目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第19話 黒きもの

 私の結婚式の参列者だけど、お父様は領地を離れられないから、代理で兄が来てくれるらしい。

 しかも持参金も持って来る。助かる。


 ちなみに母は療養中で、何も期待していない。


 よく考えたら、母にも健康ハーブとか送ってあげた方がいいのでは?

 手紙では結婚式には参列できないけど、幸せを願ってるとか言う事は書いていてくれたし。


 まぁね! 世間的に竜血公爵様は恐れられているし! 多分来るの怖いんだよね!? 新婦の身内になると言っても、まず私の選んだ相手が極端だから仕方ない! 



 身内からの手紙をまとめて木箱に入れた。

 華麗な植物モチーフの彫り物のある箱だ。


 私は手紙を入れた木箱を文机に備え付けてある棚に置いた。

 前世、日本人だった時なら、かわいいクッキー缶とかに入れてたね、大事な手紙の類は。


 そして私は母に健康に良いハーブを選んで、送ることにした。


 ◆ ◆ ◆


 謎の子爵狼藉事件から、数日経った。

 子爵とその私兵達は私の希望で、屋敷の地下牢ではなく、外部の牢屋に入れて貰ってる。


 まかり間違って屋敷内の牢屋の中で死んだら、私の過ごす屋敷が事故物件になって怖キモいからだ。

 今度また、狼藉者が来たら塩も撒いてやろうかと、懐に塩も隠し持つ事にした。



「そろそろ旦那様がお帰りになるそうです」

「まあ! それでは出迎えの準備をするわ!」



 朝食時に家令からジュリウス様の帰還報告を聞いた。


 お見送りが出来なかったので、せめて出迎えを! と、私はなるべく早く食事を終わらせ、珍しくめかしこんだ。


 相変わらず、レースの目隠しもするけど、ブラウスとスカートではなく、ちゃんとしたドレスを着るし、唇にはさくらんぼみたいな色の紅をつけた。



 しばし、ソワソワしながら屋敷内で待っていると、遠くから地鳴りのような音が聴こえた。


 いや、これは地震ではなく、騎馬の集団が近づいて来ているんだと思う。

 私は部屋から出て、正面玄関へ向かった。



 騎馬から降りて、黒いマントを羽織ってこちらに戻って来る公爵様の姿が見えた。



 しかし、なにか様子がおかしい。黒いオーラが、ジュリウス様の周りに、つつみ込むように存在した。鳥肌が立つ。



 私は胸元に仕込んでいた巾着袋を取りだした。 それに入れていた塩を掴み、コチラに向って来るジュリウス様に静かに歩み寄り、


「目を閉じてください!!」


 私はそう叫んでから、肩あたりを狙って思い切り塩を投げつけるように撒いた。


「!?」

「令嬢!? 何を!?」



 同じく出迎え来た家令や騎士が驚くのも無理もない。


「伯爵令嬢? 帰還したとたんにご挨拶だな、これは……塩か?」


 ジュリウス様に睨まれた。


「ご無礼をお許しください! ですがもしや処刑場にでも行かれましたか!?」


「処刑場には行ってない。

後で君が捕らえさせた不審な貴族のいる牢屋には行くつもりだが」

「では、お墓とか、人が沢山死んだ土地とかに行かれましたか?」


「魔物は沢山狩ったが墓は別に」  



 あ、黒いモヤがだいぶ減ってる! 塩が効いた!? 人間の悪霊ではないなら、もしかして魔物の呪い?



「ジュリウス様! 今ので肩が多少軽くなったりはしませんか!?」

「ん? そういえば、確かに少し……?」


 ジュリウス様は自らの肩に手を当てた。



「神官を呼ぶか聖水を使ってください! それかさしあたって塩風呂にでも入ってください! 何かよからぬものを拾ってきているようです!」

「なに? よからぬもの?」


「きゃあ!!」



 一人のメイドがジュリウス様を見て悲鳴をあげた。


「もしかしてあなたもあの黒いモヤみたいなものが見えるの!?」

「は、はい」 



 メイドは見えているようで、腰を抜かして地面にへたりこんだ。



 霊感が強いものだけ見えるのかしら?

というか、私に霊感があったのかしら? 一度死に戻りとかしたせい?



「本当に何かあるなら大変なので、とりあえず至急神官を呼びましよう」


 ジュリウス様の側近らしき騎士がそう言ってくれた。


「先に風呂に行く……離れでいいのだな?」

「誰かお風呂に新しい塩をお持ちして!」

「はい!! 厨房へ行って来ます!」



 執事が厨房へ走った。



「あ、宝物庫の聖水は?」

「も、もうありません……」



 青褪めたメイドが答えた。



「あーー! いつぞや私が無意味に飲んだりしたから!」



 ハトのポーズのヨガのせいで悪魔憑きだと思われて!



 ひとまずジュリウス様はお風呂へ向かった。

 塩風呂がなんとかしてくれるか、神官の到着を待とう。


 ややして、ジュリウス様が風呂から戻って来られた。

 神官も側にいて、ジュリウス様を囲う黒いモヤは消え去っていたので、私は内心で胸を撫で下ろした。



「あ、黒いモヤが消えてますね」


「ご令嬢、よくお気づきになられましたね、悪い気は浄化致しました」

「魔物のせいだったんですか?」


「はい、おそらく閣下が誰よりも多く、強い魔物を狩ってしまった弊害でしょうな。でも浄化は終わりましたので、ご安心ください」


「ジュリウス様、もしや、蛇とか殺しましたか?」

「ああ、そういえば巨大な蛇の魔物も殺したな」



「あぁ……原因はそれかもしれませんね」

「令嬢はそういうものが見えるのか?」 

「ここに来て初めて見ました」


「そうか、とにかくどうやらまたそなたのおかげで助かったようだし、後で褒美をとらす」

「それなら、今ください」


「何?」

「セシーリアと、名前を呼んでくださいませんか?」

「そんな事が褒美になるのか?」

「はい」

「……セシーリア」



 低く素敵な声で、ジュリウス様が私の名前を呼んでくださった



「はい! お帰りなさいませ! ジュリウス様!」



 私は目隠し用のレースの飾りのせいで、口元しか見えないだろうけど、今度は笑顔でお帰りなさいを伝えた。















この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?