ジュリウス様がお出かけの時はお見送りをしたかったのに私は愚かにも長椅子で寝落ちていた。
気がつけば、朝。
いつの間にか、毛布はちゃんとかけてあった。
メイドは仮面もベールも外して素顔になっていた私をベッドまで運べなかったと見える。
信頼できる女騎士を一人くらい雇用したい。
男性騎士が羽織れないところまで付いてきてくれるだろうし、騎士の力なら私一人くらいはベッドまで運んで貰えるだろう。
それにしても、私ったら、戦いに行く婚約者のお見送りすらせずに薄情な女だと思われないかしら?
そしてメイドの話だとジュリウス様のお出かけと同時に植物学者さんも何処かに帰ったようだった。
ふと、先日の太ももの噛み跡を見て見ようとドレスの裾を自ら捲った。
何故か噛み跡だったのが黒いドラゴンのタトゥーのようになっていた。
「!?」
何故かドラゴン大好きガチ勢みたいなものが太ももに……。
不思議な現象だなぁと、思いつつ、いかにも傷って感じよりはオシャレなんだろうか?
いっそ、このドラゴンを見せつけるようにウェディングドレスは太ももまでスリットのあるものにしておこうかしら?
刻印は所有印みたいなものだとすると……。
ねぇ?
そして顔を洗って、朝の身仕度を勧めた。
着替えの最中でノックの音が響いたので、私は仮面に手を伸ばした。
「セシーリアお嬢様、お目覚めでしょうか?」
伯爵家のメイドの声だったので、起きてるから入ってと返事をした。
「今朝は何処で朝食を召し上がられますか?」
「食堂へ向かってもジュリウス様はもうお出かけでしょうから、部屋でいただくわ」
「はい、他に、本日のスケジュールなどがあれば……」
「それなら、ドレスショップが来るまでは留守を守らねばだし、道具を揃えようと思うの」
「ここの留守は公爵邸の騎士が守るものでは?」
メイドは首を傾げた。
「魔族や敵襲とかで即戦闘ってことになればそうなるでしょうけど、その前よ、問題は。急な来客時とか、先代は既に居ないし、すると公爵夫人候補の私の出番では?」
「あ、成る程ですねー。て、お待ち下さい、魔族の襲撃? あるんですか?」
「先代公爵が魔族と戦って亡くなったのだし、ありえなくはないのでは?」
「ひい……っ」
メイドの顔がさあっと青褪めた。
「だから、なんとか留守を守らないと」
「お、お嬢様、もっとマシな……他の嫁入り先はなかったのですか? その美貌を持ってすれば色々と……」
その美貌が問題よ。
「それが他にはないのよ、私を守れる武力と政治的立場がある、高貴な身分でフリーの男性は! 貴族の婚約は通常早いものだから、特殊な事情がない限り」
「竜血は恐れられていますし、お嬢様は病弱であられた……」
「そうよ」
メイドは諦めの境地の顔をした。
私は彼女に紙の用意を頼んで、欲しいものリストを作成した。この家の執事かメイドに渡せば揃えてくれるでしょう。
「あ、お嬢様、結婚式の日取りを旦那様におしらせしませんと」
「忘れてたわ! 親に婚約と結婚の報告!!」
ちなみに私ことセシーリアの母親は実家に帰っている。実家の母親の体調が悪いので側にいたいとの事で、夫婦喧嘩をしている訳ではない。
もしかしたら、健康に産んでやれなかった私に対する負い目があって、いたたまれなくてそんな理由をつけて実家に帰っている説もあるんだけど。
ともかく親に手紙を書こう。
とりあえず食事が来るまでにささっと欲しいものリストも書いておく。
そして私の書いたリストを見たメイドが訝しんだ。
「セシーお嬢様、なんですか? このリストは」
「刺激物セット」
「刺激物……セット?」
「敵が来たら激辛唐辛子とかの刺激物を詰め込んだ爆弾を目とかをめがけて投げるのよ」
「ば、バクダン?」
「卵の殻のように簡単に割れるものが理想だけど、そこそこの重さがないと飛ばないわよね、飛距離が出せるよう、サポートできる風魔法の使い手や凄い腕の弓兵もいるか聞かないと」
「お嬢様は変わった事を考えられますね……ところでこの塩は何ですか?」
「塩はお風呂のお湯に溶かして使えば、ぽっかぽかになって身体にいいのよ」
そして私は運ばれて来た朝食を食べながら前世の記憶を、必死に思いだすようにした。
公爵家の役に立たねば……。
婚約破棄は回避しないと。
前世の記憶で難民として入ってきた男達が領地にいる女性を襲う事件も、それなりに起きていたはずだ。
この地は冬が長いせいかよく分からないけど、色白美人がけっこう多くいる地域なのだ。
もちろん、狼藉した男達は後から捕まって、厳罰に処されるのだけど、なんとか女性がやられる前にも対策を講じないと……被害者がいなくならない。
やつらは最初はかわいそうな難民のフリをして入って来て、急に本性を現すから、