時、兄が公爵家に到着した。



「サミュエルお兄様、遠路はるばるよく来てくださいました」

「久しぶりだな、セシー、ところでなんだその目隠しは」



 兄のサミュエルには、父に説明したような詳しいことは話してないのだ。内容は重大にしてデリケートだから。



「これは魔除けなのです。結婚式後には外す予定です」

「魔除け? ここ、何かでるのか?」



 思わずといった風情で兄は焦って公爵邸内を周囲をキョロキョロ見渡した。

 やめて! 公爵家に失礼だから!



「やっかいなのが出るのは主に帝国の城あたりからです。私がしっかりとジュリウス様のものになったら、庇護下に入りますので、そこからは多少は顔も出して行くかもしれません……」 



 こんな説明でどうにかなるだろうか?



「多少は?」



 兄は怪訝そうな顔をして首を傾げた。



「お兄様は私がわざと不細工なメイクしてても、この哀れな妹を見捨てないでいただけますか?」


「は? なんでわざわざ不細工メイクなんかを……?」

「怖い人に目をつけられたくなくて……理由があるのです」



 私は薬指にはめたお守りであり、婚約指輪のセイクリッドセブンの指輪をそっと撫でた。



「あー、しかし確かに、セシーが社交界デビューでもしたら一気に社交界の花になってしまって、ライバル令嬢達がハンカチを噛むことになりかねないなぁ。成る程なぁ、女の嫉妬は恐ろしいからな」



 兄が単純脳で助かった。兄は私の美しくかわいらしく可憐な素顔を知っているので普通に納得した。しかしまさしく美貌が災いを招くのだから、そう大きく間違ってもいない。




「さぁ、お兄様も移動でお疲れでしょうから、貴賓室へ」



 貴賓室への部屋への案内は執事がしてくれる。

すぐ側で控えている。



「ああ、しかし公爵様に挨拶がしたいのだが」


「ジュリウス様はまたお仕事で出かけられていますけど、夜には戻って来られると聞いています」

「夜か、分かった」



 兄は素直に頷いた。



「お兄様、ここ、温泉もあるので先に入浴するのもいいですよ」

「オンセン?」



 こちらには温泉という名が通ってないみたいである。



「大きい天然のお風呂ですよ、湯が湧き出ている泉があるのです」

「すると湯が贅沢に使えるということか!」

「そうです」



 執事が兄を貴賓室へ案内した。

 後は温泉を勧めておいたから、そこで移動疲れを癒してくれたらいいと思う。



 私はその隙に持参金の目録と物資の確認をしておくことにする。

 じき、正式に公爵家の女主人になるのだし、それっぽい事もしておくのよ。











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