〜 ジュリウス視点 〜
「魔法の伝書鳥が……」
その夜は魔物討伐の遠征先のキャンプ地にて、食事休憩をとっていた。
不意に魔法の伝書鳥が月明かりの下、ふわりと現れた。
これが来るなら火急の要件だろう。
公爵領にて何かがあったと。
『話せ』
この魔法の鳥は話が出来る。送り主の声が届くのだ。
声は館の警護の為に置いて来た魔法使いのものだった。
『公爵様の留守中、貴族を名乗る男が私兵を連れて訪ね来ました。なんでも旅の途中に野盗に襲われ、屋敷に泊めて欲しいとのこと。しかし、私兵の様子は正規の騎士に見えなかった上に先ぶれもなく、名前も問われるまで名乗らず怪しい。ゆえに門番が断りを入れましたが、がんとして譲らず……』
説明が長いな。一番大事なことを聞こう。
「こちらの被害は?」
『被害は伯爵令嬢の、セシーリア様のおかけででありません』
「伯爵令嬢のおかげだと?」
『伯爵令嬢が名を言うよう問い詰めると、ようやくブルドワーズ子爵と名乗りましたが、令嬢にも聞き覚えはなかったようです。しかし相手が貴族を名乗る以上、下手な対応ができず困っておりましたが、公爵様の留守を守るのは婚約者の務めだと毅然と立ち向かっておりました』
「あの、病弱な令嬢がか……」
『寒いところに出ましたので、咳が少し出てしまっていましたが、それでも子爵を名乗る相手に貴族証明書を要求したり、貴族年鑑を確認するから待つように言ったり、ちゃんと手順を踏んで制止をかけておりました』
「ほう?」
『結局しびれをきらした相手が強行突破を試み、無理やり入って来ようとしましたが、令嬢が卵をぶつけて相手の動きを封じました』
「は? 卵!? 卵ごときで!?」
周りで簡易な食事をとっていた騎士達も驚きの表情でこちらをうかがっている。
『卵の中味は激辛唐辛子や麻痺毒の粉末でした』「!!」
『私と弓兵と令嬢は正面玄関近くの物見の塔に登っておりましたので、風上の上空から卵を投げ、私の風魔法の援護付きでそれをやつらの方へ飛ばし、弓兵が卵を射ると、それは見事に命中し、割れて中味の刺激物が敵に降り注ぎまして、目がーっ! などと、無様に絶叫しておりました』
「おおーーっ!」
「わはは! ざまぁだな! 閣下や我々の留守を狙うクズどもが!」
聞いていた騎士達は、歓声を上げ、拍手喝采が起こった。
『それで相手が目の激痛と麻痺毒の為に戦闘不能になっているところを、待機組の騎士達がなんなく取り押さえました』
「そうか、あの時は適当に聞き流していたが、それで魔法使いと弓兵がどうのと言っていたのか……」
「捕らえた者達は令嬢が近くの牢屋にでも入れておけとのことでその通りにしました。後は公爵様に報告をし指示を仰げとのことでしたが、我々の独自の尋問によればやつは田舎から出てきた没落貴族であり、ギャンブルで起死回生を図るも失敗し、何者かに公爵様と多くの騎士が遠征で留守中なら館の財宝を多少なりともくすねて来れるだろうとそそのかされたようです』
なめた真似を……。
「少なくとも私の留守を知る者がいたのだな」
『はい、そそのかした相手の名はがんとして、明かしませんでした。それどころか、喋ろうとすると契約魔法で縛られていたかのように、首が勝手に締まり、気を失いました』
「ずいぶんキナ臭いな、契約魔法まで使うとはかなりの者か」
『そのようです』
「報告と留守中の警護ご苦労だった。一旦会話を終了する」
『はい、それでは失礼いたします』
魔法の伝書鳥は報告を終え、飛び去った。
「あの仮面令嬢は風変りですが、なかなかしっかりした人のようですね」
側近の騎士が私に声をかけて来た。
「そのようだ、ひとまず被害もなく済んだのだから、帰ったら彼女には何か褒美をやらねばな」
「伯爵令嬢は閣下の婚約者なのですから、お土産でも買って帰りますか?」
土産?
「何がいいかサッパリ分からん、ドレスや宝石にもなかなか手を出さない変わった女ゆえ」
「遠慮深いだけで、実際のところ、花と宝石系アクセサリーや美味しいものならよいのでは?」
「そう思うか?」
「嫌いな女がいるとも思えません」
「確かに果物やハーブ、調味料、美味しいものには興味があるようだった、レシピを厨房に渡していたし」
「そうでした! 令嬢が来てから食事がぐんと美味しくなりました!」
では、帰る時には何か美味しいものでも探しておくか……。